久しぶりの帰宅
明くる日、早々にセレオンからの馬車が迎えに来た。
やはり一般の馬車では耐えられなかったからエドモン卿の屋敷まで迎え来るように連絡を入れていた。
エディの馬車が屋敷へと入ってきた時に一番反応をしていたのは誰でもない、エドモン卿だった。
「おお!これは凄い!この馬車はセレオン卿所有の物ですかな?」
「はい、私がセレオンにあるコーチビルダーに作らせた特注品ですよ」
「なるほど、王宮にも納入しているという例のやつですか?」
「いえいえ、王宮仕様はもっと装飾とかが凝った作りになっています。私のは質実剛健、機能重視に作っていますよ」
「中を見せてもらっても? ふむふむ・・・これは!」
エドモン卿はエディの了解を貰う前に既に馬車の室内に乗り込んでいた。その後も足回りや各部の詳細な作りを念入に見入っている。
そしれ充分に納得したのかエディの元へ走ってきた。
「セレオン卿!是非この馬車を私に譲っていただきたい!」
「いや、譲れと言われましても・・・僕も足が必要ですし」
断られたエドモン卿はシュンとした感じで目で見て判るくらいに落ち込んでいる。
「それでは、この馬車は無理ですが、セレオンのコーチビルダーに言ってエドモン卿用の馬車を一台作りましょう」
「おお!それは本当ですか!さすが婿殿!」
まるで子供が玩具を与えられたかの様な喜び様だった。
それにまだ結婚が決まった訳でもないのに婿殿と言われて困惑するエディだった。
「エディ、よろしいのですか?馬車ってとても高価なものですよ?」
「うんん、大丈夫だよ。皇族にも卸しているから貴族用の一台くらいなら融通できるから」
「ありがとうございます。それにしてもあんなに喜んだ父を見るのは初めてです」
「あら、キャセリーヌはそうだったの?あの人は本当に嬉しい事があるとあの様な感じですよ。私がプロポーズを承諾した時とか貴女が産まれた時とか」
「そのどちらも私では見ることができませんでしたね」
「大丈夫よ。初孫の顔を見せてあげなさい。きっと今以上に喜ぶわよ」
なんだか母娘で恥ずかしい話をしているようだ。キャセリーヌの顔も真っ赤になっていた。
キャセリーヌ達に見送られてエドモン子爵邸を後にしたエディは自領であるセレオンへと向かった。
流石に最新の馬車での移動は快適だった。
転がり抵抗が少なく振動が無い分馬にも負担が掛からない。
通常の馬車よりも速度を上げて走らせる事が出来るためカーソンからエドモン領に来た時よりもエドモン領からカーソンを経てセレオンに戻った帰りの時間の方が短かく、予定よりも早く到着することが出来た。
馬車から見るセレオンの街は少しの間しか離れていなかったとはいえ少し懐かしさを感じる。
だがその少しの時間しか経っていないのに記憶にある街の風景から変わっているものが多かった。
発展途上の街にとっては当然の風景なのだがやはり驚くものである。
エディが国立学院に入学する前と今とで大きく異なるのはやはり人の多さだろうか。
その頃はまだ区画整理が終わり工房を建設し終えたばかりだったので人は疎らだったのだが、今は街中には人で溢れかえっている。
工業が先行していたのだが、人口が増えると商売などのサービス産業も盛んになり、相乗効果で活気づいていることが判る。
緩やかな坂を上り切ったところで屋敷が見えてきた。
屋敷には既にユキノとカターシャが待っていた。
恐らく門衛からの連絡が入っているのだろう。
街中などの短距離であれば魔道具の通信機器を使用すれば逸早く連絡が取れる様になっている。
こういった魔道具は近年急速に発展し増えているのだが、その開発にエディが携わっている事を知る人は少ない。
「エディ~!おかえり~!」
「おかえりなさいませ」
「お姉さん、カターシャさん、ただいま」
「エディ、少し見なかっただけなのにまた背が伸びてるわね?なんだか男っぽくなったかな?」
「うん、多分少し伸びてると思うよ」
「クンクン・・・エディ・・・女の子の臭いがするわよ?あなた!まさか、いかがわしい事してなかったでしょうね?」
「え?何の事かな?たぶんお姉さんの勘違いだと思うけど?」
「そう、私の勘違いね?後でゆ~くりお話を聞かせてもらうわね?」
何故か姉ユキノの笑顔がすごく怖かった。
「ところでカターシャさん、街の状況はどうでしょうか?」
「はい、政務は領主代行のトーマス様が滞りなく処理しております。ですが領主様に直接確認いただかないといけない事案が溜まっております。できればすぐ目を通していただきたいと存じます」
「うん、わかった。着替えたら執務室に向かうね。それと、エドモン子爵の屋敷に招待されて思ったんだけど、この屋敷、広さに対してメイドが全然いなくて大変だったでしょ?その辺もなんとか手配したいと思ってます」
「ご配慮ありがとうございます。旦那様とユキノ様だけの今でしたら私でも何とか回しておりますが、数人でも手配いただけるとより細かな対応ができます。それと、屋敷の護衛も雇うとよろしいかと」
「そうだね。領主宅に護衛が一人もいないのでは取次も警備も大変だよね。やはり守備隊の設立も急がないといけないね。屋敷もそうだけど街の治安も幅広くカバーしないといけないからね」
「その辺についてはトーマス様とご相談されると良いかと思います」
「うん、わかりました。で、そのトーマスはどこに?」
「トーマス様は各ギルドの支部長との定例会議で官邸におられます。後程こちらに戻られると思います」
「そうですか。それじゃあ、とりあえず着替えてきますね。また後で」
少し話を交わしただけでやることが沢山あることが見えてくる。
屋敷もそうだがこの街全体がまだ出来て間もないため普通の街に当然あるはずのものが無いのだ。
領地として自己完結させなければならないのでカーソン伯に相談するわけにもいかない。
その辺の運用も含めて試されているのだろう。
学業と治政との両方を両立させていくことが果たして出来るのだろうか?少し不安になるエディだったが、何かあるとすぐに人に頼るのは悪い癖だと思い直し先ずは自身で考えてみることにした。
自室で着替えた後に執務室に向かうと奥にある机の上には山の様に
書類が積み上げていた。
それらをざっと目を通していくと単に承認するというようなものではなく課題解決をしないといけないものが含まれていた。




