とあるクノイチの話
私の名前はカエデ。もちろん本名ではありません。能力を買われてセレオンの特殊諜報部隊に採用されました。
私の特殊能力は探知能力。気配の察知から索敵、罠の発見などを専門とし、任務の達成率を上げるために隠密機動や戦闘能力も訓練を行い鍛えています。
軍への士官を目指していたので小さい頃からこれらの能力に磨きを掛けてきました。
そして士官候補生の募集に応募したところ特別枠があると案内され、試験をしたかどうかも判らないうちにセレオンの部隊配属が決まってしまいました。
セレオンとは最近耳にする様になった新しい開拓地です。工房などが中心となっている筈で特殊部隊の必要性が全然理解できません。
上官と思わしき女性を紹介されました。
彼女の名前はユキノ。特殊部隊の司令官だそうです。小さい頃から戦いに身を投じていたので判りますが、この司令官の戦闘能力は殆どと言って感じられません。通常なら歴戦の勇士たるものの威圧感や気迫というものがあるのですが、それが全くと言ってありませんでした。
私達が集められたのはセレオンの中心から外れた警備隊駐屯地。
そこのブリーフィングルームに二十名程の男女が集められている。
一人ひとりが何らかの優れた能力を持っているのだろうオーラを発していた。
「はい、皆さん。はじめまして。私はここの責任者のユキノといいます。貴方たちは今日から私の配下となります」
目の前の頼りない女性が私たちの上官となる。突然言われた言葉に私を含めて納得できない者達ばかりが鋭い視線を目の前の女性に返していた。
「今日から貴方たちは国の影となって働いてもらいます。今までの名前や身分は無かったことになり、新しい名前で行動してもらいます」
「ちょっといいですか?」
この中で一番猛者と言えそうな殺気を纏っている男が口を挟んだ。一応彼も常識的に敬語は使っているが最低限の礼儀だろう。
「何かしら?」
「失礼ですが、司令官殿はどこか軍に所属されておられましたか」
「いえ、ありませんよ。まあ貴方たちが何を思っているのかぐらいはわかるわ。
全くの素人に従ってられるかってことでしょ?」
「俺たちは今までそれなりにやってきた者達です。今回初めて任務に就く者もいるでしょうが大半は既に何年も任務をこなしています」
「そうね。えっと、あなたは・・・確か暗殺術が得意としていたはね・・・じゃあ、ちょっと手合わせしてもらいましょうか。
あ、向こうから丁度いいのが来たわ。
はーい!エディ!遅かったじゃない。もう始めてるわよ」
向こうからやってきたのはトーマスと数人の事務官と一緒のエディ達だった。
「すいません姉さん。ここの施設の説明を受けていて少し遅れてしまいました」
「げっ、あれは領主様じゃないか。それに姉さんってさっき言ってたぞ」
後ろに居た誰かがそう呟いた。
「丁度いいところに来たわね。エディちょっと稽古に付き合ってくれないかしら」
「え?いきなり?またいつもの無茶振りだ・・・勘弁してよ・・・」
「文句言わないの。エディが立案した部隊の為でしょ。はい、これ木刀」
想定外の話の流れに呆然と立ち尽くしていた男は我に返った。
「ちょっと待って下さい!領主様と戦うなんて聞いてないですよ」
「まあ、これは稽古だから大丈夫よ。死にはしないわよ」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「貴方の疑問の答えを戦って確認しなさい。これは最初の命令よ」
反論する男にユキノは取り繕うつもりも無さそうだった。
「姉さんは言い出したら聞かないからね。それじゃ、少しだけやりますか」
「判りました。でも怪我をされても責任は持てませんよ」
「うん、大丈夫だよ。その代わり手加減はなしでね」
男はエディが手加減無しと言った言葉が理解出来なかった。頭が呆けたのかと思ったくらいだ。
男も観念しエディと向い合せで木刀を取った。
「それじゃ、はじめるわよ。用意はいいかしら。ルールはどちらかが降参するか気を失ったら負けでいいわね。
それでは、はじめ!」
お互い木刀を構えた。
男は目の前の領主である少年が試合が始まると同時に気配が変わったことに驚きを隠せなかった。
今までの雰囲気が一変して闘気を纏っていたからだ。
しかも隙が見当たらない。
まるで百戦錬磨の武人を相手にしている様な感じだった。
それでも男は攻めないままでいる訳にはいかない。
気合を込めてエディに向かって正面に撃ち込んだ。
エディは構えたまま動く気配がない。このままいけば木刀がエディの頭を捉えると思った瞬間、エディの姿が消えた。
男はそう思えただろう。エディの木刀は男の胴を捉えていた。
そして木刀は首筋に当てられている。
「ま、参った」
完敗である。弁解の余地もなかった。木刀を振りぬいたと同時にエディが木刀を躱し様に男の胴体に木刀を打ち、流れる様に男の首筋へと木刀が付きつけられたのだ。後になって男は自分が何をされたのかに気付いた。これが真剣なら男は確実に死んでいただろう。
「勝負あったわね。エディもやるようになったじゃない」
「いやあ、それでもまだまだ姉さんには勝てる気がしないよ」
エディのその言葉に周りの者達は凍り付いた。今エディが暗殺術を得意とする男に勝利したのにそのエディよりもユキノの方が強いというのだ。誰もが信じられなかった。
「貴方の得意なのは暗殺術であって本来なら一撃必殺。相手の油断を誘って不意打ちで確実に仕留めるものよ。こういった正面切っての戦いだと不利にもなるわ。
私は貴方たちの優れたところを活かしつつ足りないところを補ってあげることが出来るの。それは自分自身では気付かないものだったりするのよ。まあ騙されたと思ってついてきなさい」
「自分が慢心しておりました。ご無礼をお許し下さい」
男は素直に自分の非を認めた。
「今日から貴方はハンゾウを名乗りなさい。この部隊の隊長に任命するわ」
それから間髪開けずに周りの者一人ひとりに声を掛けて名前を告げていった。
そして司令官は私と目が合った。
「貴女は今日からカエデよ。諜報術の専門家ね。期待してるわよ」
司令官は私の事を事前に知っていてくれた事が無性に嬉しかった。
初日の出来事があってから誰も司令官を侮る事は無かった。
むしろ司令官からの想像もしていない様な隠密機動の訓練には誰もが驚かされ、それが身に付いて来た時には感動し合った。
司令官はこの部隊を 霞と名付けられた。
領主様と話をされているのを聞いていると霞は忍者部隊なのだそうだ。そして女性の忍者をクノイチと呼ぶらしい。
私の任務は他国に潜入して動向を調べる事だ。東に接するザリウス帝国の動きが怪しいとの情報で独自に調査に向かう事になる。
領主様の言うには私達の情報でこの国が救う事が出来るそうだ。となると責任重大です。
こうして私カエデは商人夫婦に扮して夫のコタロウと共にガリウス帝国へと潜入した。




