新たな名物の誕生
エディからキャセリーヌの所在を聞かれたレオンとキリカだが、いかにも気の毒そうな顔をしながら答えた。
「ホントお前たちは運が悪いというかタイミングが悪いというかだな。彼女は午前中まで一緒に手伝ってくれてたんだよ。売れないからって慣れない売り子までやってくれてさあ」
「売り子姿のキャシーも良かったわよね。エディ君見れなくて残念ね。あ、でもキャシーものすごく心配してたよ。エディに何かあったんじゃないかってね。エディの家に問い合わせるって言ってたから何らかしらの連絡があるんじゃないかな?」
「そうなんだ?キャシーは午前中まで居たんだね。もう少し早く来れたらよかったんだけど、王都から全力で飛ばしてきたんだけど」
「なんか実家の用事がとか言ってたよ。エディ君と一緒に手伝い出来るの楽しみにしてたのに居ないもんだから、少し元気なかったよ。もう、罪作りだねえ」
「ほんとだぜ、ちゃんと謝っておいた方がいいぞ」
「うん、そうするよ。学校始まるまでじゃ長いからその前に彼女のところに行くとするよ」
「さて、商品が明日を待たずに全部売れちまったけど、どうしようか」
「ここは何でも売っていいのかな?」
「ああ、特に許可はいらなかった筈だぞ。何か売る品あるのか?」
「王都で勝ってきた食材が大量にあるんだよ」
「わあ、なになに?食材って」
「これだよ」
エディは空間収納からガロイモを山盛りに取り出して並べた。
「おお!これはガロイモじゃねえか。これって蒸かして食べるくらいしか思いつかねえな。煮物なんかにゃ良く入ってるけど」
「エディ君、これをどうやって売るの?」
「二人には用意してもらいたい物があるんだ。キリカには油。食用のやつね。レオンには鍋。それ程深くなくていいよ」
「油ならうちに大量にあるから大丈夫。鍛冶で使う油は食用と同じだから心配しないで。ちゃんと新しいの持ってくるから」
「俺の方も問題ないぞ、鍋以外ではなんかいらないのか?」
「油を熱するコンロは僕が用意するから。あとは揚げたものを置く網とかトングとかかな」
「それくらいの物だったら今から取りに帰ってもすぐに戻ってこれるぞ」
「そうね。明日売るにしても練習しといた方がいいわよね」
「うん、わかった。それじゃまた後で揃ってから練習をしよう」
エディ達はそれぞれ分担した物を用意して二時間後には集まることが出来た。まだ日が暮れるには時間があるので問題はない。
エディが作りたかったのは”ポテトチップス”だ。薄くスライスしたジャガイモも油で揚げるだけの簡単調理。塩をまぶして出来上がりというシンプルなものだ。
「ガロイモを薄くスライスして油で揚げるんだよ。色が変わったら引上げて網の上に置いて油を落としてから塩をまぶして完成だよ」
「なんだかシンプルすぎない?それなら料理の苦手な私でも出来るかも?」
「ガロイモを薄くスライスするのが結構難しいと思うよ。だからコレを使ってくれるかな」
エディが取り出したのはカンナの原理を利用したスライサーだ。
刃が出ている板の上をガロイモを沿わせて引くだけで一定の厚みでスライス出来るものだ。
「ここに刃が出てるから気をつけて使ってね」
エディはデモがてらガロイモを引いてどんどんスライスを作って見せた。
「おお!スゲエ!どんど薄く切ったガロイモが出来てくるぜ。一個丸々スライスするのに30秒もかからねえな」
「明日は役割分担でいこうと思う。レオンがスライス、僕が揚げて、キリカが塩を振って包装」
「包装って?」
「この紙の袋の中に揚げたイモを入れるだけだよ」
「紙って、そんな貴重なものを使うの??」
「えっと、これは藁半紙と言う藁で作った紙なんだよ。紙は木で作るから値段が高いけど、これは捨てるものを使って作るから安価に作る事が出来るんだ」
「こんな紙初めてみたぞ。これ、商人ギルドに登録した方がいいじゃないか?」
「うん、もう既に登録されているよ。セレオンでは生産の設備も完備されているから、一日に一万枚くらい生産されているはずだよ」
「うへえ、そんなに大量に!?」
「驚くことじゃないよ。もう羊皮紙の時代は終わったから。紙は設備さえあれば大量生産がしやすい産業だからね」
「うーん、すげえなあ。知らないうちにそんなことになっていたのか」「でも、何が凄いって、エディ君がそこまでを知っているってことじゃない?」
「そう言われてみればそうだな?なんで知ってるんだ?」
「え?そりゃあセレオンに住んでいれば情報はいくらでも入ってくるよ?別に珍しいものでもないですし」
「そんなもんなんかな?まあエディだしな」
「そうよエディ君だしね」
最近いろんなところで”エディだから”で話がまとまる事が多いのだがそれが何を意味するのか鈍感な本人には気付く事がなかった。
一通り説明が終わった後に一度皆でやってみることにした。
エディが揚げ係をするのは油の温度管理が難しい事と、コンロは試作試験中の魔道具を用いているからだ。今回の調理を兼ねてエディは試作の試験のデータも取れるので一石二鳥だった。
油の温度管理は結構難しい。食材を入れると温度が下がるので温度変化に対して火力を調整しなくては安定した揚げ物を行う事ができない。
エディであれば油温を見て何度かわかるし、魔道具の出力と直結できるからだ。
そして出来上がったポテトチップスを試食してみた。
「なにこれ?サクっとしていて美味しい!本当に塩だけの味付けなの!?」
「おお!本当にコレ美味いな。なんか一度食べたら止まらないぞ」
エディはミノルから教わったこのポテトチップスを王都に滞在中に何度も試行錯誤を繰返し完成形にまで持ってきていた。その間に使ったガロイモは500個を超えていた。
もちろんこの調理方法も国王には伝えてあり、試食を食べてもらった時にはかなり感激をされてしまった。
王都のギルドで登録をしているが、発案者がエディであるためカーソンで使う事に関しては問題ない事を事前確認していた。
今頃王都でも名物として発売するために調理人が躍起になって試行錯誤を繰り返しているところだろう。
試食にて手応えを確認した面々は翌日の早朝の本番に備えて解散した。
エディはカーソンで泊まって明日のイベントに備えようと思ったが、家に全然帰っていないからユキノ達が心配しているだろうと考え直して家に戻ることにした。
王都からカーソンまで3時間でやってきたエディだが、カーソンからセレオンまでは30分掛からない。カーソンでは人目を気にするのだが、セレオンの市内ではお構いなしで自宅まで飛行してそのまま着陸した。
知らせを送っていないので誰も玄関には居ないだろうと思いこっそりとドアを開けたのだが・・・
玄関には既に仁王立ちして待ち構えているユキノの姿があった。
その形相は鬼の面の如く怒りが満ち溢れていた。
流石に鈍感なエディでもこの状況は不味いと考え恐る恐る声を掛けた。




