救われた小さな命
分析で表示される正常なバイタル値と現在の値が比較されているが素人でも正常には程遠いというのが判る。
周囲に流れている血の量を見る限りかなりの血液が失われているみたいだ。
人間の場合、血液の量は体重の8%と言われており、血液総量の1/3を失うと命の危険性がある。
身体の小さなこの動物に当てはめると既に相当量の出血をしており、充分に危険領域を越えている。人間の数値が参考になるのかは判らないのだが。
分析で血液培養の方法を探りながら合成と置換で体内の血液の補充を試みる。
心臓がかすかだが動いており鼓動をしているので血液の循環はなんとか行われている様だ。
しばらくすると呼吸が感じられる様になってきた。
ここまでくると自身の生命力と治癒力で回復していくのを待つしかない。
どれくらいの時間が経っただろうか、感覚的には4時間か5時間といったところだろうか、動物の意識が辛うじて戻ってきた。
まだ昏睡状態から覚めたばかりでハッキリはしていないみたいだが自立しようと試みている。
「どうやら気がついたみたいだね。でも駄目だよ。酷い怪我だったんだ。しばらく安静にしていないと」
エディが自分を治療してくれていたと認識したのだろうか、小さな鳴き声だったが”キュー”と返事をした。
「判ってくれたのかな?それにしても、最初はトカゲかと思ったけど羽が生えているから飛竜の子供なのかな?」
慌てていたためエディは怪我の状態以外は詳しく見ていなかった。
改めて分析で確認してみると幼竜という事が判った。
竜にもいくつか種類がある。多くの種類の竜がいるのだが、そもそもは幼竜という同じ個体らしい。
その後成長過程によって火竜や水竜、飛竜などに変化していくみたいだった。
エディは良く判らないが羽が生えているのだからきっとこの子は飛竜に違いないと思った。
飛竜の子供はエディに擦り寄って丸くなっている。
どうやら眠くなった様ですぐに眠りについたみたいだ。
エディはこのまま放置しておく訳にもいかず結局一晩 飛竜の子供の面倒をみることとなった。
翌朝になるとかなり回復したのか飛竜の子供は動き回る事が出来る様になっていた。
キューキュー鳴いているのでお腹が空いているのだろう。
エディは食糧として持ってきていた干し肉をあげると喜んでそれを食べた。
流石に竜の子供は食用も旺盛らしく手持ちの干し肉があっと言う間になくなってしまった。
「手持ちの食料が無くなってしまったよ。あとはその辺で調達しないといけないね」
エディは子竜を連れて川へと魚を捕りに移動した。
自分の分は焼き魚として食べ、子竜には生の状態で5匹ほどあげたら漸く満足したみたいだった。
「まあ、血液を失ったから沢山食べる方がいいんだけどね。それにしても凄い食べっぷりだね」
”キュー”
言葉を理解しているのか判らないが話し掛けると一応返事は返してくる。
「ところでどうして大きな怪我をしていたんだい?」
”キュー!キュー!”
エディが質問すると子竜は上の見上げながら小さな翼を羽ばたかせている。
目の前は絶壁の大きな崖があるだけだ。その上ということを言いたいらしい。
「上の方かな?崖の上から落ちたのかい?」
”キュー!!”
どうやら正解の様だ。下から見上げるだけでも500メートル以上はあると思われる断崖絶壁だ。そんなところから落ちてよく生きていたとエディは竜の生命力に驚いた。
「なあ、キュー、崖の上にキューのお家があるんだね?」
”キュー!”
エディはいつの間にか子竜のことをキューと呼んでいた。子竜も自分を呼んでると理解しているのか返事をしている。
「それにしてもこの崖をどうやって登っていこう?登る?ウーン、怖いなあ・・・」
子竜を連れて崖の上に登るというのはかなり難しい。エディは子竜を背負う形で果たしてこの高い崖を登れるのか?いや無理だろう。
何か良い方法がないか考えた。
「そうだ、階段を作って登っていけばいいんだ」
エディは分解と合成で崖の壁面に階段を螺旋状に作りながら上へと登る方法を思い付いた。
螺旋状なのでかなりの距離が必要となるが安全優先でいきたかった。
エディの能力は魔法とは異なり魔力を消費しないため連続に放つ事が出来るのだが、精神力を費やすため疲れが伴う。
階段を登れば安全とはいえ、断崖絶壁の上に居る訳で下を見下ろすと地上から遠く離れてくるにつれて恐怖も沸いてくる。
「あと一体どれくらい登れば天辺まで辿りつくんだろう?飛竜の様に空を飛べたら一瞬なんだけどなあ・・・」
万能に見えるエディの能力でも空を飛ぶという行為は出来ない。以前に置換などを駆使して重力操作が出来ないかを試してみたのだが、重力は物質ではないため無理だった。
朝から半日かけてエディは螺旋階段を作りながら崖の上に登ることに成功した。
「やっと上が見えてきたよ・・・しんどい・・・疲れた・・・」
最後の階段の登り切りエディ達は頂上へと到達した。
崖の上は平たい土地になっており、子竜の巣と思われるものも確認出来た。
「キュー、やっとお家に戻ってきたよ」
”キュー!”
子竜は一目散に巣へと走っていった。やはり自分の巣が一番なんだろう。
エディは苦労した分、達成感があった。
ホッと一息ついたエディだが、辺りが急に暗くなったことに気が付いた。
そして背後にかなりの威圧感を感じる。
恐る恐る背後を振り返ってみるとそこには巨大な成龍がこちらを睨んで静止していた。




