試験会場
学院前に併設された馬車の待機所には既に多くの馬車が停まっていた。恐らく受験生を乗せてきた馬車だろう。
自前の馬車があるという事はそれなりに裕福な家だということが判る。通常の馬車を所有しようとすると金貨10枚~20枚、1,000万G~2,000万Gが必要となる。
それは馬車の購入代金だけであって牽く馬の数、馬を維持するための施設なども必要となるので相当なお金がないと所有は出来ない。
この待機所には馬車が20台程停まっている。まだ全ての生徒が揃っていないだろうから多くの生徒が裕福な事が想像できる。
そんな中、エディの馬車は一際目立っていた。派手という訳ではない。普通ではなかったのだ。魔改造とも呼べるカスタマイズが施されている馬車は見る者が見れば相当なコストが掛かっていることは一目瞭然なのだ。
だが実際には改造はエディがほぼ自分で施しており、材料も自己調達であるためお金は殆ど掛かっていないというチートの極みな能力の恩恵と言える。
馬車でお金の話になってしまったが、セレオンを統べる領主のエディは最初の一年間の期間は徴税を行わない事を宣言している。
税収は全く無し、セレオンの開発費用の殆どはエディが負担していることからかなり財政が厳しそうに見えるが実はそうではなかった。
エディには莫大な収入源があるからだ。
一つの例を挙げると一番最初にギルドと契約を結んだ獣除け剤のライセンス費用、販売価格の一割がエディの収入となるが、この魔除け剤は一年間に20万本が生産されている。これは国内全土と一部は他国へも輸出がされており、ナルタニア王国の貴重な収入源となっているのだ。
ギルドからの卸価格は1本あたり5万Gなので、エディは年間にして金貨1000枚、10億Gを得ている。
更にエディは染め物や考案した生産物について当初商売をしていた分も加えて譲渡しており、これらの収入を合わせると年間の総収入は金貨5000枚を上回ると言われている。
このうちの半分がセレオンの開発費に充てているのだが、半分残った額でも相当な財産である。
資産家となったエディだが、当の本人はあまりお金に執着がなく財産の多くはギルドの口座に入っているため自分の財産がどの程度なのかという理解は全くなかった。
「それではセレオン様、私はこちらでお待ちしております」
「うん、しばらく掛かるかと思いますが宜しくお願いします」
エディは御者に挨拶して学院の受付へと向かった。
学院の敷地は非常に広く高さ3メートル程の石の塀で囲まれている。恐らくそれだけでなく何等かしらの結界も施しているであろう。外部からの不正な侵入は不可能に近い構造だ。
500メートルほど歩いたところに入り口の門があった。
看板が立てかけられており「国立学院入学試験会場」と書いてある。ここでいいのだろう。
門をくぐると既に多くの受験生を思われる人達で溢れかえっていた。一体どのくらいいるんだろう?500人?いやそれ以上いるかも知れない。
この時エディはまだ知らなかったのだが国立学院というのはどの都市にでもあるものではない。ナルタニア王国に三か所しかなく多くが地方からの受験者なのだ。だが実際の合格定員数は二百名で半数以上がふるい落とされる運命なのだ。
「まずは受付を済まさないとね。えっと・・・あそこがそうみたいだ」
いくつか机が並べられ担当官が名簿を記入していた。かなりの人数が並んでいるから順番からしてかなり時間がかかりそうだ。
そう思っていると遠くから大きな声が聞こえてきた。
「お前らどかないか!俺は貴族だぞ!下民と一緒になんて並べるか!!」
おいおい、ここは貴族とか身分なんて関係ないところだろう。ああいう思い上がった奴と関わると碌なことがない。
と言いつつ鑑定で騒ぐ貴族という受験生の男を見てみた。
エドワード・コルソン
名前や簡単な情報が見えた。更に深く調べてみたが、能力はたいしたことがなく特出できる様な力は何もなかった。恐らく貴族というだけが彼の拠り所なのだろう。しかも長男ではなく次男ときた。
「コルソンねえ。そういえば研究会の貴族の一人にコルソン子爵っていたよね。ひょっとして彼の息子なんだろうか?コルソン子爵は物腰の柔らかい良い人だったんだけどなあ。まあ、親がそうだから子がそうとも限らないか。むしろ立派な親に愚かな子供というケースの方が多いかもね」
エディは“騒ぎは我関せず”で並んで順番を待っていた。その後あの男がどうなったのかは定かではない。
エディには見えなかったが騒ぐ男を咎めたのは一人の受験生の女性だった。
「エドワード、いい加減になさい。皆の迷惑でしょう。それにここは貴族もなにも関係はないの。皆同じ立場で学ぶのですから」
「キャセリーヌ・・・しかしだな」
「あんまり騒ぐと貴方落とされますわよ?ほら、向こうで係官が貴方の事を睨んでますよ」
キャセリーヌはエドワードの何らかしらの知り合いだったのだろう。彼女の指摘でエドワードはようやく自分の今の立場というのに気付いた。周りの白い目もそうだが係官がこれ以上騒ぐなら処分するという目は本当だった。
騒動が静まり受付も滞ることなく、ある程度の時間を経て全員の手続きが完了した。




