森の裁き
<駐留地のテント>
「ん?なんだ?何か虫の音の様なものが聞こえてきたぞ」
虫の音は遠くから少しずつ近づいて来た。最初は気のせいかと思ったが確実にこちらに向かって進んできている。
早く気付いた班では仲間を起こしにかかった。
「おい!大変だ!虫が出たぞ!」
「なんだよ、虫くらいで騒ぐな。森の中なら居て当たり前だろう。もう少し寝かせてくれ」
「悠長な事を言ってる場合か!早く皆をたたき起こせ!蟻の大軍がこちらに向かってきてるんだ!」
蟻と聞いて慌てる者も少ないだろう。だが見張り役の切迫した状態に皆何事かと起き出した。
だが起きた者はそれが何かを確認する前に蟻の大軍がテントを飲み込んだ。
”ギャーーー!” ”助けてくれーー!”
あちらこちらで悲鳴が上がっている。
蟻に群がれて齧りつかれているための悲鳴もやがて収まり蟻は次の獲物へと移っていく。
「術士は魔法で撃退しろ!魔法が使えない者は松明で追い払え!」
冷静に判断し指示する者もいたが焼け石に水だった。
「これは一体何の騒ぎだ!!」
騒ぎを聞きつけたガゼロが兵士に問い質した。
「局長!虫の大軍に襲われています!このままでは我が隊は全滅です!」
「なんだと!一体見張りは何をしていたんだ!」
ガゼロは原因が虫と聞いて苛立った。
「それが、見張りが気付いた時には既に周りを取り囲まれていました」
「殺虫剤を撒け、ありったけだ!」
「既にやっておりますが数が多すぎて効果がありません!」
ガゼロは考えた。明日の作戦を前にして撤退をしてしまうと作戦の失敗は確定だ。だが、それよりも生き延びることが先決だ。
とりあえず作戦の事は置いておき、助かるべく手段を考えた。
「火だ。森に火を放て。油の使用も許可する。火を放ちながら退路を確保しろ」
兵士が油を撒きながら火をつけてまわる。
火の手があがるのだがその火は何故かすぐに鎮火してしまう。
「局長!駄目です!火がすぐに消えてしまいます!
もうこれ以上虫を抑えきれません・・・・ギャーーー!!」
目の前の兵士に蟻が群がった。
「何故だ!なぜ我々が虫ごときに襲われて全滅する?
虫ごとき・・・誰かが操っているのか?
まさかあの邪竜が!?」
ガゼロは蟻が兵士に群がっている隙に走り出した。
目の前には布で覆われた魔力増幅器があった。
「こうなったら、この森ごと吹き飛ばしてくれる!」
布を取り払いブースターを起動させようと駆け寄った。
その時ガゼロの首筋に痛みが走った。
目の前には大きな蜂が飛び回っている。大毒蜂に刺された事に気付いた時には既に体内に毒が周っていた。
「おのれ・・こんなところで・・・」
ガゼロが最後に見たの光景は身体に群がる蟻と蠍だった。
<クレセアとエディ>
「エディよ。何やら火を放つ者が現れたようだ。火の手が広がる前に鎮めることが出来るか?」
「はい、大丈夫です。酸素がなくなれば火は消えます」
エディは火の手が上がり出したところの空気を酸素から二酸化炭素に置換させた。
「其方のそれは魔法なのか?我でも見た事がないぞ」
「いえ、これは理のスキルになります。置換という物質を置き換える能力です。火が燃えるには酸素が必要なので一帯の酸素を二酸化炭素という物質に変換しました」
「なるほど。能力も凄いが知識も相当あるみたいだな」
「僕には優秀な家庭教師がいますので。彼のお陰です」
「師匠の様なものか。其方に興味が沸いてきた。また時間がある時に我のところに遊びに来るがいい。
其方が居らぬと我が子も寂しがってな」
「はい、落ち着いたら伺わせてもらいます。
どうやら敵は全滅した様ですね」
「うむ、残る気配も見当たらぬな。では虫は処分させてもらう」
クレセアはそう言うとドーム状に展開していた結界を中心に向かって収束させていった。
ドームの収束に押されるかの様に虫たちも中心に流され、やがて消え去った。
「なんだか今すごい技をみましたが、あれは何ですか?」
「あれは重力を操る魔法だ。結界内を高圧・高重力にすることで生物が維持出来ない空間を作りだしたのだ」
「それってミノル君が言っていたブラックホールみたいなものかな?」
「其方は知っておるのか?こればかりは驚いたぞ」
「いえ、受け売りの知識です。僕の友達が詳しいだけです。この世界の外には宇宙と呼ばれる空間があって、世界は星と呼ばれる球場のもので宇宙には無数に存在しているそうです。
その宇宙の空間にはブラックホールという全てを飲み込む暗黒の空間が存在していると。それが先程聞いた状態に似ていたのです」
「うむ、そうか。その辺もまた来た時に聞かせて欲しい」
「そう言えば忘れていましたがキューはどこに居るのですか?森の聖域を出る時には見あたりませんでしたが」
「前回の事もあったからな。万一を考えて我が異空間に置いてきた。そこであれば人間の手が及ぶ事はないからな」
「異空間ですか?それは先程の重力操作の魔法と似た様なものですか?」
「そうだな。また別の時空魔法というものだ。我の様に何千年も生きておれば様々な魔法が使える様になる」
「うわあ、僕も使えますかね?その魔法」
「どうであろうな。通常であれば定命の者が使えるものではないからな。だが、其方は変わった能力を持っておるから我にも判らぬな」
「そういえば、最後に司令官の様な人が兵器みたいなものを使用しようとしていましたがあれは何なのでしょう?」
「確かに使おうとしておったな。見てみるか」
クレセアとエディはテント跡へと足を運んだ。




