研究課題
夏休みの終盤はセレオンで政務をこなしながらラボで研究という二束の草鞋状態が日課で過ごしていた。
学院がある間は領主代行のトーマスにその役割の代行をお願いしているのだが、将来自分に引き継ぐ際に少しでも現状を理解しておいた方が良いと屋敷にいる間は政務を積極的に行う様にトーマスから依頼されていた。
特に外に出ることもなく屋敷に篭っていたのでイベントらしい出来事は起こらず仕舞いだ。
エディも研究課題の魔石刻印とプログラミングについて思考を張り巡らしていて頭の中はそのことで一杯だった。
自分の護衛として複数のビットを飛ばす。この目標に対して浮遊させることは重力魔法の刻印で成立する。攻撃手段は光魔法、防御は各属性を臨機応変に起動させることで対応させた。
問題なのはそれらの動作を指示することなく自己完結で動かすことだった。自分で操作するというのは単発なら問題なく、複数でも徐々に慣れれば台数は増やせそうだが、今やろうとしているのは指示を与えなくても自己判断で機能するものだ。
「人の思考能力を機械に移植するなんて難しすぎる・・・」
エディは大きな壁にぶち当たり、ここ数日その解決方法が見出せずにいた。
動物や昆虫など小さな生き物にも思考というのが存在しているのだから機械に備えることも可能なはず。と自分に言い聞かせてやってきたのだが、魂や精神という心霊的なものを考えており、どう手を付けていいのかさえ判らなかった。
「ミノル君はいきなり全知全能ロボットなんて無理だから最初は簡単な命令を聞くだけでも良いって言ってたね。でも、命令をどうやって認識するんだろう?」
一つ何かを行おうとすると一つ新たに疑問が出てくる。これの繰返しだった。
ついに考えがまとまらずギブアップしたエディはミノルにヒントを求めることにした。
「随分と悩んでるみたいだね?最初は自分で考えた方がいいと思って任せたけど難しかったかな?」
「うん、もう降参します。一向に解決の糸口すら見つからない状態です」
「なるほど。で、何がわからないの?」
「命令を実行させるっていうやつです。こちらの言葉をどの様に認識するんでしょうか?」
「そうだね、まず人間の行動をそのまま当てはめようと思うから難しくなってしまうのを理解しないといけないね。
命令を理解するというのは人の言葉を理解すると考えるから難しくなるんだよ。
まず、人の言葉。これの特徴を考えるんだ。言葉をデータ化する考えで言葉毎に波形という音波が異なっているから、その違いを読取れれば言葉は理解できるという仕組みだよ」
「音波ですか?」
「うん、僕の世界の事教えた時にも出てきたでしょ?」
「テレビでしたっけ?動く絵の箱」
「そうそう、あれも原理は一緒だよ。映像信号と音声信号をそれぞれ電波という形で受け渡しして映像と音声に変換するんだよ」
「その波長をパターンとして登録しておけば登録した分だけ命令として使えるってことかな?」
「だいぶ理解してきたみたいだね。パターンAの場合は”座れ”パターンBの場合は”立て”とかね。命令の一致不一致を判断させる術式があれば都度判断できるよ」
「なるほど。少し見えてきたかも?その命令の部分を事象に置き換えたら自立も可能になりますかね?」
「もちろん。命令がなくても状況判断する様にすればいいよ。大変だけど、条件や規則を積み上げていけばいいから。あと敵味方の認識かな?」
「それは難しそうですね。服装とかですかね?」
「それもあるけど、識別コードで区別すればいいよ。市民は住民登録をした際に識別票を首に掛ける様にしていけど、この識別票を検知して敵味方を区別するのが手っ取り早いね。偽造は技術的に不可能だし」
「スパイが住民に扮して登録したらどうなります?」
「登録自体は出来るだろうね。だけど、その後に悪意や敵対行動を取れば認識票がそれを感知して知らせるから大丈夫だよ」
「なんだかすごい技術ですね」
「今話したのはちゃんと稼動したらの話だからね。それを実現されるのはエディだから。頑張ってね」
エディはミノルのヒントを咀嚼してどうやったら実現出来るかを考えていった。ある程度はラボで考え、続きは夢の中で行うことにしている。
先日のユキノとの話を思い出したエディは空間収納からメモを取り出してミノルに見せた。
「ミノル君、ユキノさんの話なのですが、転移した前後の情報をメモに記しました。見てもらえますか」
「どれどれ?」
ミノルはエディのメモを見た。本来ならば言語もまったく異なる世界なので字を認識できるわけがないのだが、この空間では言葉が話せたり文字が読めるのが不思議だった。
「ユキノさんは旅行中で飛行機の機内で寝ている時に転移したんだね。で、その飛行機はどこへ向かってたんだろう?」
「えっと、旅行の休みを二週間くらいとって遠くの国々の文化を見て回るのに行く途中だったと言ってました」
「二週間となると近隣諸国ではないね。アメリカとかオーストラリアなら国々とはいかないだろうから、ヨーロッパかな?」
ミノルはユキノの言葉からヒントになるものを考えてみた。
「あくまでも想像でしかないけど、やっぱりユキノさんと遺物とは無関係ではなさそうだね」
「やっぱりそうなのですか?」
「うん、ユキノさんと遺物が何らかしら要因で反応したんじゃないかと考えるよ。今の言葉だけじゃ情報不足だからエディからユキノさんに詳しく話を聞いておいてくれるかな」
エディはメモを取りミノルからの質問を書き記していった。




