研究会
それから暫くして領主の号令の下、研究会が発足した。
この研究会は公務扱いとなっており、開催は領主の治政事務館の会議室で開催さされ、最初は週1回のペースで進めることとなった。
議長は商人ギルドマスターと工人ギルドマスターが週交代で行う。
参加メンバーはというと公平を期すために各ギルドから代表者1名の計4名と役所から役人が1名、領地貴族3名、会計と書記として領主執事でエディを含めた10名が初期メンバーとなった。
領主はオブザーバーとして参加出来る時に参加している。
また、議長のギルドはその回に代理の参加が認められており、商人ギルドは商材担当でお世話になっているトレンさん、工人ギルドはファーガソンさんが出席している。
この研究会では当初の目論見通りにエディの役割が大きいため会議に参加した者ならばエディの立場を理解しており子供だからといって誰も見下す者はいなかった。
流石厳選されたメンバーだと言える。
これなら準男爵の爵位なんていらなかったのでは?とエディは思っていたのだが、この参加メンバー以外からは皆好意的な目で見られるとは限らず、要らぬ災いが起らないための防衛策は施しておくに越したことはないのだ。
研究会の活動でまずはじめにエディから街の改善が提案された。
この世界では下水がないため衛生的に良くなく臭いも酷かった。
地中に下水道を通して排水を行い衛生面の改善をする事と、道路を整備して人や馬車、荷車が通りやすくさせる。
これらを実施するのはエディの役目だ。エディは着手するにあたり通常では認められない様な大掛かりなことをやろうとしているため、この研究会での決定事項であれば大手を振って施工できる。
初期作業は全てエディが受け持つつもりでいるが、今後拡張をしたり職人の労働の機会を作るという意味でも下水の配管の製作は産業として起こしたかった。
エディからは土管と便器を提案した。
会議室から離れて裏手の広場には荷車が一台とその上には2つの大きな物が積まれていた。
研究会のメンバーは荷台から降ろされた物を囲んでいる。
「これが先程ご説明しました土管と便器のサンプルになります。
この土管は粘土で作られていて先ずは筒状に形を整えた後に窯で焼成したものです。筒状だけでなく、コの字にした物なども作れます。
そしてこちらの便器も同じ手法で作られたものです」
「なるほど。これはどちらも初めて見るものじゃ。粘土から作るというので耐久性が気になるのじゃがどうじゃろうか?」
「はい、搬送する際には注意が必要ですが、設置してしまえば破損することはありません。耐久性も数十年程度では腐食することはありません」
「そうか、鉄だと錆が出るがこれならその心配も要らんという訳じゃな。しかも鉄で同じものを作るよりも遥かに安い」
「そうです。鉄で作ったものと比較すると恐らく1割程度の費用で出来ると思います。費用もそうですが、鉄となると街全体の下水管に使う量となるとこの領地の鉱山の採掘量では厳しいかと思います。粘土であれば採掘はいくらでも可能ですし多少大きめの窯さえあればいいだけですので鉄の鋳物の設備より遥かに簡略化できます」
「それは素晴らしい。これを作る産業も出来るし一石二鳥じゃのう。ところでその便器とは何ぞよ?先程から気になっておってのう」
エディは工人ギルド長をはじめとしたメンバーに便器について説明をした。
メンバーは説明を淡々と聞いていたが工人ギルド長だけは反応が違った。
「何と!儂はこういう物が欲しかったのじゃ!
この歳になると足腰が弱っての。トイレに行くのも億劫なのじゃ。これはいい。家の婆さんも喜ぶじゃろう。早く我が家とギルドに設置をしてもらいたい!」
かなりの好反応だった。こういった悩みをもつ人は世の中には大勢いるだろう。但し、工人ギルド長の反応は好反応を通り越して何か気迫めいたものがあり少し怖いものがあった。
土管も便器もメンバーには好評で特に反対意見はなかったのでプロジェクトとして進めることとなった。
便器は工人ギルド長が責任者を自らがやると申し出ていた。
些か鼻息が荒く周りが引いていたのを本人は気付いていない様だった。
実際の施工作業は圧巻だった。街のあらゆるところの地下に下水道が張り巡らされた。碁盤目状に交差しており最終的に街の外で海よりの川に排水される様になっている。
下水道までは街の道路の端に設置されたU溝の側溝で誘導する。
これがあれば排水性も高まり大雨が降っても街が水浸しという事にならずに済む。
下水道と側溝を含めて施工は夜のうちに行われた。人々は何一つ気付くことなく明朝には全て完了しており朝起きてみるとあるはずのない側溝が出来ており街の人達を驚かせた。
仮に何らかしらの才の能力で施工するとなると都市一つ分の行おうと思えば何千人の術者が何日もかけて行う必要があるのにエディは一晩でやり遂げるのだ。その内情を知っている者の方がより驚いていた。




