半年前の出来事
準備をしている最中にユキノから声を掛けられた。
「エディ、トーマスさんから聞いたと思うけど、一人で大丈夫かしら?」
「うん、大丈夫だよ、姉さん。今回は勝手知ったる庭みたいな所だしね。それに少し気になることもあるんだよ」
「何かしら?気になる事って」
「森の異変なんだけど、半年前に一度不審な動きがあったの覚えてる?」
「そう言えばそんな事あったわね。なに?それと関係あるの?」
「まだどうか判らないけど、その辺の関連性も探ろうと思って」
「そうなるとやはりエディが適任ね。森に愛されている少年だからね」
「なんか姉さんが言うと冷やかされてる感じがするんだけど・・・」
「ふふふ、そんなことないわよ。自慢の弟よ。なに?また熱烈なハグして欲しいのかしら?」
「いえ、謹んで辞退させていただきます」
「あらそう?照れなくてもいいのよ?」
ユキノはエディが本気で嫌がっていることに気付く気配はなかった。
「それにしても、諜報部隊を配備しておいたのは正解だったね」
「ええ、今回については現地に潜伏しているカエデやコタロウのお手柄と言えるわね」
「僕たちも情報があるからこうして遅れを取らずに動けるわけだしね」
「あの子達に特別褒賞を支給しないといけないわね」
「その辺は姉さんに任せます」
「まあ、それは良いとして、エディ、本当に気を付けてよ」
「うん、わかった。準備も整ったし、行ってくるよ」
エディは深緑の森へと向かった。
最後にここに来たのは国立学院に入学する前だったので半年ぶりとなる。
「ザリウス帝国の連中は一体ここで何をしているんだろう?
考えられるのは川の上流から毒などを流すこと。これはかなりヤバイのだけど、下流まで影響をを及ぼす程の量の毒を流すには数十トン以上の毒薬が必要でこんな森の奥に運ぶのは不可能だよね。
それにそんなことすると生態系や環境に与える影響が大き過ぎて侵略目的で取る行動とは思えないし」
やられると大変な事になるが、この懸念は先ずないだろう。
「となると・・・森になにか細工をするということかな?なんだろう?」
エディはいろいろと考えながら森の奥へと足を運んだ。
最早エディは森の住民と言えるくらいにこの森に馴染んでいる。そのエディだから判るのだが森の気配がなんだかおかしい。
「なんだろう?なんだか森がざわついている様な気がするな」
森には沢山の動植物がいる。普段は感じることがないのだが今はその動植物が異常な気配を帯びているのだ。
「また例の事件に関係しているのだろうか?」
その事件とは半年前の事だった。
★★
ある日、森へ実験材料の採集を行っていたエディが崖下に横たわるトカゲの様な物を発見した。
大きさとしては全長が50センチくらいのオオトカゲといった感じの大きさだった。
「ん?これってオオトカゲかな?いや、トカゲにしては少し大きいな。それに背中に小さいけど羽が生えてる」
エディは横たわるその動物のもとへと近づいた。
死んでいるのだろうか?
良く見ると口から血が流れているが、まだ温かく微かに心臓の鼓動を感じた。
「まだ生きてるぞ。それにしても酷い怪我だな。どうしたんだろう?」
エディはその動物を分析で調べた。
予想通りかなりの重症だった。というよりほぼ死にかけていた。
「おい!大丈夫かい?」
エディは反応を期待して声を掛けながら体を揺すってみた。
だが一切反応は返ってこなかった。
「こりゃあかなりマズイ状態だな・・・ 先ずは気道を確保しないと・・・」
身体の各部が損傷しているのも事実だが、まずは呼吸が正常に出来る様にならなくてはこのままでは窒息死してしまう。
内臓が損傷しており大量の出血で喉が塞がっているので呼吸が出来ない状態にあったので分解で固まった血液を除去した。
凝固している血を分解するのは簡単なのだが、固まっている部分で出血が止まっていたのが分解することで出血が酷くなるので血を止めるため出血箇所への止血も必要となる。
通常の治療ならばスコープなどで覗きながらとなるのだが、エディは分析で自分の脳内に状態を投影しながら作業を行っている。
この手の治療としては何度か森の動物を怪我を負っているのを介抱した事があるが、外科手術ばかりで今回の様に体内へ直接作用させるのは初めてだった。
次に全身の骨折している骨を修復する。
複雑骨折をしている箇所が多く復元するには分析を並行して行い慎重に繋いでいった。
複雑骨折の箇所は破片も多いため細部の除去は念入りに行わなければならない。
通常の治療なら接合状態を保ち自身の再生力で接合させるのが正しいのだが、今回はそんな悠長なことはしていられないので直接損傷個所の修復を施している。
骨格を補正したあとは内臓損傷の修復だ。
ここが一番大変なところだった。欠損部分は合成で補いつつ修復を行う。
エディはもちろん初めての試みだった。だが分析がマスターの状態にあるエディは何が適正な状態かを知り得る事が出来るため正常に戻すという行為は行えるため治療とは呼べるか疑問なのだが何とか命を繋ぎ留めようと必死だった。
エディは時間を忘れて治療をひたすら続けた。




