再び聖域へ
エディは古竜の子供の竜キューを見つけた崖の麓まで辿り着いた。
来る途中に獣との交信を行っており状況はだいたいだが掌握している。
大勢の人間がこの森に潜んで何かを企んでいる様だった。
「どうせ禄でもない事には違いないんだろうけど、どうしてこうも平和を乱そうとする輩がいるのかなあ。
まあとにかく先ずは古竜クレセアさんに会って話をしよう」
目の前の500メートル以上もある断崖絶壁には前回用意した階段は見当たらない。
エディが前回、古竜の聖域から降り去った後で他人に利用されない様に階段はすべて隠したのだ。
撤去ではなくエディが次回以降も使える様に階段は崖の壁面に埋め込まれている。
エディが念じると下から順に螺旋状に階段が姿を現した。
前回の教訓からエディは階段に手摺りを追加している。
階段だけでは下に落ちる可能性もあるので安全策として用意したのだ。
500メートルを螺旋状に登るため、実際の距離はその何倍にもなるので途中休憩の踊り場も一定間隔で設置した。
「それにしても前回はキューを背負っていて余裕が無かったので下をほとんど見なかったけど、こうやって下を見ると眩暈がしてくるよ」
エディはユキノの抱擁の次に高い所がトラウマになりつつあった。
途中休憩を挟んでようやく頂上へ辿り着いた。
「久しいな、エディよ。セレオン卿と呼んだ方がよかったか?」
キュー!!
既にクレセアとキューが待っており出迎えてくれた。
「いえ、エディで結構ですよ。お久しぶりです、クレセアさん。
キューも久しぶり!」
キュー!
キューも久しぶりに会えたことに喜んでおり足元に擦り寄ってきている。
「はい、お土産だよ」
エディはお土産に持ってきた干し肉をキューに与えた。
「突然の来訪ですいません」
「なに、来ることはわかっておった。気にするでない」
「そうなんですか?」
「ああ、何しろ狙いの目的は其方の領地だからな」
「ご存知なのですか?」
「半年前の出来事は覚えておるだろう。我が不覚をとったのもあるのだが、何故に危険を承知でこの地に足を踏み入れたのか考えておったのだ」
「そういえば不思議だったのですが、この高い崖の上に賊はどうやって登ってきたのでしょう?」
「一人が崖をよじ登り、上から縄を下ろして張ったようだ」
「縄ですか?相当な長さが必要ですよね?」
「うむ、恐らくかなりの時間は掛かったであろう。何よりも縄を斜めに登るのは相当な体力が必要だ。訓練された手練れだったのだろう」
「今回もその縄を伝ってくるのでしょうか?」
「いや、前回我が焼き切ったのでそれはないだろう。おそらく別の手段を講じてくるだろうな」
「何とかする手立てはあるのでしょうか?」
「前回不覚をとったのは奴らが神経に影響を及ぼす薬剤を風に乗って流したことだ。神経を麻痺させて呪詛を掛かりやすくしたらしい」
「今回も同様の手口でくるでしょうか?」
「我が気配を感じるに前回よりもかなり多くの人間が潜んでいるようだ。微かであるが遠くより更に近づいてくる集団もおる」
「それだけ多くの人数が・・・不気味ですね」
「なに、やろうとしている事は判っておる。我をけしかけて暴れさせて森全体を混乱に陥れ百鬼夜行を発現させようと企んでおるのだろう」
「百鬼夜行・・・スタンピードの事ですね」
「うむ、あれは厄介だ。一度暴走すると我の眷属であっても止めることはできん。前回であればそれに至った可能性もあったであろう」
「今回は大丈夫なのですか?」
「集団で暴走するにはそれなりの力が必要となる。我が人の姿である今であれば如何様になれど発生させることは出来ぬ。
不覚をとった前回と同じ轍を踏むわけにはいかぬからの。二度とこの様な策を考えれぬ様に制裁を加えてやろうぞ。
其方も手を貸すがよい」
「はい、出来る限りの事はさせていただきますが、この上から出来る事は限られていると思います」
「そうか、其方は魔法を使える様になったのか?」
「はい、まだレベルは低いので少しだけなら」
「風の魔法は使えるか?」
「残念ながら得意とは言えません」
「使えるのであれば問題ない。其方に風の加護を与えよう」
「風の加護とは何でしょうか?」
「風の魔法を使いやすくするものだ。精霊の力を借りることで魔法の能力が飛躍的に向上する。加護でレベルが上がれば風の操作も容易いであろう」
エディは自身を分析で調べてみた。既に風の加護を受けているのであろう、風のレベルが5段階上乗せされてレベル6になっていた。
通常魔法は5段階までなのでレベル6というのは存在しない。
だが、風の加護を受けた身であればその限界を突破させる事が出来るみたいだ。
「何だか風のレベルが凄い事になっています!」
「うむ、そうであろう。其方は既に風を自在に操る事が出来るはずだ。特に難しい事では無い。操りたい旨を念じるだけだ。やってみるがよい」
クレセアの言うことをエディは半信半疑で聞いていた。
だが嘘を言う筈はないので言われた通りに浮上するイメージを思い描いた。
「うわっ!体が浮きました!」
エディの体が何らかの力で押し上げられた様に宙に浮いた。
「ちゃんと出来るようだな。まだ慣れぬうちは無理するでないぞ。次第に操作出来るので訓練をすることだ」
「はい、頑張ります!」
エディは浮遊状態を少しずつ前進する様に念じた。
前に行くことだけを考えると下に下がってしまうので前進と浮上の両方を思い描くか斜め上に力を働かせて相殺する二つの方法があることを理解しコツを掴んだ。
慣れれば自由に空を行き来出来るのが面白くなってきたエディは小一時間で問題なく飛行する段階まで慣れる事が出来た。
「もう問題ないようだな。では我と共に制裁へ赴くとするぞ」
エディはクレセアに従い後を付いて下界へと降り立った。




