宰相の悪巧み
王都郊外にある貴族の屋敷、一見すると普通の貴族の屋敷の様に見えるが異なるところといえば警備の数の多さだった。
重装備の兵が何人も配置されており、何かを常に警戒しているかの様な物々しさだ。
この屋敷の主は恰幅の良い姿をしており、着ている服でも格の高さがわかる。
豪華さが一際光る応接の間で応対している相手は聖職者の様な恰好をしているがこちらも身分は高い様な装飾が施された衣装を纏っている。
「宰相殿、いささか風向きが悪くなってきましたな。当初の思惑ならばカーソンは帝国が浸入して混乱に陥り、それに乗じて我が国が漁夫の利で落としにかかるというものだったのが、帝国が失敗した上に王都まで活気が出てくる始末。これでは我々の目的とするものは得られそうないではないですか」
「うむ。あれはこちらとしてもも予想外だったのだ。どちらの件もセレオンの小僧が関わっている。あの小僧さえいなければ上手くいっておったのだ」
「セレオンの小僧というのはセレオンの領主でしたね?その子供はそれほどの影響力があるのですか?」
「かなりの影響力があると見ておる。なにしろ工業都市ひとつを一夜で作り上げてしまう程でな。国王も資源活用などで貢献してくれたと喜んでおり准子爵の地位を授けただけでなく、王女の婿に迎えたいと申しておる。流石にこれには賛同できぬで猛反対したがの。とにかく今この国で一番勢いのある勢力といっても良いだろう」
「噂には聞いていましたがそれ程とは。高すぎる能力は今後我らにとっての脅威。早めに消してしまうのがよろしいでしょう」
「それは私も考えてはおる。だが、あ奴は辺境の暴れ馬の庇護下にあってな。なかなかその機会がないのだ」
「救国の英雄ですか。それは難儀ですな。我が国も彼が辺境伯として南に睨みを利かせているので迂闊に踏み込む事が出来ないですからな」
「だからと言ってこのまま指を咥えて見ているだけにはいかんからの。何か良い手はないものか」
「そうですね。セレオンだけでなくカーソンを含めて落としにいきましょうか?。この二つの憂いが無くなれば我々も動きやすくなります」
「其方先程カーソンは暴れ馬がおって攻められぬと言ってたでわないか?」
「もちろん、ウルセア聖国単独なら無理ですが、ザリウス帝国と二国で同時に攻め入るとしたらどうでしょう?流石のカーソンも二国同時の軍事力を前にしては持ちこたえられますまい」
「なに?そんなことが可能なのか?ザリウス帝国も動くのか?」
「まだ確定ではありませんけど、ザリウス帝国も作戦の失敗に尾を引いて次の侵攻作戦に移るのに時間が掛かるはずです。こちらとの共同戦線を申し入れれば向こうも否とは言えないでしょう。今はこちらから密使を送って向こうの返事待ちといったところです」
「うむ・・・確かに有り得る話だな。だが、カーソンとセレオンとには相応の軍備があるはずだ。損害も相当なものになるのではないか?いくら戦いに勝ったとしても被害が大きければマズイのではないか?」
「それも心配に及びません。内部に手引きをする者の目星をつけています。国境警備も内側から開門するとは思ってもいないでしょう。国境の防御さえ突破すればあとは雪崩の様に軍勢で押し破るだけで被害を最小限で陥落させることは難しくはないでしょう。もちろん我々に協力する者を既に潜入させております」
「ウルセア教の最高司祭殿もなかなかの策士ですな。そこまで動かれているとは感服しましたぞ」
「自らの国を崩壊させようと企む宰相殿も似た様なものですぞ。現国王が知ったらさぞお怒りになるでしょう」
「ふん、無能な国王の血筋などこの手で終わらしてくれるわ。事が上手く成せば貴国への便宜は図るつもりだ。今はその程度の事しかしてやれぬが何れ儂の国となれば思うようになるからの」
宰相は悪辣な顔で高笑いをした。
「我々としてはウルセア教の布教を貴国に認めてもらうことが最大の褒美となりましょう。貴国を足掛かりに多くの国へ布教を広めていくという長年の祈願が達成されることになりますからな」
「うむ、互いが交流をすれば生まれる利益も大きいだろう。その利権を掴んでおけば巨万の富を得たに等しいからな」
この恰幅の良い私利私欲の塊の様な男はこの国の宰相ロドリゲスだ。一方の話し相手はウルセア聖国の最高司祭カラレス。
この会話からも判るのだが、宰相は国を裏切り現国王を失脚させ自分が国王となろうとしている。しかも事もあろうか他国と協力してこの国を混乱へと陥れようとしているのだ。
屋敷の警備の厳重さはこの会談を秘密裏に進めるための警戒だった。
残念ながら宰相を悪巧みを王国内で知る者はいなかった。




