やるべきこと
<その日の夜>
「おいおい、ちょっと待ってよ。いきなり貴族なんてどこのドッキリかって感じだよ。どっかにカメラが仕掛けてないかい?」
「ミノル君、何言ってるか判りませんよ。カメラって何ですか?
でも貴族の話は本当みたいです。領主様が僕を囲うというか守るために用意して下さったみたいなんです」
「まあ、冷静に考えれば君の能力を知ったら悪い事考える輩が沢山いるだろうからね。その貴族、領主だったっけ?けっこう切れる人なんじゃない?行動力もあるみたいだしさ」
「うーん、どうなんだろう?でも以前魚を買い取ってもらっていたセレスさんがお忍びの領主様だったなんて悪戯も過ぎると思いますよ」
「貧乏旗本の三男坊の人みたいなもんだな」
「ミノル君、また僕の判らないことを・・・」
「ああ、ごめん。僕の世界の話なんだけど、将軍・・・えっと王様だね。王様が居候に扮して下町で生活しながら世の中の悪事を暴き成敗するというお話だよ。歌って踊れる将軍様さ」
実はエディにサンバを踊りながら説明するが恐らくその意味は伝わっていないだろう。
「へえ、そんなお話があるんですね。でもその話は遠からずだと思いますよ。きっと常日頃から領内のことを気に掛けて回られているからこそ僕の事に気付いたんだと思いますし」
「偉い人には情報網もあるだろうからね。
ところで、これからどの様にしていくつもりだい?貴族の肩書まで貰ったのならそれなりに発展の貢献をしないといけないでしょ?」
「はい、一応ミノル君と相談していた水車の動力と河川の運搬の話はしてあります。具体的には研究会という組織を立ち上げてそこで決められるそうです。僕もそのメンバーらしいですけど」
「なるほどね。恐らく君がいればその二つが立ち上がるのはそう時間が掛からないだろうね。その次のビジョンについてそろそろ考えておかないといけないね」
「次のビジョンですか?産業を増やすとかでしょうか?」
「うん、それも追々やっていかないとね。でも、もっと早くやりたい事が衛生面だよ。まあ、君たちにとっては今の街並みは極普通のことなんだろうけど、聞く話では不衛生な状態じゃないのかな?」
「不衛生ですか?」
「うん。街には多くの人が住んでいる。その人たちの排泄物とか生活排水、洗濯や工房の排水とかいろんな汚れたものを道路の溝で流しているでしょ?それじゃあ不衛生なんだよ」
「なぜでしょう?わかりません」
「僕たちの世界では下水道というのがあるんだよ。汚水を流す専用の排水溝だね。多くは地下にあり路面上にはないんだ。そうして隔離させることで臭いもないし生活用水に混ざることもなくなるからね。
中世ヨーロッパでは雨が多く降ると汚水が街中に流れ込んで街中が悪臭で悩まされていたらしいしね」
「地下に溝を通すのですか?なんだか大変そうですね。すぐには出来そうにありませんけど・・・」
「普通ならね。でも君なら出来る。まあやり方は工夫をしないといけないけどね。土を固めた土管という大きな筒があれば繋ぐだけで君以外の職人達にも施工できるよ。
そうだな、その辺も含めて雪乃さんに相談してみるといい。彼女もその辺については知ってる範囲だと思うから」
「わかりました。聞いてみますね」
翌朝エディは実から聞いたことをユキノに伝えたところユキノは絵に描いて具体的に教えてくれた。
聞くだけと絵とはいえ実際に形として見るのでは理解が異なる。
エディの能力を発揮するには具体的な想像で細部までイメージしないと構築出来ないためユキノによる補足情報は非常に役立った。
「それにしても衛生面の改善とは実君は目の付け所が鋭いわよ。
私は病院で働いていたでしょ?だからこの世界の不衛生さが気になってしょうがなかったの。
流行り病の蔓延とかは衛生面から来る場合が多いしね。
それに・・・女性ならあのトイレはないわ。更に改善を期待するところね」
「姉さん、トイレはどういものだったの?僕には何が不便なのか判らないんだけど・・・」
「こちらのトイレって穴を掘って上に板を二枚置いただけでしょ?まあ向こうの世界も汲み取り式の和式トイレは似た様なものだけど椅子の様に座る便器があれば楽になるわ。形はね、こういう感じなの」
ユキノは便器と便座をスケッチしてエディに見せた。
形は標準的な洋風便座だ。水の流れを利用して水洗式も駄目元で説明をしてみる。
「ここは水も豊富だから水洗式にも出来ないかしら?レバーを引いた時だけ水を流れる様にするの。今施工している下水に繋げておけば汲み取りの手間もいらなくて楽になるわよ」
「なるほど。それは便利だね。普段は水を塞き止めておいて必要な時だけ流れる様にするんだね。それならなんとかなりそうだね。
早速研究会で事案として提案してみるよ」
翌日、エディ達は家のトイレの改造を行った。
ユキノの言うトイレをエディが作り実際に使えるかと試してみた。
下水や水洗用の水路も確保してからトイレを構築した。
便器は陶器との指定だったのでエディが分析で使えそうな材料を見繕い合成で作り上げた。
ユキノ曰く、色が白色じゃないのが残念との事だったが原料をそのまま使って合成するとどうしても薄茶色になってしまうのだ。
水の水洗具合も何度もテストを行い必要な時だけ流れる様な仕組みが完成した。
ユキノはこの調子でシャワートイレとか温まる便座が欲しいと思ったが流石にそれは無い物強請りというものなので自重した。




