ギルド会員
ギルドマスターは冷静に事実確認を行った。
「はい。獣除け草から抽出したエキスを濃縮還元させて発酵させたものであれば魔除け草の数倍の臭気を発してどんな獣や魔物でも近寄る事が出来なくなります。その証拠として僕は今まで北の山奥で一度も獣や魔物に襲われたことがありません。まったく姿を見かけない訳ではなくこちらへは一定以上は近づいてこないという感じでした」
「それで北の山奥と言うとどの辺のことですか?」
「ここから北へ二時間程歩いたところにある廃村からさらに北に向かった川の源流がある地域です。僕は廃村を拠点としていて山奥のその源流の地域までを採集ポイントとしています」
エディの言葉を聞いてマスターは驚いた。こんな年端もいかない少年が猛者でも一人では立ち入る事ができない山奥の地域で生活しているとは俄かに信じられないのだが少年が採集してきたものがその証拠であり信じるに足りるものだった。
「・・・・どうやら本当のことみたいですね。しかし驚きました。エディ君の考案した獣除け剤があれば凶悪な獣や魔獣から襲われる被害が激減します。濃霧の谷や絶壁峠を通り今まで魔物の襲撃に苦しめられていた商人達には喉から手が出る程に欲しい物でしょう」
「だろ?まあ、これ程の効果があるとすれば取り合いになって血を見る争いにまで発展し兼ねないと思ってギルドに相談しに来たって訳だ」
「いや確かに有り得る話ですね。いえ、確実にそうなるでしょう」
「そうなんですか!?」
二人の話が冗談だと思って聞いていたらどうやらそうでもないらしい。血を見る争いとは恐ろしい。知らずに売っていたら何らかしらの事件に巻き込まれてたであろうと思うとゾッとする。
「ワイバーンとかが生息している地域では突然空から襲ってきますので荷物の損害だけでなく死人も多く出るんですよ。それを事前に防げるとなれば多少高くても買わない手はないでしょう。だれでも命を優先にするものです。国と国を繋ぐ道には意外とその様な難所が多いのですよ。需要は多い筈ですよ」
「それじゃあ、欲しがる人に対して充分に供給が出来ればいいんですよね?」
「まあそうですね。でも高価な薬剤ということで欲目に走る者もいるでしょう。製法や製作者について知りたがるはずです。ギルドで秘匿しておけばそれらの心配もいりません。製法をギルドに譲渡してもらえるのであればエディ君にはロイヤリティとして販売額の何割かを支払う契約でも構いませんよ。そうですね、二割でどうでしょう?」
普通の獣除け草が1万Gだったのでより強力な魔除け剤なら五倍以上の値段でも売れる筈だ。仮に五万Gで販売すれはエディには1万Gが何もしなくても懐に入ることになるのだ。これは巨万の富を手に入れたのと同等の事だった。
「どうやらトントン拍子に事が運びそうだな。ギルドに任しちまえば何の心配もいらねえからな。おまけにギルドに恩も売れるとあったら断る理由はないわな」
「はい、ギルドでも有能な若者と知り合えるというのは有難い事です。これかも期待するということでエディ君にはブロンズ会員の権利も与えたいと思います」
「おお!そりゃ凄えな。坊主良かったじゃないか!」
「えっ?!僕がブロンズ会員?!それじゃあ、ギルドの正会員になれるのですか?」
「もちろん会員権取得のための費用は払ってもらわないといけないけれど本来お金があってもおいそれとは入れるものではないですからね」
商人ギルドではブロンズ会員が一番低いランクではあるがこれは正会員の話であり、それ以下の見習いや準会員も存在し多くがその位置にいる。それらの者は無印扱いとなり仕入れや買取においての優遇が下がる。無印で長年実績を積んでようやくブロンズ会員の推薦がもらえるというもので飛び込みでお金を払えばなれるというものではない。商人だからこそ信用が必要といえた。逆に既に高位の会員だったとしてもその地位に胡坐をかいてギルドへの貢献がなければ降格されることもあるのだ。
「判りました!願ってもいないことです。是非お願い致します!」
「こちらこそよろしくお願いします。詳しい手続きは受付に伝えておくのでそちらで行なってください。では私は失礼します」
そういってマスターは部屋を出て行った。
「セレスさん、ありがとうございます!まさかこんなことになるなんて思ってもみませんでした!」
「おう!俺もこれ程までの待遇をあいつが用意するとは思わなかったけどな」
「ところで、セレスさんとマスターって随分親しそうでしたけどお知り合いなのですか?」
「まあそんなところだ。細かい事は気にするな!」
ガハハと笑いながらエディの背中をバシバシ叩くセレスだった。
かなり体格のいいセレスが叩くエディの背中は紅葉の様な手形が付いていたことにこの時はまだエディは気付いていなかった。
受付で手続きが完了するまで待っていてくれたセレスに再度礼を言い、また再開する約束をして別れた。
そしてエディは拠点である元廃村の自分の家に戻ってきた。




