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天罰

突然サイレンが鳴り響いた。もちろんこの世界の人は初めて聞く音色だ。

一定の音が鳴り続ける異様な光景に誰もが不吉な予感を感じていた。

このサイレンはみのるから聞いた知識を具現化したものだ。手動で風車を回す仕組みを魔道具で風を発生させて音が出る様にしている。


どれくらいサイレンが鳴り続いていただろうか。突然鳴り止んだ後でも耳にその耳障りな音が頭の中で鳴り響いている。

ようやく鳴り止んだ不快な音にホッしたところで突然地響きが響き渡った。

そして上方ではゲートが開放されて大量の水が勢い良く放出された。

セレオンは都市自体が巨大な貯水タンクの様な構造になっている。水源の多いこの地方は

降雨量も多くその水を都市の地下の貯水タンクに貯めておくことで生活用水や工業用水に活用している。

ちなみにこの貯水タンクが空になったとしても周辺の川から塞き止めているゲートを開けば貯水タンクに溜まる仕組みになっているため干ばつで川が干上がらない限り心配することはなかった。


放流という生易しいものでなく文字通り放出だった。セレオンを構成している丘陵地自体がこの放水のための流れ道として作られている。抵抗となる遮蔽物がないため水の勢いは下に下りる程加速的に速まり、勢いのついた水は鉄砲水となって下へと押し寄せる。途中全てを巻き込んで土石流となった流れは兵士も兵器も全ての物を飲み込んで下流へと押し流していった。

円錐上の上に建てられているセレオンの街は水が兵器となるのだ。坂を下る様に水の勢いは収まるどころか更に加速がついて勢いが増していく。多くの兵士が水の中で息が出来ずに窒息死、そうでなくても押し流される物に巻き込まれて圧死など様々な理由で死傷者が増えていった。


攻城戦を想定して兵站部隊や食料物資など直接戦闘を行わない部隊も含めて全ての兵士が3km下まで流され、水の勢いに逃げ延びれた者はいない。全員が勢い良く流されたので陣頭指揮をとっていた指揮官も既に見当たらなくなっている。運が良く助かった者達も全身泥だらけの満身創痍の状態で何かの行動を起こす気にもなれなかった。

10万人いた敵兵は死傷者数はほぼ全てといってよい。死者の数は不明だが半数以上だろう。まだ息のある者も多くいる。

海の様な障害物のない場所では相当流されても呼吸が出来れば命に関わることはないのだが、陸地の場合はそうはいかない。流される者たちがお互いぶつかり合い傷ついていく。

兵士は全員傷だらけ、泥だらけとなっている。殆どの者が倒れたままなのでどれが負傷者でどれが死者なのかの判別がつきにくかった。


人道的にエディはこれ以上の攻撃を仕掛けるつもりはない。敵があきらめて撤退してくれればそれで良いと考えていた。


「なんだ?今のは?」


「あれだけいた敵兵が影も形もなく居なくなったぞ」


「どこからあれだけの量の水が出てきたんだ?」


一部始終を見ていた生徒達は起こった出来事が信じられなかったのだが夢ではなく現実だということだけは判っていた。


「セレオン卿、今は何なのですか?」


質問をしたのは王女だった。


「このセレオンの地下には大きな貯水層があります。普段は雨が降った際の雨水を貯めて、生活用水や工業用水に利用するためのものなのですが、有事の際にはゲートを開放して先程の様な水攻めに使うことも出来ます」


「貴方はこの状況を想定してこの街を作ったというのですか?」


「はい。時期は判りませんでしたが、過去の歴史を見れば明らかです。豊かになれば狙われる。略奪の歴史の繰返しですからね。僕に言わせればその攻撃する労力を自国の発展の為に使えばよいと思ってます」


「新たなものを造ったり、改革するよりも奪う方が簡単ですからね」


「今まではそれで成功していたから次も成功すると思っているのでしょうね。今回の攻撃は見せしめという訳ではないですが、略奪行為には高いリスクがあるということを理解して欲しかったというのもあります」


「ですが、多くの命を奪ってしまいました」


「いえ、まだそうとは決まった訳ではありませんよ」


エディは遠方の敵軍を見ながらそう呟いた。王女はエディが何を言っているのか全く判らなかった。


セレオンの麓では敵兵が仲間の救護を行う即席の野戦病院の様なテントを立てていた。

そこに重症者が運ばれている。息を引き取ったものはまだその場から動かされていない。

とりあえず助かる命を優先したかったのだ。


だが、不思議なことに放置されていた遺体が生き返るという奇跡があたりで頻繁に発生していた。それは仮死状態にあった者たちではない。確実に心肺が停止し、死に至った者たちだ。


敵兵には奇跡が起こったとしか思えなかったこの光景はエディによるものだった。

だが、エディ本人はセレオンで王女や学院長達と話をしている最中。何もする気配はない。


この奇跡を起こしたのはエディの最新型ビット、5号機の活躍によるものだった。

先の4台とは異なり、5号機は支援タイプとなっている。支援の中に生産も含まれており、高度な製造マシーンも兼ねている。

5号機自らが研究開発して作り出したのがナノマシーンだ。ナノサイズの超小型ロボット達は魔法刻印が施されており、魔法の中継伝達や増幅をその役割としている。

エディから授かった時間操作の刻印。これは指定した部分のみ一定時間だけ時を遡ることが出来る。

無数のナノマシーンが敵兵に入り込みこの損傷部位の復元をして回っているのだ。

遺体の損傷度合いの酷い者や時間が経ち過ぎた遺体は手の施し様がないのだが、ここに眠っている遺体であれば修復が可能な状態が多かった。

5号から大量生産されたナノマシーンは億単位の数なので空気中に拡散して片っ端から治療にあたっていた。


ナノマシーンによって蘇った者の中に敵の指揮官もいた。


「・・・俺は助かったのか?」


自分の体や手足を見ると全身泥だらけで無数の小さな傷がある。その痛みはあるのだが、不思議と致命的な怪我はなかった。鋭利な物が刺さっていたであろう服の破れと出血により黒く血が滲んでいる部分には怪我が存在していなかった。


「司令官!ご無事でしたか!亡くなられていると誤報があり皆意気消沈しておりました」


「私にはさっぱりわからん。一体どうなっているのだ」


「はっ。突然大量の水が押し寄せ我が方の全員が麓のこの地点まで押し流されました。被害は甚大で死者負傷者多数となっておりました・・・のですが、完全に死亡と判断された者たちが続々と生き返っているのです」


「私もその一人ということか・・・ひょっとしてゾンビになったとかではないだろうな」


「ご自身をご確認いただければお判りかと思いますが、致命的な負傷部分のみ回復しており死因が取り除かれたところで蘇生したのではないでしょうか。蘇生した者の中にはそのまま立ち上がれる者も居れば重傷で治療が必要な者もいるみたいです」


「そうか・・・俄かに信じられん事だが、何者かの意思で生かされたということになるのか・・・」


司令官の死因は腹部の刺し傷だったのでその部位が完治したため立ち上がる程度には回復していた。司令官はそれを確かめるかの様にその場を歩き回り自身の目で確認して回った。


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