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先手必勝

ザリウスの部隊は古竜の聖域から5km程離れたとこに駐留していた。密集させずに点在しており、小枝や葉でカモフラージュさせている。


クレセアとエディは駐留地からは見えない程に離れた位置にある大きな木の上で様子を眺めている。


「どうだ?其方には見えるか?」


「はい。ここからなら全体を掌握できます。かなり間隔を開けていますが全体で・・・50名程でしょうか」


「うむ、そんなところだな」


「それでどのタイミングで制裁を加えるのですか?」


「そうだな。やるなら油断しきっておる寝込みを襲うのが良いであろう。手段は先程話をした通りだ」


クレセアはニヤリと口角を上げた。美人なのだが悪い事を考えている笑顔は悪戯好きの少女の様だった。

だが、これから実行することは悪戯では済まない事は確実だ。




<ザリウス駐屯地テント内>


それ程大きくないテントの中には数名の兵士の姿があった。指揮をとっているのは覆面姿のガゼロだ。


「後続部隊も問題なく合流した。我々は明朝に作戦を実行する。


最後にもう一度作戦内容の確認を行う。


A班は崖の上目がけて火系、水系、風系でそれぞれ魔法攻撃を行う。


B班は魔法を確認したら森の各所に火を放て。油を撒いて延焼を早める事を忘れるな。


C班は森の魔物に混沌魔法を放て。パニックを起こしやすくするのだ。


D班は魔物の誘導だ。流れを作りセレオン方面に向かわせる様にしろ。


今回の作戦は各班の連携に掛かっている。我々が魔物に襲われる危険性も充分にあるので注意しろ。


開始時刻は0600だ。何か質問はあるか?」


後続部隊の一人の兵士が質問した。


「A班の魔法は崖の上まで到達するのでしょうか?魔法の到達距離は地上でも100メートル程度です。500メートル以上も上を狙うのは不可能だと思いますが・・・」


「お前は後続部隊のD班だな。テーマーなら知らないのも無理はない。

確かにお前の言う通り通常の魔法では到底届く距離にない。だが、我々には皇帝陛下から使用することを許可された神器がある。

今回の決め手はこの神器にあると言っても良い。これは魔力増幅器ブースターだ。

魔法の威力を10倍以上に引き上げてくれるのだ。

使用できるのは3分間。それを過ぎるとオーバーヒートで爆発する恐れがある。

一度使用すると冷却期間に何十年も要するというものだ。


それ程貴重な兵器を今回賜ったのは陛下が我々の作戦を重視しておられるからだ。決して失敗は許されん。理解したか?」


「はっ、差し出がましい事を言いい申し訳ございませんでした」


「他に質問がなければ解散とする。明日に備えて身体を休めておけ」


「「了解!(ラジャー)」」


各班長達は解散しテントを出てそれぞれの班へと戻った。


残ったガゼロは自身の右目を眼帯の上から押さえている。


「この眼がうずいておる。明日の復讐を心待ちにしている様だ。待っていろよ、邪竜め」




月夜が輝く夜だが、森の木々で遮られるこの場所は月の光が届くことなく暗闇に染まっている。


日が既に変わってしばらくの時間が経つ。時刻にしてAM2時といったところだろうか。


「皆寝静まっておるみたいだな」


「見張りは交代で起きている様です」


「それくらいは構わん。これから起こる事を知った事で何も手立ては出来ぬからな。


彼奴らの装備や配置から考えて明朝には行動に出るみたいだな。


その頃まで生きておればの話だが」


クレセアがまた悪い笑顔になっている事に苦笑いするエディだった。


十張のテントでは二張ずつ組になっている様で、交代で見張りを用意している。今現在起きている見張りは5名ということになる。


「さて、そろそろ始めるとしようか」


クレセアがそう言うと考え事をしているかの様に何かを念じている様だった。操作をしていると言った方が正しいのかもしれない。

だが、すぐに何かが起きる訳ではなかった。


変化が起きたのは10分程経過した後だった。


遠くからカサカサと音が聞こえだした。エディは事前に聞いていたのでそれが何の音なのかは判っている。

判っていても不気味な音には慣れることがない。


暗闇なので判らないが音と共に現れたのは蟻の群れだった。

蟻と言っても普段見掛ける蟻という小さな生き物ではない。一匹が掌大の巨大蟻、”ヘルアント”という深緑の森に棲む凶悪蟻だ。


この蟻は肉食で集団で大きな動物を襲い捕食する。尻から出される麻酔針で獲物を鈍らせて噛み殺すのが特徴だ。


「来た様だな」


「あれだけの数、どうやって集めたのですか?」


「女王蟻には申し訳ないが生贄にさせてもらった。女王蟻の臭いを彼奴等のところにばら撒いたのだ。女王蟻の探す兵隊蟻がすぐに集まってきてるだろう」


説明をしながらクレセアはまた悪い笑いをしていた。


「でも、これって蟻に気付いたら逃げられてしまうのではないですか?」


「其方、我がこの程度の仕返しで満足すると思っておるのか?

まあ見ておれ」


今度は上空から羽音が聞こえ出した。

どうやら蜂の大軍が押し寄せている様だ。


しかもそれだけではない。蟻の後からは蠍も姿を見せている。

蛾も集まってきており鱗粉をまき散らしている。


「うわあ、これってどこの地獄絵図ですか。暗くて鮮明に見えなくて良かったですよ。またトラウマが増えるところでした」


「森を汚すものには森の制裁を加えるのが一番だ。我が手を下しても良いのだがあまり力は使いたくないからな。


蜂は大毒蜂だ。あれの毒は強力でな。すぐに刺されたところが壊死してくる。


蠍はデススコーピオンだ。あれも致死性の毒をもっておる。


蛾はキラーモスだな。あれの鱗粉は方向感覚を狂わせ麻痺させる。


どうだ、なかなか壮観だろう」


静かだった森には今は人の悲鳴と虫の咀嚼音が響いていた。


流石にエディも気分が悪くなってきた。


「虫たちがこっちを襲うということはないのですか?」


「我や加護のある其方を襲う事はまずないだろう。それにこちら側には結界を張っている。


まあ、これが終わったら虫たちは全て処分するのだがな」


「役に立った虫たちを殺してしまうのですか?」


「そういう訳ではない。森の安定を保つために些か増えてきた害虫を定期的に間引く必要があるのだ。今回はそのタイミングと重なっただけだ」


エディはそれを聞いて納得はしたが何か割り切れないものがあった。


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