辺境伯サイド
時は敵の侵攻の第一報が入ったところに遡る。
「伯爵様、国境警備の者より至急の伝令が入っております」
「おう、何だ?すぐに繋げ」
辺境伯の命により伝令役が領主執務室に通された。
「報告します!東の国境ならびに南の国境にて敵兵からの攻撃を現在受けております!」
「おいおい、東と南じゃ方向が違うだろう?東は帝国、南は聖国だろうが。で、どっちが攻撃を仕掛けて来たんだ?」
「いえ、どちらかではありません。両方の国から我が国へ侵攻が開始されました」
「なんだって?チッ、坊主の忠告通りに動きやがったか。面白くねえな。それで、国境の防衛はどんな具合だ」
「はい、敵影から立て籠もっての防御は無理と判断しております。罠と断続的な弓矢で敵の侵入を阻止して時間稼ぎをしております」
「ああ、坊主の作った無人弓だな。水力の歯車で弓を引いて連続発射させるやつだったか。あれがあれば人的被害を出さずになんとか脱出だきそうだな」
「ですが、弾倉の弓矢にも限りがあります。持って一時間ということろではないでしょうか」
「まあ一時間もあれば何とかなるわな。わかった。今から軍幹部を緊急招集してくれ。作戦会議だ。時間は取らねえからすぐ来いって伝えろ」
「了解です!」
伝令が報告を終え下がると同時にお付きの者達が一斉に幹部の招集に動いた。
「それにしても来るのが早すぎるぞ。あと半年はかかると見ていたんだがな。まさかあの二国が同時侵攻を仕掛けてくるとは時代も変わったもんだ」
かつてザリウス帝国とウルセア聖国は隣国同士 何度も戦争をしている。今は冷戦状態にあったのだが犬猿の仲と言ってもいい状態なので共闘などとは普通は思いもよらないものだった。
「背に腹は代えられねえってことか。狙いはセレオンだな。あそこの利権は欲深い奴らには金の成る木に見えているだろうよ」
10分程で軍幹部の招集が完了した。それぞれ既に事態については耳にしているので集まった面々は皆緊張が隠せなかった。
「よし、皆集まったようだな。早速軍議をはじめるぜ。
皆も既に聞いている通り、この国の東と南から敵軍の侵攻を受けている。東はタレネイド子爵、南はエドモン子爵の国境警備軍、領軍が防衛に当たっているが、突破されるのは時間の問題だ。
敵の狙いは恐らくセレオンの陥落だろう。先ずはセレオンを墜としてからそこを拠点としてカーソンに攻め入ると見るのが妥当だ。」
「辺境伯、よろしいでしょうか。この南部領域最大のカーソンではなくセレオンから攻め入るとお考えですか?確かにザリウス帝国はタレネイド領を経てセレオンという侵路は予想されますが、南のウルセア聖国からはエドモン領からこのカーソンに攻め入り我が軍の防御を分散させて攻め入る事が考えられます」
「まあ、軍務大臣の言う作戦も考えられるのだが、問題なのは敵兵力だ。情報によると東のザリウス帝国の兵力が5万、南のウルセア聖国の兵力がザリウス帝国よりも少し上回る程度らしいから6万としよう。
6万でこのカーソンを墜とすのは無理ではないが時間が掛かるだろう。籠城戦は兵力差で決まるとも言われている。長引けば当然王都からの国王軍の援軍がやってくるのは確実なので更に分が悪くなるだろう。
だからこそ二国同時にセレオンを先に墜として、次にカーソン。それも短期決戦で来る筈だ」
「なるほど。そう考える方が現実味がありますね。いやはや恐れ入ります」
「ガハハ。俺も自慢したいところなんだが、この考えはセレオンの坊主の意見だ。あいつはこの事態を早くから予想して俺に進言してきてたんだ」
「セレオン卿がですか?それはどうやって?」
「他国に忍ばせている間者からの情報らしい。それに加えて先に帝国はセレオンの襲撃に失敗している。ウルセア聖国としては辛酸を舐めさせられている状況にあっては共闘を持ち掛ければ必ず乗ってくると見込んだんだろうな。ウルセア聖国としても単独で攻め入る事は戦力的に難しいだろうから二国共闘で確実な勝利を得るチャンスを逃がす手はない訳だ」
「なるほど。そこまで情勢を読んでおりましたか。軍略の専門家の我々も頭が上がりませんな。それで、そのセレオン卿は今どうしておられるのです?」
「ああ、あいつなら国立学院の生徒を連れてセレオンに向かうと言っていたな」
「何故です?セレオンは確実に戦火に巻き込まれる危険な場所のはず。そこに学生を連れていくなんて考えられません」
「まあ坊主の事だ討つ手段は既に持っている筈だ。それにこのカーゾンとて安全とは言い切れんぞ。既に怪しい動きをしている者を何名か取り押さえている。油断しているとタレネイドやエドモンのところみたいにあっと言う間に防衛網を破られてしまうぞ」
「そうですね。しかし、辺境伯は随分とセレオン卿を買われておられるのですね」
「そりゃあそうだろう。この侵攻に対抗する我が軍の最大の切り札が坊主だからな。まあ、敵がどれ程いようが問題ないって言ってからよ、あいつは」
ガハハといつもの笑いを浮かべながら辺境伯は満悦の様だった。
だが、その笑いを止めざるを得ない一報がもたらせることになった。




