勝負の行方
「さあ、着きましたわよ。セレオン卿、武器は何を選ぶのですか?」
「殺傷能力の無いものであれば自前の物を使ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、一向に構いませんよ。でも、その様なものを常にお持ちなのですか?」
どうみてもエディは手ぶらである。どこに武器があるというのか周りの者が皆不思議に思った。
エディはあまり見せたくはなかったが腕輪へ収納していた武器を取り出した。
「え?空間収納?セレオン卿がなぜ?」
「これは貰い物です。ちょっとした物なら持ち運べるから便利です」
嘘を言っておく。いくらでも収納出来ると言えばこの空間収納が狙われる恐れがあるので適当に性能を低く見せておくのを忘れない。
そして取り出したる武器は直径1.5センチくらいの太さと30センチ程度の長さの棒。棒の握手の上にはL字の返しが付いている。
これを知る人はこう呼ぶだろう”十手”と。
どこぞの捕物帳の親分が使っていたアレだ。エディも相手と同様両手に十手の二刀流だ。
「貴様!馬鹿にしているのか?」
エディが唯の棒を出したのを見てカレナは激怒した。
「セレオン卿、それは何の冗談なのです。いくら模擬戦とはいえ相手を侮辱することは許されませんよ」
流石に王女もこれは酷いと思ったのか口調に怒りが篭っていた。
辺境伯だけは楽しそうに見ている。付き合いが長いので今回もエディが何か”やらかす”と思っているに違いない。
「別に馬鹿にしてなんかいませんよ。知らないのも無理はありませんが、これは遠い国で実際に使われていた賊を捕縛するために支給されていた武器です。殺さずに相手を無力化するよく考えられたものですよ」
「そうなのですか?私にも知らない武器があったとは驚きです。いいでしょう。結果を出せば良いことです」
王女はカレナに視線を移した。カレナも異論はないと無言で首を縦に振り頷いた。
「それではルールを説明します。相手が気絶するか降参を言えば勝ちとします。決して殺すことのない様に。この場合、殺した方が負けです。両者宜しいですか?」
エディとカレナの両方が頷いた。
「時間無制限、一本勝負、始め!」
王女の合図で試合が開始された。
カレナの二刀流の構えは右手を前に、左手を上に向けた構えだ。これが彼女の基本の構えなのだろう。腰を落とし鋭く見つめるその構えに隙は一切見当たらない。
「やはり常勝の覇者だけありますね。全く隙がありません」
エディは立ち位置を少しずつ変えながら間合いを量っている。
十手はそもそも受けがメインの武器なので先手を取る様なものではない。
「どうした、来ないのか?ならばこちらから行くぞ」
エディが攻め入る気配を見せないことからカレナが行動に出た。
動いたと思った瞬間に既にカレナの姿は目の前にあった。
「うっ」
辛うじて気配を察知できたエディは体を反らして剣を躱す。速度が速すぎてこの動作を取るのがやっとだった。
「ほう、今のを躱すのか」
カレナもエディが躱すとは思っておらず感心した。
先ほどのカレナの動きは想像を超えるものでエディは驚いたのだが、分析は常時発動しており、それが何なのか正体はわかった。
「風魔法を発動していますね」
「わかるのか。流石だな。これは瞬動。脚力と風の跳躍によって移動を加速化させるものだ。まあ、理解したところで躱せるものでもないがな」
言い終わると同時に次の攻撃に移った。
今度は来ると判っていたので先ほどよりも余裕でエディは避けることが出来ている。
カレナの動きも一層速くなり眼で追う事も難しくなっている。
「流石にカレンの動きは速いですね。でもそれよりも凄いのがセレオン卿です。まさかこれ程までとは思っていませんでしたよ」
「まあ坊主ならこれくらいで驚いていたらキリがねえぞ」
エディは古竜の加護(極)によって身体能力が二割向上されている。
普段のトレーニングで鍛えられた体に底上げしているのでカレナの動きにもなんとかついていけている。
だが、それほど優れているエディでもそろそろ限界になりつつあった。カレナの速さが上昇しているのに対してエディの動きに遅れが出てきつつあり躱すことが出来なくなりつつあった。
「そろそろ終わりにしよう。”連斬!”」
カレナの斬撃がエディを捉える。右手の剣が切りつけて直ぐに回転し左の剣が襲い掛かる。独楽の様に回転する斬撃だ。
戦いの立会いをしている王女と辺境伯にはエディが斬られたかの様に見えていたがエディは十手で体に剣が当たるのを上手く防いでいた。
休む間もなくカレナより放たれる連斬だがことごとくエディは防いでいた。
「セレオン卿は防戦一方ですわね。勝負は時間の問題かしら」
王女はエディが辛うじてカレナの攻撃を防いでいるがいつまでもその状態が続かないだろうと思っていた。
「それじゃこちらもそろそろいきましょうか」
エディの姿が一瞬見えなくなった。
「なに!?」
カレナは焦った。一瞬エディの姿を見失った事もそうだが、そうなったエディの動きにだ。エディは先ほどのカレナと同じ瞬動を使っていた。
エディの十手があらゆる方向から迫ってくる。
剣で躱すのがやっとだったが何発かは攻撃を食らっていた。
十手の様な細い鈍器は想像以上にダメージがある。面積が少ない分、威力が集中するので骨にまで影響を与える様な痛みが伴う。
手に攻撃を受けたカレナは剣を落としそうになるも必死に堪える。
一旦仕切り直しをするためにエディから距離をとって構え直した。
「私の速度を上回るだと?信じられん・・・」
カレナの戦闘能力は敏捷性の高さにある。国内で右に出る者がいないくらいの速さを誇るカレナの動きを凌駕するなど有り得なかった。
だが今までの功績やプライドがそれを簡単に認める訳にはいかない。
「ならば!」
カレナは片方の剣を捨て残った方の剣の柄を引き伸ばした。柄の部分が三段階に伸びていき槍へと形状を変化させた。
速度で適わないならリーチで勝負しようと考えた戦法だ。
一応保険として考えられた戦法なのだが、いまだかつてここまで追い込まれた事など皆無だった。
”刺突!”
長いリーチを活かして槍が一直線に突っ込んでくる。
長手の獲物は十手にとって苦手とするものだ。
”千本突き!”
雨あられの様に槍が突き刺さってくる。
斬撃の様に横縦斜めから繰り出される攻撃を十手は受け止め易いのだが、槍の正面からの攻撃は避け難い。
それでもエディはタイミングよく槍の先を十手で捌いて躱している。
”波動突!”
遠くの間合いから放たれたその技は突きの動作のあとエディを後方へと吹き飛ばした。
「流石にこれは避けられまい」
カレナには確かな手ごたえがあった。波動突は風魔法を槍に乗せた攻撃だ。
風の竜巻は相手に当たるとかまいたちとなり全身を切り裂く。
直撃を食らえば平気では済まない技だった。
「なに!?」
後方に吹き飛んだエディは信じられない事に無傷だった。
「馬鹿な!あの攻撃を直撃して無傷だと?」
「いやあ、驚きましたよ。確かにすごい技ですね。でも来ると判っていれば如何様にも対処できます。カレナさんが発動させる時に大きく魔力が発動されるのを見ればこちらは防御魔法で備えるだけです」
エディはカレナの技が発動される前に風魔法で防御膜を張ったのだ。
風同士の攻撃で威力は相殺され余った力でエディは後方に飛ばされただけだった。
「この攻撃でも通じないというのか」
次第にあせりを見せるカレナだった。
「今までは少し余興のつもりで試合をしていましたが、そろそろ終わりにしましょう」
エディは両手に握っていた十手を腕輪に収納した。
「なんだと!自ら武器を放棄するとはどういうことだ!」
「あなたを倒すのに武器などいらないということですよ」
「戯けたことを!」
エディの言葉と態度に怒りの頂点に達したカレナはエディに向けて全力の突きを放った。
最早その技には手加減など微塵もなく相手を殺そうという意思の篭った一撃だった。
戦いを見守っていた王女もこれは不味いと感じ焦った。
武器を持たないエディに一撃必殺の技を放ったのだ。これではエディは殺されてしまう。そう思っていた。
エディはカレナの放った槍をサラリと躱し、腕を掴むと一本背負いで投げ飛ばした。カレナはエディに背負われ大きく弧を描いて背中から地面に落下した。
背中から勢いよく地面にぶつけてカレナの意識は完全に途切れた。
「そこまで!勝負有り!」
王女がすかさずエディの勝利を宣言した。




