古竜の訪問
エディがセレオンを離れた事により起きた騒動もあった。
深緑の森から古竜クレセアが人の姿で子供を連れてセレオンへ訪れたのだが、エディはもう居ないと聞いて腹立てて竜の姿に戻り怒りまくった。
対応した者も妙齢の女性が子供を連れて元領主に何用といった感じで無礼な態度で接したのも悪かった。運が悪い事に過去に領主の子供と嘘を言い取り入ろうとした女性がいたため今回も同様と思われてしまった。
古竜との関係を知っているトーマスとユキノが騒動を聞きつけ、慌ててクレセアに事情を説明し宥めることで何とか収まったが場合によってはセレオンが消滅してしまったかも知れない一大事だった。
クレセアもユキノがエディの姉だと言う事は知っていたためそれ以上暴れて迷惑を掛ける事はなかった。
ユキノからエディの近況を聞き、それならとクレセアは子竜のクーを連れて王都へと飛び立ちエディの元へとやってきた。
ドラゴンが飛来してきたと今度は王都が大騒ぎになる。王都の防壁には門衛や国王軍の兵が駆けつけ警戒しながら構えているところに急降下した竜が突然人の姿に変わった。
その場に居た者全員が信じられない光景に我が目を疑った。
クレセアから「エディはおるか?」と人の言葉を話すことで更に驚きが増していた。
一大事の知らせに国の重鎮や国王までがその場へ駆けつけた。その一団の中にエディも居たのであっけない再会となった。
すぐにクレセア達は城へと案内された。既にエディからクレセアが古竜だと国王は聞いており、周りには粗相のない様丁重にもてなす様指示されていた。
国王は恐る恐るクレセアに話しかけた。
「それで古竜様。こちらにはどういった趣でお越しいただいたのでしょうか?」
「うむ、其方が国王であったな。我は古竜のクレセアと申す。エディとは顔馴染みでな。セレオンに行ったのだが既に居らぬと聞いてここへ赴いて来たのだ」
「あっ、そういえばクレセアさんには王都に引越す事伝えてなかったね・・・」
「そうだ、何も聞いとらんぞ。水臭いではないか。我と其方の関係はそんなに薄っぺらいものだったのか?一言くらい挨拶と甘い菓子の手土産があっても良いだろう」
「あは、バタバタしていて・・・ごめんなさい」
「我は非常に立腹しておるぞ。そうだな、甘い菓子が山盛りあると機嫌も直るやも知れん」
“結局甘い物が食べたくなったんだね”
「それはもちろん。今まで食べた事のないお菓子を沢山用意するよ」
「おお!そうか、そうか。期待しておるぞ」
「でも、用事ってそれだけじゃないよね?」
「うむ、そうだったな。むしろこっちが本題なのだ。我が子、キューの教育をお願いしようと思っての。以前に世話になると話しておっただろう。それでセレオンを訪れたわけだ」
「えっと、教育ってことは学校に入るってことかな?」
「その通りだ。深緑の森に居っては俗世の事や幅広い知識を得る機会がないからの」
「そうだったね。何れ面倒見るって話だったよね。思い出したよ。それじゃあ、新しく学校を作ったことだし受け入れは可能だよ。丁度いいタイミングだったね。国王様、宜しいですよね?」
「そうだな。私から特別に市民証を発行しよう。特に何ら制限はないので不自由することもなかろう。学校への編入に関してはセレオン伯に任せる」
「ありがたい。我が子は特別扱いせず、平民の童と同様に扱ってもらえばよい」
「それじゃあ、キューは初級クラスに入ってもらうね。小さい子達ばかりだからすぐに馴染むと思うよ」
「うん、ありがとう!わーい、たのしみだな。おともだち、できるといいな」
キューは竜としては幼竜としてはかなり大きく成長しているが、人の姿に変わった時は小学生の低学年程度の見た目となる。初級クラスだと同じ年代の子供達ばかりなので丁度いいだろうとエディは考えた。
「それで、エディよ。我達はどこに住まえば良いのだ?」
「えっと・・・クレセアさん、ひょっとしてキューを送りに着ただけではないのかな?甘い物食べたら帰るとかではないの?」
「当たり前だろう。甘くて美味しい菓子が毎日食べられるというのに何故我だけ戻らねばならんのだ」
「セレオン伯の屋敷に住んでもらえばよかろう。儂は見た事ないが広い屋敷だと聞いておるぞ」
「うむ、エディのところなら文句は言わぬぞ。菓子については文句を言うかも知れんがの」
「やれやれ・・・わかりました。クレセアを甘いお菓子付きで持て成しさせていただきます」
こうしてクレセア親子はエディの屋敷に住むこととなった。一般の宿屋でも良かったのだが、万一他の客とトラブルでも起きたら大変だと思い、自分の目の届くところに居てもらう事にしたのだった。
一緒に住むといっても屋敷の離れに専用の家を用意するので新婚気分をまだ味わっていたいエディとキャセリーヌにとって問題とはならなかった。
「うちの屋敷に専用のパテシエを雇わないといけないな」
パテシエは屋敷専用と言うよりもクレセア専用といった方がよいかも知れない。