キャセリーヌの不安
夏休みの一大イベントだった自由市も無事終わった。
打ち上げの翌朝、二日酔いでダウンする者が多い中、酒を飲まないエディは気分の優れないユキノを抱えながらセレオンへと戻った。
「久しぶりに飲みすぎちゃったわ・・・」
「姉さんにしては珍しいよね?普段ならどんだけ飲んでも大丈夫なのに」
「・・・なんだか昔を思い出しちゃってね」
「昔って、元居た世界のこと?」
「うん、そう。仕事の職場仲間たちと仕事が終わったら昨晩みたいに飲んで騒いでたことを思い出したら、なんか飲まずには居られなくなっちゃってね」
「そうなんだ。姉さん、やっぱり帰りたい?」
「うーん、どうだろう?帰るとなるとエディとはお別れになっちゃうでしょ?一番の心残りはやっぱりそれかな?でも帰れるわけないよ。もしもの話だからね」
「そうだね。なんとも言えないけど、ひょっとしたらミノル君の見つけた遺物が関係してるんじゃないかって思えてさ。って、期待させて違いましたじゃ悪いんだけど」
「本当に関係あるのかしら?私には何がなんだかわからず気が付いたらここに居たのよ」
「その時、姉さんは向こうで何をしていたの?」
「寝てた・・・多分。よく覚えてないけど、旅行をしていて移動中に飛行機の中で寝てたのよね。で、目が覚めたら飛行機の機内じゃなくて見た事のない世界に立ってたから驚いたなんてものじゃなかったわ」
「その情報も手掛かりとしてミノル君の参考になるかも知れないね。もう少し詳しく聞かせてもらえるかな」
エディはユキノから転移した前後の事を詳しく聞きメモに取った。そのメモはミノルにも見せれる様に空間収納にしまった。空間収納にしまっておけば夢の中でも取り出せるので便利だ。
残す夏休みの期間は半分を切った。
エディはキャセリーヌと会えなかった事をお詫びするためにエドモン子爵邸に足を運ぶことにした。
長い間留守にして帰って来た時のユキノの様子がフラッシュバックとして思い浮かぶ。
「まさかキャシーもあんなに怒ってたりしないだろうか?」
エディは不安になっていた。何しろエディに関する事になると普段の淑やかな女性から情熱的かつ行動的な女性に変貌するので今回の事態でそうならないとも限らない。
そんな重い足取りでエドモン子爵邸へと着く。
既にキャセリーヌは待ち構えており、エディの顔を見るなり飛びついてきた。
「エディー!心配しましたのよ。どうして連絡をくれなかったのですか」
怒るよりも無事なエディの顔を見て安心して泣いているキャセリーヌを見て罪悪感を感じるエディだった。
その後、お茶を飲みながら事件の顛末や自由市でキャセリーヌが帰った後の事を話した。
連絡が貰えなかった事と、自分が帰った後で市が盛況になったことで最初は機嫌が悪かったのだがすぐに万遍の微笑みに変わった。
彼女は何よりエディが准子爵に昇爵したことがうれしかった。家の子爵の位まであと一つ。結婚相手として充分遜色がない。しかもこの歳での話しなので結婚をするまで、或いはその先には上位へと上がる可能性があるのだ。
国王との太いパイプが出来た事も貴族としてはかなり重要な事だ。しかも課題を解決してかなりの評価を得ている。夏休みに入って少しか経ってないというのにエディの行動は信じられないものがあった。だが盲目的なキャセリーヌは自分の愛するエディは偉大な存在というフィルターで常に見ているので目をキラキラと輝かせて話を聞いていた。
だが、そんな彼女の目が一瞬で曇ってしまった。王女の話を聞いた時だ。
「エディ、王女様に求婚されたのよね?」
「うん、その話はキャシーにはちゃんとしないといけないと思ってね」
キャセリーヌはエディから告げられる言葉を聞くのが怖かった。いくら自分が先に婚約を決めたからといっても相手は王女。太刀打ち出来る相手ではない。だがエディの事を諦めたくはなかった。
「王女様からの話は本当だよ。でも、すぐに断ったよ。僕はキャシーと婚約の約束をしている身だからね。そこに王女様の入る余地なんてないよ」
「でも、王女様ってすごく美人なんでしょ?」
「美人ならいいって訳じゃないよ。年齢も向こうの方が上だし、僕とじゃ釣り合わないよ。
とにかくハッキリ断ってきたから安心して」
「そうなの。ありがとう。その言葉が聞けてうれしいです。でも、王女様はそれで諦めてくれるのかしら?」
「戦闘狂と呼ばれている王女様だから、強い人が現れたらそっちに気が向くんじゃないかな?」
「そんなに強い人っているのかしら?」
「王女様の護衛の人は武術大会で三連覇したらしいけど女性だからね。ちなみに辺境伯の娘さんだよ」
「ええ?そうなんですか?辺境伯もかつては武勇を振るったと聞きましたが娘さんも相当お強いのですね」
「うんうん、動きが凄く俊敏で剣を躱すのがやっとだったよ」
「え?エディは戦ったのですか?」
「うん、突然模擬戦を申し込まれてね」
「で、勝敗は?」
「僕が勝ったけど?」
「・・・・・」
エディは突然キャセリーヌが無言になってしまったのでどうしたのかと思ったのだが、自分が原因とは思いつかなかった様だ。
「エディ、私はこの先すごく心配です。聞く話によると王女様は一度決めたら絶対に曲げない性格らしいです。このまますんなりと引き下がるとは思えませんわ」
「しばらくは王都へは行くつもりはないよ」
「はい、そうして下さい。でももし必要以上に迫ってくるようでしたら・・・」
キャセリーヌは顔を真っ赤にしていた。
「・・・その・・・き、既成事実を作ってもよろしいわよ」
「もう、キャシーまでそんなことを」
「私までって?まさか王女様も!?」
「どこまでが本気なのかわからないけどね。でも僕にはそんな気更々ないから」
「私はエディを信じていますから。益々油断なりませんね」
「まあ、今回は国王にも貸しが出来たわけだから無碍にはしないと思うから大丈夫だよ。この先については何か手を打つ必要はあるけどね。でも、なんとかするよ」
「はい、頼りにしています」
キャセリーヌの無垢な笑顔を見ていると襲い掛かってしまいそうな衝動にかられてしまうエディだが、大切なものを守るという理性が勝って行動することはなかった。




