才の儀
”バタン!!”
夜も深まり日が変わりそうな頃、扉が閉まり屋敷の外に一人の少年がポツンと立っていた。
少年の名前はエディ。10歳の少年だった。エディは今屋敷から追い出された状態で、これからどうしようかと途方に暮れて立ちすくんでいた。
目の前の屋敷や中規模都市の商人街に建てられた屋敷で商人街の中では小さい部類の建物だが主人や使用人を含めて数十人が生活するソコソコの広さの屋敷だった。
「う~ん、困ったなあ・・・これからどうしよう・・・ううっ、寒い!」
エディは一人つぶやく。
季節はまだ春になったばかりの肌寒い時期で屋敷を出されてすぐは感じなかったが次第に身体が冷えてくるのを感じた。
一応手荷物は持ってきたが荷物という程の大きなものではない。
この少年、何故この様な状況になっているのか?
エディはこの中規模都市カーソンから歩いて半日程のところにある村で生まれた。エディの家は村の顔役という村長の補佐をし、納税管理や村人の仕事斡旋、相談などをする役人の様な役割をしており、裕福とまではいかないがソコソコの暮らしをしており何不自由を感じることなく育てられていた。
事態が急変したのは10歳になった時だった。この世界では”才”という他人より優れた才能を10歳になる時の儀式で授けられる。この儀式を才の儀と呼んでおり、都市にある神殿にて執り行われる。才は火・水・土・風の基本4属性や光や闇の特別属性、生命属性や付与属性、職業における技能属性など何らかしら生活に役立つ属性をもっており、この属性により自分に適正のある職業に就くというものになっている。
属性にも優劣があり、社会的に影響力のある属性を持つものは優遇され、逆に役に立たない属性は蔑視されていた。
エディに与えられたのは”理”という属性だった。才の儀を進めていた神官も知らない属性で何の役にも立ちそうにない属性に思われた。
エディは三男で男三人兄弟だったのだが、兄二人は属性を活かした職に就いており、長男は役人の見習いで次男はカーソンの防衛部隊に配属されている。まだどちらも駆け出しのため影響力はないのだが将来を有望視されていた。
当然両親もエディも何かしらの”貢献”をもたらすものとして楽しみにしていたのだ。
「神官様!これは何かの間違いではないのでしょうか?」
「理だなんて聞いたこともありませんわ」
「もう一度、もう一度やり直して下さい!!」
楽しみが覆されたことを認めたくない両親は必死に神官に詰め寄った。
「私もはじめての才ですが神の祝福です。きっと良いことがありますので落胆されないように」
神官はそう両親を諭すのだが両親よりも目の前にいる少年が不憫でならなかった。この両親の態度からして必ずこの少年に冷たく当たることは目に見えているからだ。とはいえ自分では何もできないため両親を諭す言葉を掛けることが精一杯だった。
それから両親のエディに対する態度は急変し、汚い物を見るかの様な蔑んだ目と罵倒が続いた。能無し、極潰し、お前は自分達の子じゃない等々で、あまりの変貌に当のエディは悲しいを通り越して困惑していた。
仮にも実の息子で10年間一緒に暮らしてきた間柄だ。犬や猫でも飼えば情が沸くものだ。この両親の態度が信じられなかった。本当は拾われた子じゃないかと疑ったくらいだ。
結局は将来子供が得るであろう”名誉のため””お金のため”子供を育てており、情などそもそも無かったのだろう。相当に強欲な親だった。普通では有り得ないことなのだが。
そして3日後、エディは商人へと売り渡された。商人にとっても”才”は重要で算術や商才、話術など商いに関する秀でたものがないと務まらない。だが商家では多くの人が同じ屋根の下で暮らすため日常生活の雑多な仕事も存在する。井戸の水汲みや掃除などの才がなくても出来るものも多くあり、逆にその様な雑多な仕事に才を使わせるのは贅沢なのだ。安い人件費として奴隷を使うというのもあるが奴隷の場合、役所の届けが必要なことと扱いが不当でないか定期的な監査があるため自由に使える”無能者”の方が使い勝手が良かった。
商家へ引き取られたエディは早速下働きとしてコキ使われた。今まで何不自由なく暮らしてきた”温室育ち”のエディにとってその仕事全てが苦行でありなかなか達成できなかった。井戸からの水汲みも桶の半分の量は零してしまうし、床拭き掃除も腰に力が入っておらず時間も掛かるといった具合でここに来て3ケ月になるエディだが、後から入った者の方がよっぽど使えたため見かねた主人がエディを解雇した。
雇われていたとはいえ衣食住があったくらいで碌に給金を貰っていなかったエディは無一文で外に放り出されたのだ。これから食うにも困る事態に陥ったのだ。
ここで普通の者ならばこれからに悲観して焦りまくるのだがエディは何故か落ち着いていた。
今エディは一人だ。だがエディには友達がいる。その友達と言っても普通の友達ではなかった。




