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禁術

ザリウス帝国、ウルセア聖国の一般兵達は負傷者の救護活動に追われていた。

セレオンの麓は何もない場所なので負傷者を収容するテントを確保しなくてはならないのだが物資は全て流されてしまったため土砂の中から物資を見つけ出すのに時間が掛かった。

物資の発見を待ってはいられないため暫定的に負傷者は草原地帯に移し、そこで手当てをすることになった。

泥まみれの場所を負傷者を背負って移動させるのはかなりの重労働だ。木の枝を2本探して毛布の両端に通して即席の担架を作って搬送する者もいた。


その様な救護活動を行っている中、異様な光景が目に映った。

損傷の酷い遺体や誰か確認できない首のない遺体が青白く光った後に起き上がったのだ。

近くで救護活動を行っていた兵士は腰を抜かした。


「おい、なんだこれは!」


その問いに誰も答えてはくれない。

明らかに足が欠損しているのに起き上がって動いている姿を見て普通ではないということは誰の目からも判った。死霊術で動くゾンビは肉体と霊体で構成される。行動は霊体の部分でコントロールしている。霊体は宿る肉体が一定の形を保っていればよいので欠損の有無は関係ない。しかも行動については霊体が浮遊させているので足を使って歩く必要もなかった。

音もなく浮かび上がって動くその姿はどうみても幽霊そのものだ。

そしてゾンビ兵は物理的な攻撃は行う必要はなく、敵の魂を吸収するだけだ。いくら魂を吸収したとしてもゾンビ兵が生き返ることはない。手当たり次第終わりなく魂を喰らい尽くし相手を殲滅し続ける。


この死霊術は禁術として使用する事が禁止させている。人道的・倫理的な事も理由なのだが、何よりも危険すぎるからだ。各国は暗黙の了解でこの術の行使を禁止してきた。


「あれは死霊術ではないのか!」


ザリウス帝国の一人の将校がそう叫んだ。


「死霊術だって?あれは禁術扱いだろう?誰が発動させているんだ?」


「こっちではなくセレオンに向かっているから同胞の誰かだろう」


兵士達は混乱した。そして混乱の後に怒りが込み上げてきた。

あのゾンビ兵達は自分達の仲間の兵士だった者達だ。死者の尊厳など全く無視した行為を目の当たりにして平然としていられる訳がない。


「誰が操っている!見つけ出して止めさせろ!」


兵士たちが血眼になって周辺を見渡すが術者と思わしき人物は見当たらなかった。

この死霊術は一度発動さえすれば勝手に行動するので術者はすでに姿を隠していた。


ゾンビ兵達はゆっくりと丘陵の坂を上っていく。


「エディ、下から何やら登ってきてるみたいよ」


学院の人たちと様子を見守っていたエディのもとにユキノがやってきた。


「はい、異様な気配は感じています。姉さん、あれは何だか判る?」


「霞の情報ではあれは死霊術らしいわ。禁術となっている死者を動かす術ね」


「全く何を考えているのやら。死者の尊厳はないんだろうか?」


「それは私も同感だし、敵の多くの兵も同じみたい。今、手分けをして術者を探し出してるけど、見つかってないみたいね」


「うむ・・・死霊術・・・」


「どうしたの?エディ。考え込んで」


「いや、どう対処したものかと思って。ナノマシーンを使って重傷者や死者の多くが助かったけど、今のゾンビ兵はどうにも手の施し様がなかった人達だから・・・」


「このままじゃ可愛そうよ。成仏させてあげなさいよ」


「成仏って?」


「ああ、こっちではそいうのないのかしら。私の居た世界では死んだ人は極楽浄土といってあの世にある世界に行くと言われているの。でも、この世に未練があったり魂がこの世に残ったままだとその世界に行けずに彷徨い続けるのよ」


「それってこっちではヴァルハラに帰るという意味だよ。姉さんが言った意味とほぼ同じだと思うよ。

そうだね。死んで自分の意思と関係なく戦争に使われるなんて可哀想だよね。わかった。それじゃあ成仏できるようにしてみるよ」


エディは分析とビットの索敵でゾンビ兵の状況をサーチした。


「ゾンビ兵は、だいたい300体くらいいるね。それ自体戦闘能力はないんだけど、どうやら生者の魂を喰らい続けるらしいよ。これ、放置してたらすごく大変なことになりそうだ」


「そうね。そんな恐ろしい能力ならセレオンに浸入させてはいけないわね」


「ターゲットのマークは全て完了してるから」


「まだ全容も見えないのに相変わらず凄いわね。敵に回したくないものね」


「あはは、敵にだなんて。姉弟喧嘩するくらいだよ」


恐らく姉のユキノはエディの気を紛らすために声がけをしてくれたのだろう。エディはその気遣いがすごく嬉しかった。


「ぞれじゃ、開始するね」


エディが指示を出すとナノマシーンから術が放たれた。使った術式は分解だ。ゾンビ兵の肉体も魂も分解によって跡形もなく消え去っていった。

魂も消滅したので怨念として残ることもないだろう。


「どうやら成功したみたいだね。全て消え去ったよ」


「ありがとう。辛い役をさせてしまったわね」


「大丈夫だよ。僕がやらないとセレオンの多くの人の命が奪われることになるからね。

それと、まだ終わりじゃないよ」


「終わりじゃないってどういう意味?」


「こんな忌まわしい術を使う人たちにはそれなりの制裁を受けてもらわないと」


いつも温和なエディは全身を震わせ怒りを露にしていた。一番長い付き合いのユキノでさえそんなエディの姿を見るのは初めてで驚いた。


ウルセア聖国のネクロマンサー達は戦場から離れた安全な場所に退避している。自分達が放ったゾンビ兵がセレオンの人達の魂を狩り尽くすのを見届けるのにはまだ時間があるのでそれぞれがテントを張り待機をしている状態だった。

エディは忌まわしい術を発動した痕跡を手がかりに術者の特定をナノマシーンに行わせていた。

ここは他の地ではなくセレオンの領地内だ。無数に放たれたナノマシーンを逃れることは不可能だ。方々からの情報がエディに集まっていく。


「南東約10キロの地点にネクロマンサーが固まっているみたいだね。その数、50というところかな。さてと、彼らには相応の罰を受けてもらうとしよう」


エディはナノマシーンに念じた。ナノマシーンからは術式が発動される。

この術式が発動してもネクロマンサー達には何ら影響は出ていなかった。痛みも苦痛も何もない。

本当の苦痛はこれからの人生だ。エディによってネクロマンサーの体内の魔孔が消去された。魔孔とは体内の魔素を魔法や才に変換するための通り口だ。それが消去されたということは体内に魔力があってもそれが伝達されて発動することが出来なくなるということだ。

これにより今後一生彼らは魔法や才を使う事ができなくなった。。それをこれからの人生でじっくりと体感することになる。無能と人々から虐げられながら。


今回の発端である教皇にも相応の報いを受けなければならない。

ネクロマンサーの様に魔法の発動は行っていないのだが教皇の居場所の特定は容易かった。聖国軍の中で一番安全な場所、一番多くの護衛を受けているものが教皇だ。

多くの者が戦って疲弊しており、食料物資も流されて充分に行き渡らない状況なのに教皇の陣だけは別世界だった。

煌びやかな毛足の長い赤い絨毯に金箔がちりばめられたテーブルや椅子、センスを疑われるような成金調度品に囲まれてぶくぶくと太りきった教皇はステーキを食べている。


「もうすぐセレオンは儂のものだ。失ったものは大きいがこれからそれ以上に稼げるからな。しばらくの間は上納金も”復興”を名目に上乗せさせるとしよう」


血のしたたるステーキ肉を頬張りながら教皇は今後自分達にもたらす富について考えていた。


先程まで人相の悪い笑いを浮かべていた教皇の様子がおかしくなった。

”なんだ?肉の味がしなくなったぞ?儂はフォークとナイフを持っておった筈だ?何故暗く何も見えなくなる?どうしてこんなに静かなのだ?”


教皇は心の中で叫んだ。既に声を出して叫べなくなっていたのには気付いていない。

強欲な者に対しての制裁は五感を奪うというものだ。

ナノマシーンにより脳の中枢で視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の全てが遮断された。

更に声を出せない様に声帯も消している。

何も見えず静寂な暗闇の中、何度も周りに体をぶつけながら巨体は転がりまわった。


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