王都入門
カーソンから王都への馬車の移動は通常二日を要するのだが、辺境伯の馬車には魔改造施していた上に反重力魔法も加わって驚異的な速度で移動していた。
街道では人や馬車は右側通行が基本となっている。なので対向の馬車がいても互いがぶつかることはない。
そのはずなのだが、辺境伯の馬車は通常の二倍近いスピードで疾走しているため対向の馬車の御者からはみるみる迫るその馬車に皆驚くこととなった。
昨日の昼にカーソンを出発し、夜は早めに途中の村で宿泊。
朝一番に出立して昼になるにはまだ早い時間だがもう王都へ到着しようとしていた。
街道を走る他の通行人や馬車は通過する辺境伯の馬車の速さに目を丸くして驚いていた。
王都に近づくにつれ目撃者の数も増えてきている。
道幅もそこそこ広いのだが、交通量が増えてくると通常の速度で走る馬車を追い越すのは難しくなってくるのでペースは落ちてきた。
「あの石碑が見えたから王都はあと少しだぞ。って、もう着くのか?早いなんてもんじゃねえだろ?また1日も経ってねえじゃねえか。何もかもが出鱈目だな」
「もうすぐ王都なんですね。はじめての王都なんですが、どんな所でしょう?」
エディは王都がどの様な場所なのか想像をしている。カーソンを二周りくらい大きくした街という予想をしていた。
カーソンは良くも悪くも辺境の地であるが故に文化も独特と言わざるを得ない。地方は遅れがちというのはどの世界でも同じみたいだ。
王都での流行が数年遅れで地方に行き渡るといった感じで王都は流行の最先端となっている。
現在の日本の様な情報化社会と交通の便が発達して情報や人がリアルタイムで行き来出来る世界であっても都市部と地方では差が出てくるのだから、この世界ではその何倍もの差が出て当然とも言える。
やがて馬車の進行方向の遠くに建物らしき影が見えてきた。
まだ距離がかなりあるにも関わらず見えるということはかなり高さの高い建物ということになる。
カーソンの街は建物で高いものでも三階建てくらいだ。人口に対して街の広さが充分にあるのでコストの掛かる高い建物をわざわざ建てる必要もないのだが、王都となると国中から人が集まるのに対して都の防壁が広がらない限り土地は有効的に活用しないといけないので建物は必然的に高い階層になっていくのだろう。
馬車はいよいよ都の防壁の近くまでやってきた。ここまで来ると建物の大きさがはっきりと判る。都の中心に高い建物が集中しており、一番高い建物でだいたい十階建てくらいの高さになっていた。
「うわあ、凄いなあ。これってミノル君の言っていたビルディングっていうやつなのかな?どうやって上まで登るんだろう?」
「やっぱり坊主、この風景を見て驚いたか。ここから見える一番高い建物は王城の塔だ。
どうやって上まで登るってそりゃあ、階段で登るに決まっているだろう?」
「やっぱりそうでしたか。上に登る箱の様なものに乗って上がるのかと思ってました。階段だったら上層に居る人は足腰が鍛えられそうですね」
「そんなものがありゃあ良いんだがな。王城の衛兵の間ではあの塔の警備が一番敬遠されるからな。
衛兵の鎧装備のまま高い塔に登り下りするんだ。夏は地獄の暑さで汗が噴き出すし、冬は冷たい風が吹きつけて凍えそうになるしで階段の登り下りだけでなく大変らしいからな。
衛兵達の間では試練の塔と呼ばれているらしい」
ガハハと大きな声で辺境伯が笑いながら言う。
エディはミノルの世界にあるエレベータがこちらにもあるのかと期待をしていたのだがどうやらそこまでは進んでいなかったみたいだ。
だが、魔力を上手く活かせれば実現できそうな気がしている。
少なくとも反重力魔法を利用すれば確実に実現できるのだが、通常で使用できる魔法ではないため簡単に発動できる仕組みは考えなければならない。
今回の辺境伯の馬車に施した魔法を定着される技術は現在エディが最重要課題として取り組んでいる研究内容だ。
魔石を媒体にして定着化されるまでは完成しているが、状況に応じて様々な制御を施す必要がある。
”フェイルセーフ”と呼ばれる誤操作や誤作動が起った時の安全制御が肝心でこれを実現するのに一番苦労をしていた。
そうこう考えているうちに馬車は門前に到着した。門の前には王都に入るための手続きをしている人達で列を作って並んでいる。ざっと見ただけでも数百人は並んでいるみたいだ。検閲官が複数いるのだが人数が多いので結構な時間を待たされているようだ。
旅人などの手荷物だけの人だとそれ程時間を取られることはないのだが、商人などの荷馬車で入る人達は積荷のチェックなども厳重に行われているのでかなりの時間が掛かっている。
今から最後尾に並んで入るとなると相当待たされるだろうなとエディは思ったが、執事長がどこからか旗を取り出し、御者台の横へと刺した。風でカーソン家の旗がなびいている。
そして馬車は入門の列をよそに別の入口へと向かった。一般の門より豪華な門がそこにはあった。そして門の前には衛兵が並んでいる。 旗を掲げた馬車を確認すると衛兵達はこちらに向かって敬礼をしてきた。
「ここはな、上級貴族以上の専用ゲートだ。馬車に掲げた旗があればチェックなしで入れる。便利だろう」
「すごいですね。でもどうして旗なのですか?馬車に家紋を入れたりはしないのですか?」
「街中を行き来する馬車には確かにそういうのもあるがな、外を行き来する馬車には無闇に家紋を付けたりはしねえさ。それこそ襲って下さいって言ってるようなもんだろ?」
「ああ、なるほど。理解しました。野盗なんかの襲撃があるかも知れませんからね」
「野盗ごときは返り討ちにすればいいから心配いらねえよ。怖いのは貴族だな。
普段仲間を装っていても没落を望んでいるやつらは山程いる。そして貴族の位が上になる程下の貴族に狙われる機会も増えてくるんだ」
「なんだか物騒ですね。それって取り締まる事が出来ないのでしょうか?」
「まあ命令を下すのは貴族だが実際に行動するのは暗殺を家業とした専門家
だったりするからな。何かあればトカゲの尻尾切りってやつよ」
「そうなんですか。身を守るのも大変ですね」
「おうよ。だからこそ諜報部隊を作ったんじゃねえのか?あれは偵察や諜報活動だけじゃねえぞ。こうやって主が移動する際も隠れたところで護衛についているからな」
「あ、そうでした。すっかり忘れていました。辺境伯と僕のところの部隊が警護にあたってくれていましたね」
「おいおい、忘れてやるなよ。流石に可愛そうになってくるぞ」
エディは自分の失言にちょっぴり反省をするのだった。
門を通過した馬車は街中へと進んだ。
エディの目に飛び込んで来るのは見たことのない新しいものばかりだ。
街中の建物や風景、人々の行動、身につけているもの。
今まで見たことのないものばかりでエディの目は釘付けになった。
もっとしっかり見て確かめたい!そんな気持ちになりながらも馬車は非情にも進んでいった。
しばらく真っ直ぐ進んでいたが、そのまま街の中心へや行かず、馬車は方向を変えた。




