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雪解け

勝負は一瞬で決まった。


「坊主!やっぱり勝っちまったな」


「いやあ、一瞬冷やっとしましたけどね」


「まさかセレオン卿がカレナに勝利するとは驚きだ。しかもあの体術、初めて見ましたけど何なのです?」


「これも遠くの国で使われている武術です。相手の力を利用して攻撃に転じる技です」


「なるほど。私にもまだ知らない事が多くあるということがわかりました。やはり貴方は興味深い」


「僕が勝ったので武器は作りませんよ?」


「わかっています。武器は諦めましょう。でも、セレオン卿に対する興味は深まるばかりです」


「ああ、駄目だぞ、お譲ちゃん。坊主にはちゃんと婚約者がいるのだからな」


「それは本当ですか?」


「はい、その通りです。幼馴染で貴族の子です」


「わかりました。ですがセレオン卿の知力と武力は諦める訳にはいきません。この国の発展に是非とも力を貸していただきたい。その為の助力は惜しみませんよ」


「ありがとうございます。国王陛下にもいくつかの課題をいただいております。二日後に案を出すこととなっておりますので王女様も起こしいただくと良いかと思います」


「そうなのですね。それは楽しみですね」


「それはそうと、いい加減カレナを運んでやらねえか?」


気絶したカレナが放置されたままだったのを見ていられなくなって辺境伯が声を掛けた。

「何を言っているのです。おじ様が運んで下さいまし」


「え?俺がやるのか?」


「当然ですわよ。父親なのですから」


王女の父親という言葉にはっとする辺境伯だった。

大男の辺境伯がカレナを大切にそっと抱えて持ち上げた。

王女とエディと共に救護室へと向かった。


「坊主、何笑っていやがる」


「すいません。辺境伯も父親なんだなって思ったら何だか微笑ましくなってしまって」


辺境伯はエディの冷やかしに照れながらカレナを医務室のベッドへと寝かせた。

命に別状はないのだが、激しく打ち付けられたため気を失ったのだが、目覚める気配はなかった。


「なかなか目が覚めねえみたいだけど本当に大丈夫か?」


「はい、大丈夫ですよ。調べてみましたが、打撲は何箇所かありましたが全て骨には異常がありませんでした。

目覚めないのは衝撃の影響というよりも力を出しすぎて疲労している状態なので睡眠状態に近い形ですね」


「おう、そうか。それならよかった」


「ところで、疑問に思っていたのですが、どうして辺境伯とカレナさんは仲が悪かったので

すか?」


「別に仲が悪かった訳じゃねえよ。俺が不器用なだけだったんだ」


「器用・不器用が親子の関係に影響があるんですか?」


「まあ、そういうことだ。先の戦争で俺は妻を亡くし、娘は母親を失った。まだ生まれて小さかった娘は母親の記憶がないからな。

男手で子供を育てた事のない俺はその役目を乳母に任せきりで妻を亡くした悲しさを紛らわすために政務に没頭して逃げていたんだ。

娘が成長するにつれてその姿が母親そっくりになっていくのを見ているのが辛くてな・・・情けない話だ。

俺は今まで娘に父親らしい事を何一つしてやった事がないからな。親が居ないと言われた時はショックだったが、実際それを言われても反論のしようがなかった」


「そう言えば父も言っておりましたわ。カレナはおば様に生き写しだって」


「そういう事があったんですね。切欠を失ってしまい今に至っていると言う訳ですか。

それじゃあ、今が丁度いい切欠じゃないですか」


「今更父親面しても娘が受け入れてくれるとは到底思えねえよ」


「どうなんでしょうね?ご本人に聞いてみましょうか。カレナさん、もう目が覚めていますね?」


カレナはいつの間にか目覚めており皆の会話を目を閉じて聞いていた。「・・・・」


「カレナ、すまねえ。不甲斐ない父親で・・・」


長い時間カレナは沈黙を続けた。恐らく何を話せばいいか考えて結局結論が出ずにまた考えると繰り返していたのだろう。


「私は常に孤独でした。親子仲むつまじい姿を見る度、どうして私には両親がいないのだろうと。


父親から何故嫌われ遠ざけられているのだろうと。

悩んでいるうちにその様なことは戯言と剣術に没頭し忘れさる事にしました。でもいくら剣術に専念しても、強くなっても心が満たされることはありませんでした。

私がこちらに運び込まれる際に恐らく抱えて来られたと思いますが、まだ意識は戻っておりませんでしたが、何だか暖かいものに包まれている安心感が伝わってきた様に感じます。

私は思いました。これが家族の温もりなのかと。

父が政務に没頭するように私は剣術に没頭して逃げ場を作っていました。そして父に避けられているならと早い段階で屋敷を出てしまったのも私の我侭です。もし私が歩み寄っていたらまた違う未来もあったのかも知れないと思う事があります」

「これで判りましたね。お互いが別に憎み合っている訳ではないと。

それじゃ、簡単じゃないですか。これから親子仲良くしていきましょう。いや、やってもらわないと困ります。勝負は僕が勝ったのですからね」


「まったく、坊主には適わねえな。カレナ、こんな駄目親父だけど許してくれるか?」


「父上は駄目ではありません。私と同じで不器用なだけです」


「不器用ってところは親子そっくりですわね」


王女の一言で周りの空気が一気に和んだ。


「それにしても、私はそんなに母上に似ているのですか?」


「似てるな。だが姿は似ていてもカレナはカレナだ。これからは大切な娘として目を反らさず向き合うことを約束する」


「はい、父上、宜しくお願いいたします」


「でもよ、こんな美人なんだ、結婚の申込が引く手あまたじゃねえのか?俺はどこにもやりたくねえぞ」


「さっそく親馬鹿が発動しまいたね」


「おいおい、なんだそりゃ、酷えじゃねえか、娘を手放したくない父親の気持ちは今なら良く判るぞ」


「まあ、何はともあれ、これで一件落着ですね」


エディの言葉で騒動が締めくくられた。

カレナはまだ本調子ではないためしばらベッドで安静にしている様に伝えて辺境伯も付き添うこととなった。

部屋を出ようとしたエディにカレナが声をかけた。


「セレオン卿・・・」


エディは後から声を掛けられ振り返った。


「この度のこと感謝します」


「気にしないで下さい。辺境伯には常々お世話になっていますし、実の父親の様に思っていますので」


「出来の良い息子が出来たもんだ」


ガハハと豪快に辺境伯が笑うのを見てカレナも釣られて笑った。



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