まさかの転入生
国立学院に新たな期がはじまった。4月から始まる1期、2ヶ月の夏休みを挟んで始まる2期、年明けから始まる3期と年に3つの期に分けているのは現世を同じだ。
夏休み明けということで久しぶりに顔を合わせる生徒達も日に焼けていたり少し大人っぽく見えたりしている。
国立学園は入学年齢を指定している訳でなく、13歳以上なら入学資格があるため学園での年齢には幅がある。最年少の13歳だと成長期真っ盛りなので2ヶ月という期間で様変わりするのも珍しくない。
「久しぶり!エディ。お?背が伸びたんじゃないか?」
「エディ君ひさしぶり!ホンとなんだか大人っぽくなった感じだわ」
クラスメイトもエディの変化に気づいて声をかけてくる。エディはクラスで最年少であり、背も低い方だったのだが、この2ヶ月で身長は5センチも伸びたのだ。実は今までキャセリーヌより少し低かったのだが、ここに来て追い抜く事が出来て安心しているのは男のプライドなのか。
クラス中で久しぶりの再開と夏休みの出来事で賑わっていた。
そんな中、一人憂鬱な顔をしているのがエディだった。
「エディ?どうしたの?浮かない顔をして」
そんなエディを見てキャセリーヌが心配して声をかけてきた。
「うーん、なんていうか・・・その原因がもうすぐやってくると思うよ」
エディの言葉を理解出来ないキャセリーヌは問い正そうとするが、教室のドアが開かれてそれは適わなかった。
ドアから入って来たのは担任のカレンとその後ろに立つ美人の少女だった。
クラス中の皆がその少女に釘付けだった。顔姿や身なりから放たれる高貴な印象からその少女は単なる少女ではないとこが想像できた。
「はい、皆さん、静かにして。今日から二期がはじまりますが、二期から編入する生徒を紹介します。自己紹介は本人からしてもらいましょうかね」
「わかりました。皆さん、はじめまして。王都からやってまいりました、エトワール・ナルタニアです。宜しくお願いします」
少女は挨拶と同時にスカートを摘んで軽く膝を折った。優雅な貴族の挨拶だ。
その挨拶を聞いてクラスの中にざわめきが起こった。
「先生・・・今、ナルタニアって・・・」
一人の生徒が自分の聞き間違いじゃないかとカレンに質問した。
「はい、間違いじゃありませんよ。彼女はエトワール・ナルタニア。この国の王女殿下よ。この学院では身分は関係ないので皆さん仲良くしてあげてね」
「私の事はお気遣いなくクラスメイトとして接してくださいね」
静まり返ったクラスだが言葉を失った生徒達が我に返って騒ぎ出すのにそれ程時間はかからなかった。
「エディ、これってどういうことです?ひょっとして知っていましたか?」
キャセリーヌに聞かれたエディだが、当然ながら情報として知っていた。
エディは昨日学院に呼び出しを受けて学院長室へと足を運んでいた。
「失礼します」
「セレオン卿、学院は明日からなのに呼びたてしてごめんなさいね」
「いえ、それは構いませんが、学院長からの呼び出しとは何かとずっと考えていました」
エディには全くもって思い当たるフシがなかった。
「突然で申し訳ないのですが、明日から編入する生徒の面倒を見てあげて欲しいのです」
「この学院に編入生ですか?珍しいですね?」
「本人の強い希望によるものです。最初は前例もないので断ったのですけど・・・」
「強引に押し付けられたと?」
「その通り。国王陛下からのお願いとあっては国立学院が断れるわけがありません」
「国王陛下?」
エディはものすごく嫌な予感とある一人の人物の顔が思い浮かんだ。
「編入されるのはエトワール王女殿下です。是非この学院で学ばせてあげて欲しいと」
エディは当たって欲しくない予感が当たって頭が痛くなってきた。
「王女殿下は学院への適正はあるのですか?」
「こちらに届いた情報によるとある程度の基礎は王宮で学んでいたそうです。あとはご自身の能力に応じた授業になるのですが問題はなさそうです」
「そうですか。状況はわかりましたが、なんで僕なのですか?他にも成績優秀な生徒会の人達がいるじゃないですか」
この学院には生徒会が存在する。生徒会は基本的にSクラスの中から選抜される。エディは当初Sクラスに入る予定だったが、常識を含めてAクラスで学んだ方が良いということでAクラスに編入されたため、Sクラスや生徒会との面識は無い。
「私も貴方の言う事が正しいと思います。出来ればそうしたいものです。それが出来ないのは王女殿下の指名であなたの名前が出てきたからです。私もセレオン卿の名前が出てきた時には驚きました。それで貴方、また何かやらかしたのですか?」
エディはこの夏休みに起こった一連の出来事について学院長に説明をした。
「あなたの事ですから決して大人しくは過ごしていないだろうとは思っていましたが、そんな事になっていたとは・・・」
「王女様とはもう会う事はないと思っていたのですが、まさか向こうから学院にやってくるとは思っていませんでした」
「あの戦闘狂と言われている王女殿下が殿方にご執心とは驚きですね」
「他人事の様に言わないで下さいよ、学院長」
「いずれにしても学院としては決定事項なのでセレオン卿には従っていただきますよ」
「でも、僕は一体何をすればいいのですか?」
「王女殿下の授業や学院生活のサポートをしてもらえばいいのですよ」
「そういうのって普通同性の人が付いてサポートしますよね?」
「まあ、普通はそうでしょうけど、今回は指名なので仕方がありません。諦めて下さい」
「何も問題が起こらなければいいのですけど・・・」
「縁起でもないこと言わないで下さい。私は無事平和に定年を迎えたいですからね」
学院長の本音が出てきたのだが、エディは平和でこのまま定年なんてムリだろうと心の中で呟いた。




