王都の宿
王女とも別れたエディは一人で王城内を歩いていた。
「さて、これからどうしたものか?辺境伯はカレナさんと一緒だし、少し早いけど宿屋にチェックインしてから街中でも散策してこようかな?」
まだ日が落ちるまで時間があるので見てみたかった街の様子を伺ってみることにした。宿泊する宿は王城から近い位置にある。この周辺の宿屋は貴族専用宿になっていて王城に近い程ランクが高く料金も高くなる。辺境伯がいつも利用しているのは中の上ほどのクラスの宿だった。もう少しランクが高くても良いはずなのだが
『宿なんて寝れればどこでもいいんだよ。それより飯や酒が美味いところの方が重要だろう?』
なかなか辺境伯らしい考えで宿選びをしているらしい。
王城から少しあるいたところに宿屋があった。見た目は立派なのだが、宿屋としての規模がこじんまりしているためランクが低いみたいだ。
宿の名前は”優雅亭” エディはその宿へと入った。
「いらっしゃいませ。ご予約のお方でしょうか?」
「はい、カーソン辺境伯で予約していると思うのですが」
「カーソン辺境伯様のご子息様でしたか、失礼しました。ご予約賜っております」
「いえ、辺境伯と行動を共にしていますセレオンと申します」
「これは重ね重ね失礼致しました。セレオン男爵の御尊名は兼ねてから伺っておりす。まさかこの様にお若い方とは存じませんでした」
店のカウンターに居たのはこの宿の主だろうか。身形のきっちりとした感じの良い人だった。年齢は40歳前後といったとこだろうか。
主人は宿の簡単な説明をした後に部屋まで案内してくれた。
優雅亭という名前だけあって非常にセンス良く調度品が揃えられていて落ち着くことが出来る。辺境伯が贔屓にするだけあってランクは高くないが良い宿屋だということが判る。
部屋には既に荷物が運び困れていた。貴族の宿では屋敷の様に部屋付きのメイドが配置されている。ランクが上になると各部屋毎に一人のメイドが用意されるが、ここではフロア単位でメイドが世話をするみたいだ。
「お客様。私がこのフロアのお世話をさせていただく係りになっております。ご用命がございましたら何なりとお申し付け下さい」
そう告げたメイドは年齢にして18歳前後だろうか、まだ十代の若さが残っている人だった。普通の宿ならメイドにはチップを渡して都度用事を申し付けるのだが、貴族の宿ではサービス料として一括して宿屋に渡しているのでチップは不要だった。
部屋で着替えを済ませた後、メイドに街を観光するならどこ辺が良いかを聞いてから外へ出かけた。
メイドが言うには街で一番活気があるのが市場らしい。
確かに市場では扱う品物や相場、購入客の様子を見ていれば
だいたい経済がどうなのかが判ってくる。
そしてこの王都は経済に活気があった。需要と供給のバランスもいいし、スラム街と呼ばれる存在もあるが、働き口があるため食べるのに困る貧困層が少ない。
エディはこの街を見てあるきながら思った。娯楽がないという事に気付いたのだ。生きるために必要なものは全て手に入る。だが、直接生命維持に関係のない物の存在が著しく少なく感じた。
ファッションもカーソンに比べるとお洒落に思える人達を多くみかけるがどれも実用性重視の延長上にあるし、食べ物も質より量が好まれる様だった。
これを見ると国王が危惧しているのは当然だろう。
遠方から来たとしても数日も滞在すれば飽きてくるはずだ。
さて、どこから手をつけたらいいのやら。
ある程度見回ったらエディは宿屋に戻った。
日が落ち始めて夕日が差し掛かった時間だったが宿屋には辺境伯が戻っていた。
「おう!坊主、帰ってきたか」
「辺境伯、娘さんとはもうよろしいのですか?」
「ああ、長い間氷で閉ざされていたものが溶けたみたいだ。坊主には礼を言わなきゃならねえな」
「それはよかったですね。それだけでも王都に来た甲斐があるというものですよ」
「それでどうだった?王都の街を見てきたんだろ?」
「はい、見てきました。かなり地味ですね」
「ガハハ、やっぱりそう感じたか」
「それにしても何故なのですか?カーソンの方が地方なのに王都よりも活気がありましたよ」
「まあ、それには理由があってな。この王都は十万人以上の人が暮らしているんだが、過去に何度も戦争や飢饉で多くの人が亡くなっている。その歴史の繰返しで生きることを優先する様になったってわけだ。
質素を美徳とする風潮が文化になったという感じだな」
「でもおかしいですね。王城ではその様な感じは一切しませんでしたけど」
「ああ、前国王の時は王城とて例外でなく装飾品など一切飾らない殺風景なところだったからな。現国王になってから王族が質素にすると国民がさらに質素になるということで改めたんだ。まあ王族は見た通りなんだが、まだ庶民にまでは変化が現れていないという感じだな。
国王は坊主にこれらを打開する案を期待していると思うぞ」
「そうですね。依頼された資源の有効活用とは反対の取組みですね。どちらも実現させないといけないという課題は結構難易度が高そうですね」
とにかく考えてみることにした。
しばらくして食事の用意が出来たとのことで食堂へと移動した。
出された料理は辺境伯の言うとおり美味しかった。美味しかったのだが、物足りなさも感じた。なんというのだろう。料理の素材の美味しさがあるのだが、味付けが足らないという感じだろうか。
エディは結局何が足りないのか気付いた。
この国では塩と胡椒が基本的な味付けで、それ以外で味をアレンジすることはない。もちろん塩と胡椒でも美味しく料理は作れるのだが、その味付けが続くと飽きてくるのだ。
エディは課題の解決の糸口が少し見えてきた。
残りはミノルと一緒に考えることにした。




