ユキノと試作品
翌朝、朝食を済ませた後でエディはミノルから預かったメモをユキノに見せた。
空間収納から取り出したメモはエディには理解できない言葉で綴られていた。やはり夢の中では理解できてもこの世界では無理な様だ。それが確かめらただけでも収穫があった。
「これがミノル君のメモなのね。懐かしい・・・日本語だわ・・
そして、彼からの質問が、どの国へ向かっていたフライトかってことね。
えっと・・・確か日本の羽田から飛び立ってフランスのパリっていうところのド・ゴール空港への直行便だったはず・・」
「それってミノル君のサルベージしていたイタリアっていう国の上空を通るの?」
「うーん、どうかしら?詳しくないので判らないけど、直接上空は通らないんじゃないかしら?でも近い位置ではあったはずよ」
「そうなんだね。ひょっとして姉さんは遺物に反応するのかな?ちょっと試してみていい?」
エディはミノルから預かった遺物の一つを空間収納から取り出した。
正確には取り出そうと思ったのだが、遺物から異常な波動を感じて取り出す寸前で出さなかった。
「なんだかすごい反応してるよ!これ、出すとなんかマズイ予感がする」
「ええ!?そうなの?大丈夫??なんだかよくわからいけど」
「うん、これはちょっと調べてからにした方がいいね。恐らく姉さんと遺物は無関係じゃなさそうみたいだから」
「別にどうしても戻りたいっていう訳でもないから絶対無理しないでよ」
「うん、わかったよ。ミノル君と相談してどうするか考えるよ」
遺物の件は一旦保留として次の話題へと切り替えた。
「話は変わるけど、姉さんに見てもらいたいものだあるだ」
エディは別の部屋から一台の試作機を持ってきた。
試行錯誤の上で完成したのがビット1号機だ。
「それが前から言ってた試作品?」
「うん、ビット1号機だよ」
「・・・どうみてもラグビーボールね・・・」
エディが試行錯誤で作り上げた試作品の形は知る者が見ればラグビーボールと言ってしまうだろう形と大きさをしていた。
さすがに色は茶色ではなく白色をしている。
「どうしても大きくなっちゃってね。処理項目が多くて術式刻印の多層化を実装するとこれくらいになってしまうんだよ」
「技術的なことはチンプンカプンだけど、これって飛ぶの?」
「うん、ちゃんと浮き上がるよ」
エディはそう言いながらビット1のスイッチを入れた。
ビット1は全体が薄く光って音も無くその場に浮かび上がった。
「へえ、ちゃんと浮いてるじゃない。さすが我が弟君ね。
それで、これがエディのこと守ってくれるの?」
「今のところ僕のいくつかの命令と自動で護衛をする機能を持たせてあるよ」
「そうなのね。どんな命令が出来るの?」
「指定した対象のへのサーチと攻撃、あとは僕に対する脅威からのプロテクトだよ」
「試してみてもいい?このコップをエディに投げたらどうなるのか見てみたいわ」
ユキノが手に持ったのは結構な重量感のある大きめのマグカップだった。
「あ、ちょっと待って。まだ駄目だよ。ビット1、脅威度0、対象から排除・登録・・・・」
”ピポッ”
「うん、これでいいよ」
「何をしたの?なんか鳴ったけど」
「ビット1に姉さんを敵ではないと認識登録したんだよ。これをやらずに姉さんが僕にコップを投げたら、脅威対象として攻撃されちゃうから」
「・・・なんて物騒なの。っていうかもう少しで投げるところだったわよ。それで投げてたらどうなってたの?」
「高密度量子ビーム砲の直撃を受けて消滅してる・・・かな?」
「かなって何よ!それじゃ死んじゃうじゃない!なんて物騒な物作るのよ!」
もう少しで存在が消えてしまいそうになっていた事実を告げられてユキノは足の力が抜けてその場にへたり込んだ。
「そうだね。初の人体実験になるところだったね。って、冗談だよ。そんなに睨まないでよ。ちゃんっと出力は最小にしてるから軽い衝撃が走るだけだったから」
「でも、出力次第ではそうなってしまうのね。恐ろしいわ」
ユキノは宇宙戦争映画に出てきたレーザー銃を思い出した。打たれた相手は分解させれて床に粉末状の残骸のみになる場面が頭に浮かんできた。
絶対大丈夫だからという約束を何度も確認してユキノはエディに向けてマグカップを投げたらエディにぶつかる1メートルくらい手前でマグカップは赤く光り消滅した。
「これって発熱して消えたの?」
「うんん、確かに熱に分解もされるけど分子レベルに分解されたんだよ。僕の分解の能力と似てるけど、こっちは物理的にそれを実現させているっていう感じになるよ」
「これがあればどんな敵に襲われても安心じゃない」
「うーん、それがまだまだなんだよね。さっきみたいな固形物を一個とかなら問題ないけど、無数に放たれたものには追いつかないから。
ビームはある程度連射できるけど、連射を撃ち終わると再チャージ時間が必要になってくるから、無数に来られると防ぎきれないから。あと固形でないもの、液体や気体の攻撃に対しては万全とは言えないからね」
「あら、そうなのね。それじゃあ弱点を知られるとマズイわね」
「まだ最初の試作1号機だからね。改良を重ねていけば何とかなると思うよ。あと課題はこの大きさだね。かなりの数の術式を詰め込んでいるから刻印のための魔石を載せるスペースが必要なんだよ」
「魔石って丸い形をしているのよね?」
「うん、その丸い表面に術式を刻印として刻み込むんだ。術式の数が多くなると魔石の数も比例して増えるから」
「良く判らないけど、魔石って丸でないといけないのかしら?」
「丸やたまご型をしているのは核から刻印に魔力供給すために都合がいいからだけど・・・姉さんはどんな形がいいと思ったの?」
「私の居た世界の話なんだけど、今の魔石の使い方に似たものとして電子基板というのがあったの。携帯電話っていう通話するための機械があるんだけど、手のひらに収まるくらいに小さかったの。その限られたスペースの中で基板は何層にも積み重ねて対応させたそうよ」
「なるほど、板状にするという発想はなかったよ。コアからの魔力供給をどうするかを考えないといけないけど、板状であれば刻印も多く刻めるし、両面使えば更に増えるから・・・これはいけるかも?」
ユキノの何気ないアドバイスがエディの研究に大きく影響するきっかけを与えた。




