旅への祝福
少年の名はシンという名前らしいが特に自分の名前はどうでもいいらしい。そう彼にとってはどうでもいい事だった。なぜなら、彼は『無欲』だからだ。彼はあらゆる事に関して無欲だった。欲というものは人間の全てだと言っても過言ではない、つまりそれが無いと生きていくことができないという事だ。だから男はシンに死ぬことなどできない呪いをかけた。ただしそれは不老不死という訳では無い。シンは自ら死ぬという行為ができなくなったのだ。そこでシンは考えた。あいつを殺せばこの呪いが解けるのでは無いかと。シンは機会を伺っていた。あの男は今となっては国王だ。そう簡単に殺せるはずがないのは明白だった。だが国王になったという噂の後に遅れてやってきた。あの男が植え付けた種を持った少年少女を倒せば、国王に挑むチャンスがあると。シンはすぐさま町を出る支度を始めた。いつか仕掛けてくるであろうあの男のためにこの十数年しっかりと準備をしてきた。
働きたくもない酒場で働き、あの男に教わった鍛錬をこなし、武器や防具、薬草もちょっと広い町へ行き揃えた。あとは最低限のものを持ち、出かけるだけだった。
荷物の準備ができたシンは家を出た。
荷物と言ってもバックパックを背負ってる訳ではない、腰には町で買った短剣と巾着袋が二つと腕と胸に一番軽いであろう防具をつけているだけの格好だった。
私物は要らないただあの男を殺すだけだ。
但し面倒なことにあの男を殺すだけでは、いかないらしい。
あの男が俺のように種を植え付けたと言う少年少女に勝たなければならないらしい。
さらに面倒なことにその少年少女たちはこの国が七つに分けられたその七つの一つずつにいるらしいと働いていた酒場で小耳に挟んだ。しかも相当強いらしい。
あの男男を殺すためなら仕方がないと、踏ん切りをつけ町を出るために歩いていた。
この町は狭い、全員が顔見知りみたいなものだ。歩いていると一番会いたくない酒場の店主に声をかけられた。
「あんたもう行くのかい?別れぐらい言いに来な。ちょっと待ってな」
そう言い掃き掃除の手を止めて店の中へ入っていった。あまり綺麗とは言えないが夜は賑わっていて、いつも深夜までどんちゃん騒ぎをしている。
チリンチリーンという音と共に店主が店から出てきた。
「これを持って行き」
見た目は皮という感じで蓋が付いていて何か中に入っている様子だった。
「酒だよ、祝い酒だよ、大事に飲みな」
そう言って店主は店の中へ入っていった。
「ありがとう、ばあさん」
小さく呟いて、街の外へかけていった。