無欲な冒険の始まり
森を抜けて都市に行くには一本道の方を通って行けば早く着くのだがあえて通らない。
わざわざ道のない森を抜けて行くのには理由がある。1つは食料の調達が簡単にできること、前にこの森で鍛錬をしたことがあるので慣れているというのが大まかな理由だ。
ただしこの森にはウルフが出るので危険も十分ある。早朝に出てきたのはこのためだ。
ウルフは夜行性なため朝方にはあまりでないはずだ。出たら出たで食料になるからいいのだ。日が大分と登り始めたと思ったらいきなりウルフと出くわしてしまった。
「めんどくさ」
と全く楽しくなさそうな声で言いながら腰から短剣を引き抜いて逆手に持ち中段で構えた。どうやらウルフもやる気みたいだ。こっちを向いて腰を低くして睨みつけてきた。ウルフは賢いが基本的に動きは単調だ。奴らは相手の動きをしっかりと見定めて襲ってくる。なのでこっちは襲って来るタイミングを見計らってカウンターを入れればいいのだ。見誤ると襲われて骨の髄までしゃぶられることになる。
10メートルぐらい離れたウルフは走り出したほんの一瞬で目の前まで来て襲いかかって来た。シンは左足をウルフが来るであろう場所の少し左に足を出し、その左足を軸にして回転し、ウルフの首元に短剣を突き刺した。ウルフはナイフが抜けて地面にへたり込んだ。この技はあの男から教わった技だ。ウルフは単調だからカウンターを上手いこと決めて弱点の首元を掻っ切るという効率のいい技だ。しかし、あの男はシンに獣との戦い方は教えていったが、人との戦い方を教えていかなかった。
ウルフの毛を剥いで、肉を小瓶に詰めてその場を去った。 その後も何匹かのウルフを倒し、順調に森を進んでいった。
日もだいぶ落ち、そろそろ日が暮れようとしている時にシンは野営の準備をしていた。
森の野営はかなりの危険だがやりようはある。
まず鈴の実というこの森でよく見かけるタイプの実だ。これは外が皮に覆われていて中で種が揺れることによって音を鳴らすという実だ。それを柔らかい紐状にものにできるだけくくりつけて半径3メートルぐらいに張り巡らす。あとは小瓶に詰めておいたウルフの肉にハーブをいれておくと獣はよっち来ないし、肉の臭みもとれる。
夕食は火を起こしてその辺に落ちてある枝に最後に狩ったウルフの肉をハーブに付けて焼くだけ、味はないが食べれる程度の味にはなる。
食べ終わると今度は町で買った砥石にばあさんにもらった酒をかけて短剣を研いで寝る支度を始めた。寝る支度と言ってもテントとかを張るわけではなく、木にもたれかかって周りの気配を確認してから目を閉じるだけだ。
「対人戦をどうにかしないとな」と言いながら目を閉じて浅い眠りについていった。