表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第四話

 夕日の光を背に受け、伸びる二つの影。

 いつもの帰り道。先程まで三つだった影が二つになり、二人は家路を歩く。


 ふと何かが気になり、後ろを振り向く。別に何かがあるわけではない。ただ、オレンジの夕日が鮮やかにその存在を示しているだけだ。


「どうかした?」

どうしたのか? 自分でもわからない。ただ気になったのだ、なんとなく。

「俺も本屋行ってくるわ。何かを買わなくてはいけない気がする!!」

なによそれ? 納得のいかないミカを残し、来た道を戻る。ちょっと走る。走れば伊達ちゃんに追いつくかな?

 少し走って気づく、一度家に戻って自転車で来た方が早かった気がすることに。


 住宅街から商店街へ抜ける。角を曲がれば目的地。見慣れた本屋の看板に、見慣れない人集り。

少し気になりながらも通り過ぎる。しかし、視界の端に見えたモノが気になり足を止めた。レンズにヒビが入った黒いフレームの眼鏡。身近な人の顔を連想してしまい気になった。


 まさか……ね。争いごととは無縁そうな彼が。そう思いながらも嫌な感じに突き動かされ、怒声のする中心部に踏み込んだ。

 警察官二人に両脇を抑えられながらも抵抗を続ける、金髪が印象的な男が見える。その手前に見慣れた制服、ブレザーの背中が見える。見覚えのある眼鏡に制服、間違いなく俺が追いかけてきた彼だった。


「伊達ちゃん?」

呼びかけに応えるようにゆっくりこちらに向けた顔には明らかに争った跡がわかる。その瞬間一気に頭に血が上る。

「ダメだよ! 今行ったらシンヤ君まで捕まっちゃうよ」

ボロボロになりながら必死に俺の足にしがみつき静止させる、その腕に力は入っていない。しかし、その強い眼が溢れそうな怒りを鎮め、自分を押しとどめた。

 人垣を分けて救急隊員がやってきた。伊達ちゃんを搬送するためだ。俺も一緒に救急車に乗り病院へと付き添った。一人で大丈夫だからと断られたが、俺がその言葉に素直に従うような人間だとわかっているのだろうから、これは逆の意味だと、勝手に解釈して付き添った。救急車に乗る寸前、レンズにヒビこそはいっているがまだ使えないことはない、とても大切なもの。さっと拾っておいた。


 大部屋の病室、一番出入り口に近いベットに掛けている。大層な包帯をしてもらっているが本人はそこまで悪くないと、大袈裟だと笑っている。ミカとコウヘイも来ている、当然だが俺が呼んだからだ。三人が揃っているから、伊達ちゃんはいつもみたいに笑っている。

 扉をノックする音がして来客が来た。普段は離れた位置からしか見ることがない学園長だ。遠くから見ても思ったが、近くで見ると余計に感じるこの人の若さ。一体幾つなんだよ? 謎である。


 「伊達基紀君、先程警察署に行って事情を聞いてきました」

話し始めると、入ってきた時の柔らかな雰囲気は消えていた。気の利くコウヘイは、すぐに空気を読んで動きだした。

「僕たちは出ていきましょうか?」

「出るか! ここで一緒に話を聞くに決まってるだろ」

隣に困り顔が見えるが、そんなものは関係ない。俺だぅて当事者の一人だ。

「わかりました、新谷君、深山さん、須藤君。三人も一緒に聞いてください。」

仕方がない、という感じに見えなくもない表情で了承してくれる学園長。

 「まず、聞きたいことがあります。伊達君、あなたに怪我をさせた相手は知り合いですか?」

「いえ、違います」

「そう、ですか……。それでは相手の方とは何も関係はないんですね?」

「はい、知らない人です」


「なんですか? その取り調べみたいなのは。伊達君が疑われているように聞こえるんですが」

静止させようとミカが袖を引っ張る。

「そういうわけではありませんよ、新谷君。私は……いえ、私が、皆が通う学校の代表であるからこそ確認が必要なのです。現在、相手の方は取り調べを受けています。彼は、警察の方が前から探していた人だったらしくその人と伊達君、あなたが一緒にいたのであなたのことを仲間ではないのかと? おっしゃっていました」

 ふざけんな! 叫び勢いで立ち上がる俺を厳しくたしなめる学園長。

「最後まで話を聞きなさい新谷君! 私は勿論我が校の生徒である伊達君の言葉を信じます、何より尊重します。しかし、警察の方はどんなことにもまず疑って、調べる。それがお仕事です。真実がわかるまでは伊達君のことも疑ったままです」

 「相手の人は僕と知り合いだとか言ったんですか?」

「いえ、何も言ってません。黙秘を続けているそうです。それなら余計に、伊達君を疑うのはおかしいと抗議をしたのですが、通報をしてきた方の証言で争っていたのが髪を染めた人と眼鏡の人だと」

「僕はその二人の喧嘩の仲裁に入っただけで!」

 わかっていますよ、と言葉ではなく手で伊達ちゃんを制する学園長。これは、伊達ちゃんだけでなく、今にも飛び出ていきそうな俺も落ち着かせようとしてとった行動だろう。

「私個人としては、伊達君の言葉を信じしています。ですが、警察の方が伊達君は関係がない、そう判断していただけないかぎり学校としては何もしない訳にはいきません」

 ひと呼吸、間が生まれる。

「伊達基紀君、二週間の謹慎処分とします。これは学校としての判断です。ですが、伊達君の疑いが晴れ次第この処分は取り消しとします。よろしいですか?」


 「わかりました」


 この時見た伊達ちゃんの寂しい表情がずっと俺の頭から離れず、耐え切れず俺は行動を起こした。



 次の日、放課後。


 伊達ちゃんは昨日、念のための検査入院として病院に泊まっている。もう家には戻っているだろう。俺が今日、伊達ちゃんの処分をどうにかできれば明日にだって戻って来れる知れない。とっとと疑いが晴れればそれが一番いいのだが、いつになるかわからないものを、待ってるほど俺の気は長くない。とは言うものの何か秘策があるわけではない。だが何もしないのはもっと嫌だ。


 授業が終わると、早々に席を立つ。長い付き合いの二人には、なにか感じ取られるのはわかっているのでトイレを我慢してたと言い放って逃げてきた。少しの間身を隠し二人を巻いてきたはずだが、しつこいミカには結局捕まってしまった。そうなると必然的にコウヘイも俺を止める為加わることになる。

 二人は、俺が言い聞かせて諦めることなどはないと理解して無理やり押さえ込もうとしているが、その程度の力で俺を抑えられるわけがない。

「部長!! シンタロウを止めるの手伝ってください!」

「お? おぉ!」

訳も分からず推研部長早川も加わるが、俺を止めることなど出来はしない。三人を引きずりながら学園長室へと殴り込む。


 「学園長! 話があります」

学園長はため息を一つ。

「新谷君、来ると思ってましたよ。皆を引きずってきたことは予想外でしたけど」

おどけてみせるのは話を誤魔化したいだけだろう。

「伊達君の処分を取り消してください」

「急ですね。話とはもっと順序立ててするものですよ?」

全身に力が入り飛びかかろうとする俺を、更に強い力で抑える皆。

「わかっていますよ。どうぞ、みなさんも」

応接用のソファを勧められたが、座ることなく話を進めた。

「それでどうなんですか?」

大きい声を出したところで学園長は顔色一つ変わりはしない。変わらずの澄まし顔。

「昨日話した通り、 学校・・としての判断は変わりません。疑いが晴れるまでは、謹慎です」


 「それは、伊達君のこと生徒のことを信用していないということですか? 先生達はよく、先生のことを信頼しろって言いますよね? でもそれって一方的だって気づいてます? こちらからすれば信頼してほしいならまずは生徒のこと信用しろ! っていつも感じます。だってそうでしょう、“信頼”って互が想い合ってこそでしょう?」

 気持ちが収まらず、愚痴にも似た言葉が口をついてしまった。だが、自分が先走ってしまっただけで学園長の話はまだ途中であった。

「――ですが、私個人としてはそんなことはしたくはありません。かといって何もなしに謹慎を解くことは出来ませんね」


 新谷君、私と勝負しませんか?


 その場にいた皆の理解が追いつかない。どういう意味なのか? どういう意味で言ったのか。

「なにがいいかしら? ……じゃんけん、ジャンケンをしましょう」

「そんなんで処分変えていいんで――」

「嫌ならいいですよ。処分は変わりませんが」

自分の言葉にかぶせるようにして、挑発してくる。


 「やらないなんて言ってないでしょう、やりますよ! ジャンケンでもなんでも!!」

何かのせられている気がするが、こんなことで済むならそれでいい。

「あなたが勝てば、伊達君の謹慎処分は見直しましょう。では、いきますよ新谷君! ところで、知っていますか? 誰にでも平等な勝負ができるはずのジャンケンの勝率を上げる方法。色々あるみたいですが一番効果が高いのは相手より精神面で優位に立つことです。優位に立ち、相手のだす手を誘導することができるのです」

 突然すぎて何を言っているのかわからなかった。


「私はグーを出しますよ」


 ジャンケンのコールがされる。俺の意識は学園長の言葉を繰り返し続けている。そして、これがジャンケンで優位に立つということなんだと、思い知らされる。俺の手は学園長に勝とうとする意識でパーを出してしまった。

 学園長は……宣言通りのグーを出していた。

「どうして……?」

「私は学園長。その立場上教壇に上ることはありません。ですが、私も教師の一人。我が校の生徒達のことを何より信頼しています。という答えでは駄目ですか?」

なんと返していいか分からず黙ってしまう。

「では、伊達君は怪我が治り次第すぐにでも登校してくることを許可します。その間の期間を謹慎期間とする。それでなんとか話をつけておきますよ」

 優しく笑う学園長に誰も異議を唱えることはできなかった。俺達ではこの人には勝てない。そう、痛感した。


 謹慎が解け、伊達ちゃんは包帯をしながら学校へやって来た。さすがにもう少し休んでてもいいんじゃないかと思ったが、あの笑顔を見てしまったら誰もなにも言えなくなってしまう。



 『推理小説研究会』はまた、全員で活動を再開した。



『謹慎』は自宅謹慎のイメージが高いのでその感じでいきましたが、リアルでは自宅謹慎までの重い処分はほとんどないそうです。しかし、作者の都合で自宅にいてもらいました。あしからず。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ