不審な動き
工業都市セレオンは街を作る際に防衛に関しても考慮されている。敵に攻められたとしても長期間に渡っての籠城や敵を撃退させるための仕組みが数多く施されている。
だが、いくら施設として完成されていても兵士が未熟であればそこが穴として瓦解する危険性がある。
エディはセレオンの兵士を募るだけではなく戦力として使える様に育てなくてはならない。
それも通常の白兵戦などとは異なるセレオンならではの戦い方に適合させなくては機能しないため独自の育成方法を確立する必要があった。
「エディ、この国の兵器というのは何がある?」
「兵器ですか?一般的に兵士に支給されるのは剣か槍、それと盾ですね」
「それだけ?大砲とかは?」
「大砲ですか?聞いた事ないです。あ、忘れてました。馬に乗った騎馬隊というのがあります。あとは弓兵ですね。極少数ですが魔法攻撃を行う部隊もあると聞きました」
「なるほど。だいたいどんなのか想像がついたよ。守るのは簡単そうだね」
「そうですか?大軍で来られると厳しいのではないかと思いますけど?」
「そのために君がいるんじゃない。そっちの人達って空を飛べる訳じゃないんでしょ?だったら人が通れない様にすればいいだけだよ。例えば高さの高い防壁を作るとか乗り越えられない深い堀を掘るとかね。
攻城戦の場合は破城槌や投石器とかの大型設備を持ち運ばないといけないから環境が険しい程困難を極めるんだよ」
「なるほど。確かにそれなら可能ですね」
「まあそれだけじゃ撃退は出来ないし時間を掛ければ突破される恐れもあるからね。足止めをしつつ撃退する手段があればいいんだよ。
但し、これが重要なんだけど、君がいなければ機能しない様では駄目だよ。これからも長期間不在になる機会も多いからその間に攻められて対応できませんでしたでは目も当てられないでしょ?」
「まったく、その通りです。基本構造は僕が作るとして操作や起動は誰でも出来る様にしないといけませんね」
「幸いにしてここは動力源が豊富だからね。工夫次第でどうにでも出来る強みがあるよ。
それに、君が今研究している魔道具。あれも応用できるといいね」
「はい、セレオンに研究ラボを建設しましたので時間さえあれば可能です。って、まだ施設見てないから早く見たいんですけど・・・先ずは書類の山を片付けなくては・・・」
「君も色々大変だね。領主兼 学生兼 研究者という三足の草鞋を履いた状態だもんね。
まあ、研究に関しては僕もいろいろと手伝える事があると思うから。試したい事もあるしね」
実には何か良いアイデアが浮かんでいる様だった。
こうしてエディと実 が長年話す様になって最初の頃は実のアドバイスばかりに頼っていたエディだが、今は実に頼らず自分でアイデアを出し、困った時に実に手伝ってもらう事が多くなった。
実もそんなエディの成長を見ていきなり答えを出すことは控えてヒントに留める配慮もしている。
翌朝、朝食を済ませた後、コーヒーを飲んでいると領主代行のトーマスが屋敷に戻ってきた。どうやら昨日は帰る事ができなかったみたいだ。
「セレオン卿、お帰りなさい」
「トーマスさん、ただいまです。留守の間は任せきりになってすいませんでした」
「いえいえ、私の存在意義は領主であるセレオン卿の補佐をする事です。領主不在を守る事こそ使命ですのでお気になさらずに。それよりも昨日戻る筈が遅くなり申し訳ありませんでした」
「確か昨日は官邸での定例会議でしたよね?戻れない程の問題が起ったのでしょうか?」
「いえ、ギルド定例会議は特に問題なく終わりました。会議が終わってこちらに戻ろうと思っていたのですが、伝令が至急カーソンに出頭する様に伝えてきたもので急いでカーソンへ行って参りました」
「そうだったんですね?僕には何も連絡が入っていませんけど?」
「はい、その辺も含めてご報告させていただきます」
話は世間話では済まないためエディはトーマスと共に書斎へと移動した。
トーマスは書斎に入り、周囲を確認した後に説明をはじめた。
「私が急に呼び出されたのは最近、セレオンの領内で不審な動きが見られるとの注意勧告でした。
まだ何も起こっていませんが、どうやらザリウス帝国の密偵がこのセレオン領内に潜入しているとの事です」
「ザリウスですか。もう動き出しましたか」
「目的ははっきりしていませんが、こちらの諜報部隊 霞の調べではザリウスから商人らしき一行がこちらに入国したとの事です」
「その商人は何か怪しかったりするのですか?」
「特に目立つ様なところはありませんが、逆に自然過ぎて怪しいというのがその道の者の勘です。
我が国とザリウスは今は停戦状態にありますが国同士の行き来は封鎖していませんので商人など目的が明らかであれば入国を許可しています。
商人も商売の規模で商隊の数が変わってきますが、工業都市セレオンに買い付けに来る商人であれば手ぶらで入国することは無く、セレオンに売るための荷物を載せて来て、全て売り切ってセレオンから物を仕入れるというのが通常です。
商隊の規模に対して荷の量が少ない商人を確認しています」
「ふむ。商売を隠れ蓑にしているけど実際には商売をしていない可能性が高いということですね」
「そうです。カーソンなどの通常の都市に行く場合は何ら不審には思わないのですが、セレオンは出来て間もない都市ですから物資が不足しているため商人は積める限りの量の物資を積んで売りにくるはずなのです」
「ひょっとしたらその荷台には売り物以外の物を積んでいた可能性もありますね」
「その辺についても調べはついています。国境の検問時には荷台に荷物が満載で入国しており、途中の街道で荷物に隠れていた工作員が商隊から離脱していました」
「その工作員がこの国で何らかの活動をするつもりなんでしょうね。その辺は判りますか?」
「こちらの諜報員の監視では工作員はセレオンではなく深緑の森方面に向かったことを確認しています」
「深緑の森ですか・・・嫌な予感がしますね」
「今のところ気付かれない範囲で泳がせております。奴らの目的が判れば動けるのですが、今のところ情報が足りていません」
「わかりました。深緑の森に関しては僕の方でも調べてみます」
「セレオン卿 自らがですか? 危険です。万一の事があったら」
「まあ、あそこは僕の庭みたいなものですし、僕なら異変があればすぐに気付きますので」
「くれぐれも無理はしないで下さいね」
エディはトーマスとの会話を終わらせた後、すぐに深緑の森へ向かう準備を行った。
待望のラボでの研究はしばらくお預け状態でエディはすごく残念だったが、事は急を要するので仕方ないと諦めた。




