辺境伯の娘
王城へ向かう場合、馬車は街中を通ると時間が掛かるため街の外側にある環状の馬車専用の道路を通行している。この道路は一方通行なので対面することなく効率よく通る事ができる。
通行の利便性だけでなく、警備面でも馬車の通る道を設定すると襲撃を防ぐための警備の配置が楽になるのも理由の一つだ。
周辺に建物がないため賊が隠れる場所がなく、道も広いため通行止めにさせる事も困難になっている。
この様な道路が設けられたのは過去に襲撃事件が多発したからである。街中では道路に面する建物のどころからでも襲撃することが出来、未然に防ぐ事が困難で、襲撃後の犯人達は人ごみに姿をくらませれば捕まえる事も大変であったため、先代の国王の時代に街の区画整理と道路の大幅改造を行ったのだ。
街中の風景を楽しみにしていたエディだったが、馬車の進路が街中ではなく郊外に舵を切ったことから非情に残念がった。
「ああ、街中の景色が遠ざかっていく・・・」
「なんだ?坊主は街の景色を楽しみにしていたのか?」
「はい、王都の文化は地方よりかなり進んでいると聞いています。人々の生活の様子とかいろいろこの目で確かめてみたかったんです」
「まあ、今は国王への報告を優先させるが、報告が終わったらそのままトンボ帰りなんて野暮な事は言わねえよ。明日にでも見てくればいい」
「本当ですか!はい、そうさせていただきます」
「王都が進んでいるって言ったが、俺に言わせてみればセレオンの方がよっぽど進んでいるぞ?年数というよりも別次元という感じでな」
「いえ、セレオンはまだ発展途上ですよ。工業都市という名の通り、産業を中心にして発展してきた街です。やはり住人の文化というのは長い歴史の上で育っていくものですから」
「そういうもんか?まあ、好きにすればいい。どうせ坊主の事だからいつもの通り斜め上の事をしでかすに決まっているが」
酷い言われ様ですね。とエディは納得していなかったのだが、この場に各ギルド長や研究会のメンバーが居たら首を大きく縦に振って賛同したに違いない。
馬車は郊外を軽快に進めている。王城へも近くなってきた事から建物もちらほら見える様になってきた。
建物と言っても一般の住居ではなく国の保有する建物で主に警護に関する軍の寄宿舎などである。
「向こうの方で兵隊さんが訓練をしていますね」
「おお、あれは近衛騎士団だな」
「なんだか屈強な人達ばかりで強そうですね」
近衛騎士団は模擬戦の訓練の様なものをしている。騎馬と歩兵の戦いや剣対槍など実戦を想定した本格的なもののようだ。
「おう、あいつらは結構強いぞ。俺のところの兵といい勝負なんじゃないか?」
「それじゃあ、カーソンの兵って強いんですね?」
「たまに俺が直々に稽古つけてやってるからな。ヘマをしたら飯抜きの罰をくれてやるから皆必死でやってる」
「まあ体が資本ですから飯抜きはキツイでしょうね」
馬車は更に進み王城へはあと少しというところで景色が変わった。
屈強な兵士の集団から女性ばかりの兵士が訓練していた。
「あれは?女性ばかりの兵士ですね?」
「おう、あれが女性の王族専用の親衛隊だ」
先ほどの近衛騎士団は重装備の鎧で身を固めていたが、親衛隊の装備はそれと比べると装飾が多く、どちらかというと華やかという感じだ。
「あれがそうなんですね。わあ、綺麗ですね。あの人達も強いのですか?」
「彼女達は国中から選りすぐりが集められたエリートだ。親衛隊っていうのは強さだけが求められるわけじゃねえよ。
もちろん強さも要件の一つだが、王族の女性は舞踏会や茶会も頻繁に行われる。来賓の顔と名前を一致させたり、毒物や不審なものをいち早く見つけたり求められるスキルは近衛よりも多いくらいだ。
だから、親衛隊には貴族の子女が多くいる。子供の頃から親衛隊に入るために教育されているので強さもかなりのものな筈だ」
「なるほど。華やかに見えますが成るためには相当な努力が必要なのですね」
「まああれだ。努力でなんとも出来ないものもあるんだけどな」
「それって容姿的なものですか?」
「そういうことだ。容姿端麗であることも選考の基準となる。だが、何も見てくれ重視って訳ではないぞ。
親衛隊は時として影武者として身代わりになる必要がある。なので護衛対象と姿や背格好が近くなければならん。極端に背が高い・低いや太っていては身代わりは勤まらんからな」
「なるほど。よくわかりました。でも、その中に辺境伯の娘さんが居られるのですよね。あの中に居たりするのかな?」
「・・・いる」
「へえ、よくこんな遠くから見てわかりますね?どの方ですか?」
「一団の前に立って指揮をとっている者だ」
「あの方ですか。なんか凛々しいですね。指揮をとるってことは偉いさんなのですか?」
「小隊長って話だな。たまたまあそこに居たのがその小隊なんだろう」
「手を振ってあげないんですか?」
エディはそう言いながら馬車から手を振った。
「馬鹿!やめろ!恥ずかしいだろ!!」
普段滅多なことでは動揺しない辺境伯がかなり動揺しているのには驚いた。
手を振ったのを気付いたのか小隊長である辺境伯の娘さんは一瞬こちらに視線を移した後、また元に戻した。
そして馬車は王城の前までやってきた。




