復讐
エディが深緑の森へと探索に入った頃、先に深緑の森に到着している集団がいた。
彼らはザリウス帝国所属の特殊工作部隊”シャドー”と呼ばれる一団だった。
森の奥深くに隠蔽する様に草木で囲んだテントを構えている。テントの数は10張を越えるだろうか。見つかりにくい様にわざと離して点在させていた。
「ガゼロ局長、もうすぐ後発の部隊が合流する予定です」
「うむ、わかった。予定通りに行動すると各員へ伝えろ」
「了解しました!」
局長と呼ばれたこの男、名前をガゼロといい、特殊工作部隊シャドーの部隊長と植民地開拓局長を兼任している。
この男の見た目が異常なのは黒い眼帯と更に顔を隠す様に覆われた覆面だ。
「あの憎き竜め、覚えていろ。半年前の借りを返してやるからな。あいつのせいで俺は半数以上の部下を失い、俺自身も上半身の大やけどと右目の失明という大きな土産まで貰っているからな」
ガゼロは古竜の子をさらい、古竜を混乱に陥れることで深緑の森にいる獣や魔物をスタンピードで混乱させた状態でセレオンに大挙して押し寄せさせる目論見だった。
古竜に呪詛を掛けて感覚を鈍らせて子竜をさらうまでは上手くいったのだが、古竜に気付かれてしまい返り討ちにあったのだ。
ガゼロ達は古竜がブレスで攻撃してくるとは予想していなかった事もあり、多くの者は炎で焼かれて死んでしまった。
ガゼロを含めた生き残りは僅か5名。当初半数の生き残りがいたのだが、怪我が酷く母国に帰還する前に息絶えた者もいたため全体の3/4を失ってしまった。
しかも生き残った者達も再びこの作戦に復帰できる程の精神力を持っておらず後方支援か退役を余儀なくされた。
せっかくさらった子竜は気付いた時には居なくなっており踏んだり蹴ったりだった。
国に戻ったガゼロは任務失敗で窮地に立たされた。ガゼロの特殊部隊は能力も特化しており簡単に補充が利くものではなく、人材育成にも国として多額の費用を費やしているのだ。
国としてもこのままガゼロを引きずり降ろしても後任に適任者が居なかったため今回の失態は不問とし、次回の成功を約束させられた。
更に成功のために補充人員にかなりの予算を注ぎ込んだ。
ガゼロを糾弾しなかった理由として彼のこれまでの実績がある。
植民地開拓局と呼ばれる組織の実績だ。
かつて多くの国を取り込んで来れたのはこの活動があったからこそなのだ。
ザリウス帝国の他国侵略の手口として敵国の近隣の近くの魔物に細工をし、スタンピードで魔物を暴れさせて戦力を削いだ後から総攻撃をかけるというものだ。
そして、そのスタンピードも人知れず行われるため敵国民からすれば寝耳に水の状態で襲われるのだ。
強い魔物を操作するのに2つのチーム編成での連携がとられる。
1つはテーマーと呼ばれる動物を操る術に長けたチーム。
2つ目は呪詛を専門とした対象を弱体化させる術士のチームだ。
今回のエンシェントドラゴンは特別な存在なので置いておくとして、通常ならその地域の守り神とも言える主を対象としている。
現在のカーソン領を支配していた国を襲ったのは獅子王と呼ばれる
グランドガースというライオンの進化種だった。
スタンピードは単なる魔物の行進ではない。
百鬼夜行とも例えられるこの現象は魔物の狂乱状態に陥れるだけでなく、その種の変異種として変化する。
この状態になることが恐ろしく、例えばゴブリンがバーサク状態が長く続くとゴブリンバーサカーに変化する。
ゴブリンバーサカーは通常のゴブリンよりも二段階上の存在となる。
通常だと生態系で弱い生き物程多く、強い生き物になる程少なく成り立っている。
だが、この突然変異は生態系そのものを無視したもので繁殖種であるゴブリンが一斉に強者であるゴブリンバーサカーで繁殖するのだ。
生態系が大きく崩され、死滅する種族も出てくる。
恐怖を感じる事もなく、ひたすら相手を破壊し尽くすその姿に人は成す術をもたず蹂躙されてしまうのだ。
カーソン領に突如として現れた工業都市セレオン。その発展ぶりは目を見張るものがあり、今後戦略面での障害となることは一目瞭然でザリウス帝国は早い段階でセレオンを潰し、その勢いでカーソンを落とすという目論見だった。
前回の失敗を教訓としてガゼル達は十分に計画を練り、装備や人材を惜しむことなく投入している。
前回のチームはテーマーと術者ともに10名ずつの構成だったが、今回は遥かに多く25名ずつ計50名の一団で挑む。
この50名という数字は国攻めの人員としてはかなりの少数部隊と言えるのだが、その内容は人数では測れないものがある。
各国から選りすぐりの優秀なテーマーや術士を金に物を言わせてかき集めたのだ。
もちろんまともなテーマーであればこの様な謀略に協力するまでもなく地元で安定的な生活を送れるため断るのだろうが、世の中には表舞台があれば反対側の裏部隊もある。魔物を操作し人を襲わせ金品を強奪する盗賊や夜盗の中にも強力なテーマーは存在する。
蛇の道は蛇とは言ったもので魔物を使い人を襲う事に関しては規模の違いはあれど手段として用いる輩を集めることは金銭面を覗いてはそれ程苦労することはなかった。
その手の輩は組織に執着心はなくより良い報酬になびくドライな関係を取る者達だ。
「どん底から立ち直るまでに半年掛かってしまった。メンバーも一新したから連携には不安が残るが仕方がない」
ガゼロはまもなく始める復讐劇に奮い立った。




