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ガラス工房

街に着いたエディは商人ギルドで納品を済ませた後に別の建物に移動した。

右隣の建物は工人ギルドだ。建物としては似た様な大きさだが職人の工房も一体となっているため入り口も広く商人ギルドとは違った熱気がこもっている。


受付のカウンターまで行くとエディは尋ねた。


「商人ギルドのエディと申します。ガラス細工に詳しい人を紹介して欲しいのですが」


「ガラスの加工ですか?それでしたらガラス工房にいるファーガソンという者に声を掛けて下さい。工房はこの奥の通路の先にあります」


「ファーガソンさんですね。ありがとうございます」


どうやら工人ギルドではギルド内に工房があるらしい。受付嬢の言う通りに通路の先にある工房へと向かった。


「すいません。こちらにファーガソンさんという方がおられませんでしょうか?」


熱気の漂う工房から汗まみれの男性がこちらへ向かってやってきた。


「私に何か用ですか?」


明らかに面倒臭そうな反応であるが商人ギルドのブロンズランクと判るエディに最低限の礼儀で男が応じた。


「お忙しいところ申し訳ありません。商人ギルドのエディと申します。

ガラスについて少しお聞きしたいことがあり受付でファーガソンさんを紹介されました」


「それで、ガラスの何が知りたいのです?」


「これなんですけど・・・透明でなく曇っていてどうしたもんかと」


エディが懐からレンズを取り出すとファーガソンが一瞬目を大きく開いてレンズを凝視した。


「ちょっとかしてください。・・・これは大した造形ですね。正確に湾曲が出てる。これを作るにはかなりの技術が必要なはずだ。でもアレですね。これは曇ってるんじゃなくて磨きが入ってないだけだ。ガラスは表面には細かい凹凸が出来ている。これを平になるまで研磨して磨いてやらないといけないのですよ」


「なるほど、そうだったんですね。ちなみに研磨ってどの様にするのですか?」


「研磨もかなりの技術が必要です。最初は粗目の研磨剤で磨いていき徐々に目の細かい研磨剤に変えていきます。少しずつ表面を滑らかにして最後に仕上げを行うという気の遠くなるような作業なのです」


「そよのうにして行うのですね。結構大変そうですね・・・」


「ところでこれは?どこで手に入れたのですか?」


「えっと・・・それは僕が作ったものです。初めてだったので上手くいかなかったみたいです」


「初めてこれが作れた?バカな。うちの職人でも見習い程度では出来ないでしょう。仕上げはマズイが造形はいい線いってる。

それだけじゃなく、これだけのガラス材料を手に入れるのも大変だったでしょう?」


「ガラスの素材って簡単に手に入らないんですか?」


「そりゃあ高級品ですからね。なんせ遠くから仕入れてる僅かな量しか確保してないから仕方ないでしょう」


「そのガラスの素材が簡単に手に入ったら?」


「高級品のガラスがちょっと高価なガラスになるでしょう。まあ夢の様な話ですけどね」


「えっと、そのガラスは僕が自分で採取して精製したものなんです。材料はこの国にあるものでそれ程特別なものではないのですが・・・」


「それは本当ですか!?だとしたら大変なことですよ?」


ファーガソンはしばらく考え込んだ。


「ちょっと待っててください!!」


勢いよく工房を飛び出しギルドの事務所ほ方へ走って行った。


そして半時も経たずに工房へと戻ってきた。ファーガソンの後ろには一人の老人も一緒に立っている。


「お待たせしました。あまりに大きい話だったのでギルドマスターを連れてきました」


「どうもはじめまして。商人ギルドのエディと申します」


「君がエディ君かね。噂は色々と聞いておるよ。今日は何やらうちのギルドにも朗報を持ってきてくれたらしいね?」


「はい。ガラスの大量生産に関するお話です」


「うむ、詳しく聞かせてもらおうかのう」


エディはギルドマスターとファーガソンさんと一緒にギルドの会議室へと場所を移動した。


「私はもともと錬金術を得意としておっての、いつかはガラス素材をこの国にあるもので賄うようにするために研究をしてきたんじゃ。研究の結果、ガラスの成分は判ったのじゃが我が国にあるものでは無くてのう。採掘される遠方の国の独占状態で値段は言うがままの状態なのじゃ。

素材も高価なので見習いも簡単には作らせてもらえず、一度作った物をまた溶かして使いまわすといった具合でなかなか職人も育たない職種なのじゃよ。


物質同士の合成の副産物としてガラスが発見されたのじゃよ。その物質合成にも金が掛かるし結果採れるガラスは少量なので非常に高価な材料として貴族の装飾品などで使われる程度だったんじゃ」


「そうなんですね。でも僕の必要とする素材はその辺の土にでも含有されている様な物ですよ?珪砂という物質なんですが・・・」


「なんと、その様なものからガラスが出来るというのか?儂らは今まで一体何をやっていたというのじゃ・・・・ してエディ君はその珪砂からどの様にしてガラスにするのじゃ?」


「それなんですが、ここだけの話ということでお願いできますか?」


「何か訳ありのようじゃの?よかろう儂とファーガソンだけの秘密としよう」


エディは流石に物を作るギルドには嘘をつき通せないと判断して本当のことを話すことにした。


「僕の能力には3つありまして、分析・分解・合成というものです。ガラスになる材料は分析で調べて、分解で必要材料を精製して、合成でガラスに仕上げるといった具合です」


「うむむ、聞いた事のない能力じゃな・・・どうやら錬金とは違うようじゃの。

いや、すばらしい。その能力があればここカーソンの繁栄も間違いなしじゃぞ」


「本当ですね!その様な能力を兼ね備えた人は聞いた事がありませんよ」


予想通りのギルドマスターとファーガソンの反応だった。

でも、勝手に独り歩きしないように釘を刺さなければいけない。


「確かに便利なのですが便利過ぎて戦争や私利私欲に利用される恐れがあるので極力この能力を知られない様にしているのです」


「うむ、確かにその通りじゃ。その能力を使えば相手に対して無双が出来るからのう。

若いのにその様な事を危惧するのは偉いもんじゃ。わかった。

儂らもここだけの話で留めておこう。じゃがな、秘匿という意味では領主様には話を通しておく方が良いかも知れん」


「領主様ですか?大丈夫なのですか?権力のある方に知られると利用される様な気がするのですが・・・」


「ほほほ、直接会ってみると判るじゃろう。心配には及ばんよ。

儂の方で段取りをしておくから2日後のこの時間にここに来ると良かろう」


「わかりました。それでは二日後にまた訪問させていただきます」


そう言ってギルドを出ようとしたところでマスターに呼び止められた。


「そう言えば忘れとったわい。エディ君にこれをやろう」


マスターから渡されたのは工人ギルドのブロンズ会員権と緑色の額当てだった。


「え?これは?」


「君を商人ギルドだけのものにしておくのは歯がゆくての。工人ギルドとも仲良くしようという記念品みたいなもんじゃ」


「記念品ですか・・・ありがたく受け取っておきます」


「まあ悪いようにはせんて。それじゃ、また二日後な」


エディはマスターやファーガソンさん他、状況を知らないギルド員の人達に見送られた。


「それにしても困ったなあ。まさか領主様に会わなければならないなんて・・・ 僕からしたら雲の上の人だよ。あ、でも会うのはギルドでだから特別作法とか必要ないよね?こういったことは実君に聞いても知らないだろうし・・・ まあなる様になるか・・・」


一人でブツブツ街の門に向かって歩いていたエディだが、その姿は緑の額宛と緑のスカーフといった緑尽くしの恰好で意外と人目を引いていたことに本人は気付いていなかった。


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