小旅行
国立学院の授業期間も終了し、明日から二ヶ月間の夏季休暇となる。
エディは当初は二週間の補修を受けての編入であったが、すぐにクラスに馴染み授業に関しても何ら問題を起こす事なく受ける事が出来た。
いつも一緒に居るキャセリーヌやキリカ、レオンといった友達から輪が広がり親しい友人が増えていった。
エディはもともと人当たりが悪くないのと天然が少し入っているのでクラスの中ではそういうキャラという事で浸透していた。
クラスの愚連隊的な存在であったエドワードは、その後も他生徒と数多くの問題を起こし厳重注意を受けている。
この事が父親であるコルソン子爵の耳に入り次に問題を起こした場合、有無を言わさず退学処分にして欲しいと申し入れた。
夏休みに入る前に先日決まった自由市の出店取組みに関しては全校生徒が集められ説明が行われた。
キリカやレオンの様に職人や商人を目指す者にとっては格好の機会なのだが、それ以外の技能を持つ生徒にとって出店はハードルが高い。
そのため出店に際しては単独で行っても良いがチームを組んで出店する方法も選択肢として取り入れた。
生徒にとってもアルバイト的な臨時収入にもなるので人気が出そうな店のチームには申し込みが殺到した。
エディとキャセリーヌはキリカとレオンの共同出店のチームを手伝う事になっている。
入学して約4ヶ月となるが、エディは魔法について多くの事を学ぶ事が出来た。今まで発動すら出来なかった魔法が簡単なものなら出来る様になったのだ。
一度発動すると分析により細かく解析が行われ、何をトリガーにして発動したのか、制御の適切な方法や魔法の応用についても情報を得る事ができたので知識として多くのものを得ることが出来、理のレベルアップにも貢献していた。
エディは理の力と魔法の力の融合化を出来ないかを研究課題としており、毎日図書館で本を読むか実験室で魔法融合の研究をするかどちらかを日課としていた。
図書館に行く場合はキャセリーヌも同席しているが、魔法融合の研究についてはキャセリーヌが居ない時を狙って単独で研究をしている。これは実験自体が危険という事もあるが、キャセリーヌには能力の多くは隠しておきたかったからだ。
夏休みの期間は学院には来ることが出来ないため魔法実験が出来なくなる。
それを懸念していたエディは自宅に隣接して実験施設を用意している。これはエディが用意したのではなく、こういったものを用意して欲しいと領主代行であるトーマスにお願いして作ってもらったものだ。
エディ自身が作れば費用は掛からないのだが、職人に作らせた今回の施設はお金が結構掛かっている。しかしその費用は一般の人にとってはとても払えない様な額でもエディの収入からすれば微々たるものでしかなかった。
「僕専用のラボかあ。我が儘で作っちゃったけどいいのかな?でも夏休みの間中実験出来ないなんて嫌だし、学院をいずれ卒業するんだから必要なものだよね。うん、必要経費ということで」
エディは自出が庶民なので大きなお金を動かすという事に慣れていない。領主となった今では領地に関してはある程度の大金を動かすことには慣れてきたのだが、自分の目的で自分自身がお金を使うとなるとまだまだだった。
そして何事もなく授業期間が終了した。
「エディ、もう用事は全て済みまして?馬車を待たせてありますので一緒に行きましょう」
「うん、用事はもうないけど、そんなに急がなくても・・・それにやけに楽しそうだね?」
「それはそうですよ。私はこの日を待ち望んでおりましたのよ。エディと一緒に旅行なんて素敵じゃないですか」
「旅行って・・・実家に帰るだけじゃないの?」
「いいのです!例え時間は短くても私にとっては小旅行の様なものなのですから」
今日のキャセリーヌはいつも以上に機嫌がいい。機嫌が良いだけではなく気合も入っていた。
学院に隣接している馬車の待機場にはすぐに着いた。
キャセリーヌの実家が所有する馬車も停まっていた。見た感じでは貴族の多くに使われている汎用型の馬車だった。
子爵家の馬車としては平均的なものだろう。
今までコーチビルダーで馬車を嫌と言う程改造してきたエディはその馬車がどの程度の性能かは掌握しており、乗り心地はかなり悪いことを理解していた。
自分の馬車に乗って行きたいところだが、キャセリーヌがせっかく用意してくれているのだから我慢して乗らなければとエディは覚悟して馬車に乗り込んだ。
本当なら自分の家でも待つ人がいるので一旦家に帰ってから後日ということにしたかったのだがエドモン子爵領とセレオン領は方向が異なるため家に戻ってからでは来るのが大変だろうと言うキャシーの言葉に言い返せなかったからだ。
「エディ、馬車は初めてでしょ?慣れてないとキツイと思いますが歩いて行くよりはずっと早いので我慢して下さいね」
キャシーはまだエディが貴族だという事は気付いておらず幼い頃と同じ庶民のエディとして接している。
想像通り一般に貴族に使われている従来の馬車なので振動が激しかった。
しかもセレオン領と領都カーソンを結ぶ街道は舗装も施されているので馬車で出来た轍なども皆無で非常に走りやすい道だったのだが、
今はとにかく路面に凹凸や轍が出来、乗る方も操る方も非常にストレスの溜まるものとなっていた。
「・・・キャシー・・・あとどれくらいで到着するのかな?」
「うちの領までは夕刻までには着くと思います。もうしばらく我慢してくださいな」
セレオンまでは徒歩で2時間。馬車だとゆっくり走っても一時間足らずだが、エドモン領までは馬車で5時間くらいだから歩いてでは1日くらいかかる計算となる。
エドモン領はエディを見捨てた両親が住む場所なのだがエディにとっては家族と言えるのは今ではユキノしかいないため意図的に記憶から消し去り今回も何ら思う事はなかった。
ずっと続く振動にエディも我慢が出来なくなり何とか軽減する方法を考えた。馬車の改造をする時に乗り心地についても研究をしており、振動というのは周波数の伝達であることは実から教えてもらっていたので振動とは真逆の振動を与えると力が相殺されてなくなるという理論を試してみた。
但し、この方法だと全く何事も無かったかの様になってしまうため少しズレを生じさせて振動が少なくなったと思える程度に抑えた。
「あら?おかしいですわね?なんだか揺れが少なくなったようですわ?」
「もう長い事乗っているから体が慣れたんじゃないかな?それに領都とは人や馬車の行き来する量が違うから道の傷み具合も少ないのだと思うよ?」
「そうですわね。ほら、向こうの方にみえる丘を越えたらエドモン領ですよ」
結局そこから屋敷には1時間程度で着いた。




