王都へ
辺境伯はエディからの報告を聞いて、こんなの誰が信じるか!と罵倒されるのが落ちだろうと思ったが、
既に短くはない時間エディを見てきているので充分有り得る話だと納得した。
「まあ、どうやら事は片付いたみてえだが、この先どうなるかわからねえからな。
今回の件について王都に報告が必要だろう。
坊主、今すぐ王都へ出かけるぞ」
「え?王都ですか!?そんな突然に・・・」
「何暢気な事言ってるんだ。事の重大さに気付いてないようだな。セレオンが狙われたということは、
この国が攻め入らたということなんだぞ。
反撃に出て戦争になってもおかしくない状況だ。
それを下すかどうかは国王の判断次第だ。
その国王は判断を下す上で坊主の今回の報告は重要な要素となる。
まあ、心配するな。完膚なきまでに叩きのめしてくれたみてえだから再攻の部隊は恐らくねえだろう。
だが、時間を経て体制を整えて攻めて来ないとも限らねえからな」
「何だか責任重大な様な・・・僕の発言次第で戦争になったりするのは嫌だな」
「我が国も好んで戦争をする訳ではないからな。だが何れ攻められる状況に指を咥えて待ってる
なんてことはしねえからな。やられたら倍にして返してやりたいくらいだ」
「帝国って強いのですか?」
「そうだな、領土はかなり広いな。あの国は侵略の繰返しで領土を広げてきた経緯があるからな。
その分、国民の中には過去国を奪われて恨みを持ってる奴も大勢いるって話だ。
案外崩れ始めると国が大きいだけに脆いかも知れねえな」
「大山も蟻穴より崩れるといいますからね」
「また難しい言葉を使う奴だな。本当に子供なのか?」
「僕の言葉は受け売りが多いだけですよ。どこから見ても子供じゃないですか」
そうか そうかと言いながら辺境伯はエディの頭をガシガシとかき回す。
「まあ俺もこんな息子が居れば良かったんだがな」
いつもワイルドな笑いをする辺境伯だが、その顔はなんだか寂しそうにエディには見えた。
「そういえば辺境伯のご家族は弟のトーマスさんだけなのですか?」
「いや、21歳になる娘が一人いる。今は王都で王女付の親衛隊に所属して頑張っているはずだ」
「え?王女様付の親衛隊ですか?それってかなりのエリートなんじゃないですか?」
「ああ、親父の俺に全然似てねえ。娘は完全にあいつ似だな・・・・」
「そういえば辺境伯の奥様は・・・」
「先の戦争で死んだ。俺たちは最前線で戦っていたからな。誰が死んでもおかしくなかった。
まあ、俺は悪運が強かったんだろうな」
「そうだったんですか。すいません、変なこと聞いてしまって」
「かまわねえさ。誰でも疑問に思う事だ、気にするな」
「でも、辺境伯なら、言ってはなんですが、奥さんを娶ろうと思えばいくらでも出来た
のではないですか?」
「おめえも随分と遠慮なく質問してくるな。まあ、それがお前らしいところだが」
「不躾ですいません・・・姉さんからは注意する様に言われているんですが、知りたい事が
あったらどうしょうもなく聞きたくなってしまうのもで・・・」
「困った奴だな。まあ俺だからいいが、他の上位の貴族や王族に対しては特に気をつけろよ。
で、話は俺が後妻を貰わない理由だったな。 そりゃあ今まで山ほど縁談の話はあったさ。
だが、誰を持って来ても失ったあいつの代わりになれる様なのはいないのさ。
形式上でもと言われるが、それじゃあ相手に失礼ってもんだろう。気持ちもないのに一緒に
いるのはな。 まあ、そんなところだ。いつまで経っても未練がましいと笑われるかも知れねえが
俺はそんなことは気にしちゃいねえよ」
「そうだったんですね。そこまで辺境伯に想われていたなんて奥様も幸せだったんですね」
「まあ生きていた頃は毎日喧嘩ばかりしてたけどな。失って初めて大切なものが何だか判ることもある。
坊主も大きくなって恋愛をすれば判るようになるかもな。まずは大きくならねえとな」
辺境伯はガハハと笑ってエディの頭をガシガシした。もうこれは恒例行事になりつつありエディも
されるがままとなっている。
だがエディもこの恒例行事が最初は嫌だったが、次第に成れてくるのと父親ってこういうものなのかなと思うのだった。実の父親には特に愛情を感じたことはなく、才が無いと判ってからは
酷い扱いを受けていたので父親というよりも他人と言う感覚でしかなかった。
だから余計に親しく接してくれる辺境伯を実の父親の様に慕っているのかも知れない。
「っと、俺の身の上話なんかどうでもいい。王都に行くから支度をしろよ」
「やっぱり行かないと駄目なんですね」
「当たり前だろ。なんだおまえ、ビビってるのか?」
辺境伯はニヤリと人の悪い笑顔を見せた。
「王都なんて初めてですし、ただの観光ではなく国王様との謁見とかいろいろあることを考えると
躊躇してしまいますよ」
「そうか。まあ、その辺は気にすることはない。俺がついているからな」
「作法とか全然で、いつも教育係りのカターシャさんに怒られてばかりです」
「なんだ、そんな事を気にしていたのか? おい、俺を見てみろ。作法の欠片でもあると思うか?」
まったく思えなかった。辺境伯と判っていなければ どこの蛮族かと思ってしまうことだろう。
「なんかお前、今失礼な事考えていただろう?」
「いえいえ、そんな事は決してありませんよ」
「おっと、こんな話をしている場合じゃねえな。このままじゃ埒があかねえ。今から一時間後に出発するぞ。
王都で着る服なんかも用意するから爺に揃えてもらえ。じゃ、また後でな」
言いたい事を言い終えると辺境伯は執務室を去った。




