打ち上げ
「ここよ。ここが私の実家の工房よ」
「へえ、結構大きな工房だな」
レオンも商人の子なので工房の規模というのは理解している。ここはその中でも大きい部類だというのが判った。
「さあ、みんな入って!」
キリカに促され入口から中へと入っていった。
「おー!キリカー!帰ってきたか!どうだった?」
「あ、親父!どうって完売に決まってるでしょ!昨日と今日どちらも完売で売切ったわよ」
「そりゃあ、よかったな」
ガハハとどこか辺境伯に通じる豪快な笑いをする大男がキリカの父親だった。そしてエディはその人物を良く知っていた。
「言った通り友達も連れてきたよ。みんな、これがうちの親父よ。強面だけど噛み付きはしないから安心して」
「ん?なんでセレオンの旦那がここにいるです?」
「あは、頭領、お邪魔してます」
「え?親父はエディ君と知り合いなの?」
「そりゃあお前、知り合いっていうかセレオンの旦那にはギルドを通じていつも世話になっているからな」
「え??どういうこと?」
これ以上は隠せないということでエディは自分の立場についてキリカやレオンに説明をした。
「エディ君がセレオン准子爵!?あの工業都市セレオンの領主様!?」
キリカもレオンもあまりの驚きに口をあんぐりとさせて呆然としていた。
「俺たち鍛冶がこのところ安定して鉄を打てるのも旦那が眠っている鉱脈を見つけてくれたからだ。それに鉄以外の貴重な鉱脈も数多く見つかっている。鉄の製法も全く思いつかなかった製法を言われた時には皆驚かされたもんだ」
エディは従来の鉄だけでなく、鉄と他の成分を混入させて様々な特性をもたせた合金の製法を広めた。鉄・銅・銀・金の4種類だった金属にアルミやアルミ合金、ステンレスなど鉄をベースにクロムやニッケルを含有させて合金を作り流通させることで用途に応じた適切な素材が用意出来、消費も偏らなくなるので鉄不足で充分な鍛冶の仕事が出来なかった環境が一変して多くの需要に応えるべく活気のある職場に様変わりしたのだった。
ちなみにこれらの金属製法は全てギルドで登録をしており、エディにはライセンス料が支払われている。
「ええ!?うちとものすごく深い関係にあるんじゃない?エディ君・・・一体何者?同級生っていうのも信じられないだけど・・・」
「あはは・・・そんな大したことはしてないよ。ちょっと人より知っている事が多かっただけだよ」
「そうやって謙遜してるけどよ、旦那は商工両ギルドのシルバーランクなんだぜ。どこの世界にそんなの居ると思う?でもな、あの工業都市セレオンを一夜で作っちまったんだから、そんなレベルじゃねえよな。
それによ、うちの弟子達の多くがセレオンで世話になってるぞ」
「そういえば最近職人の数が少なくなったと思ったらセレオンに移ったのね?」
「セレオンには新しい技術に挑戦したい若手連中が、カーソンには従来の技術を追求する匠が残っている。俺としちゃあ、若手が活躍できる場が持てて良かったと思ってる」
「じゃあ、私も学院卒業したらセレオンで修行しなきゃね」
「まあ、ましな物作れるようにはなったが、お前はまだまだ精進しなきゃあいつらに追いつけねえよ」
「悔しいけど自分の事は一番良くわかってるから頑張るよ」
親子でコミュニケーションが上手くとれている様だ。父親から愛情を感じたことのないエディにとっては羨ましい光景だった。
「今日は無礼講だ!みんな、どんどん食べて飲んでくれ!」
打上会はかなりの盛り上がりを見せた。いつも男たちだけの世界なのだが今日はキリカとユキノがいるので職人達のテンションも高くなってしまうのは仕方のない事。
エディは酒が飲めないので代わりに果実ジュースのソーダ割りを飲んでいた。
結局深夜遅くまで宴が続き、脱落者はそのまま工房で寝っ転がり、朝になる頃には全員が夢の中となった。
シラフだったエディは早々に離脱して工房の離れにある一室で寛いでいた。
そこへ少しほろ酔い気分のキリカが合流した。
「あっ、セレオン准子爵様みっけ!」
「・・・呼び方は今まで通りでいいよ」
「それにしても、エディ君がセレオンの領主様だったなんて、今までで一番驚いたかも?ってくらい衝撃的だったわよ」
「あは、隠していてごめんね。学院生であるうちは皆平等だから身分は明かさない事になってるんだ」
「うんん、全然気にしてないから。そういうしがらみがあるのも判ってるし」
「キリカの様に理解してくれる人が居て助かるよ」
「でも、領主様なのになんで学生やってるの?それこそいろいろと忙しいでしょうし、貴族だったら偉そうにふんぞり返ってたらいいのに」
「もちろん学ぶためだよ。僕にはまだ覚えなければならない知識が沢山あるからね。その中でも学園で学べる事は重要なものが多いんだよ。それに領主だからってふんぞり返っていてもちゃんと治政を行わいの人々はついてきてくれないよ」
「やっぱりエディ君は私達とは違うね。歳は同じくらいだけど、考え方や背負っているものが違うなって判るから」
「そうでもないよ?治政は領主代行の人に任せきりだし、僕なんか研究にばかり没頭してるからよく怒られてるよ」
「へ~っ、意外だな。研究って何を研究してるの?」
「魔法応用学かな?この世界は魔法があるのにあまり活用させていない様に思うんだ。もちろん色んな所で使われてはいるんだけど、もう少し工夫すればもっと効率よく便利に使える筈だからそれを具現化させる研究だよ」
「なんだか壮大な事をやっているのね・・・それって私でも将来役立つかしら?」
「キリカは鍛治職人を目指すんだよね?だったらもちろん関係してくるよ。鍛冶って長年の伝統を大事にして作り方も伝承で何一つ変えずに覚え込むっていうのが今までだったけど、もちろん僕はそれを否定はしないけど、別のやり方もあるという可能性はあってもいいんじゃないかと思うよ」
「別のやり方?例えば?」
「鍛治って温度管理が非常に重要だよね。肌で感じて覚えないといけないんだけど、これを魔法や道具を使ってやれば正確に作れる様になるんだ。精錬や鍛造にしてもそうだけど、もっといろんな物が出来る可能性があるはずだから、それに魔法の応用を加えるんじゃないかな」
「うーん、なんだか難しそうだけど、可能性はあるってことね?じゃあ、学院で学びながらそういう方面も今から勉強すといいかもね!」
「うんうん、そうだね。学校が始まったら具体的なアドバイスは出来る筈だから、僕も協力するよ」
「約束ね!なんだか希望が持ててきた。ちょっと最近悩んでたんだ。自由市も最初さっぱり売れなかったじゃない?ああ、これが私の実力なんだって。そりゃ、何十年もやってる職人の人には比べるのも失礼だけど、私だって幼い頃から槌打ってきた訳だしね。今のエディ君の言葉で私ならではの事が出来そうに思えてきたよ」
「それは良かった。自由市で売った武具もいい出来だと思うけど、更に何かが加わるといいね」
「うん、頑張ってみる!・・・私もそろそろ限界なので寝るわね。ありがとうエディ君。おやすみなさい」
「おやすみ」
今回の出来事でキリカには魔法と鍛治を融合させる技術を見に付けるという自己目標ができた。将来これがこの世界の武具の飛躍的進化のきっかけになっていることはまだ誰も知らなかった。




