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将棋入門一歩前!  作者: 稲葉孝太郎
駒の動かし方を覚えよう!
6/60

 今日は金曜日、週末だよ。

 部室に誰かいるかな?

「こんにちは」

 ……あれ? 誰もいない。残念。

「いないなら、帰ろっかな……」

「おいーす、遅れちまったぜ」

 うわッ! びっくりしたッ!

 私が振り返ると、冴島(さえじま)ちゃんが入り口に立っていた。

 あいかわらず、学ランを着ている。しかも、頭に「必勝」の鉢巻き。

 応援部から直行して来たのかな?

「お、待たせたな」

「ううん、今来たばっかりだよ」

「そっか」

 冴島ちゃんは何だか安心したような顔で、部室に上がり込む。

 そして、どかりと椅子に座った。

「よーし、宿題はやって来たか?」

「うん、やってきたよ」

「じゃあ、解答を見せてみな」

「ばっちこーいッ!」

 まずは、一番簡単な、角金からやるよ。

 

《角金》

挿絵(By みてみん)


「正解だぜ。ま、こりゃ楽勝だよな」

「そうだね。銀は、ちょっと難しかったかな」

 私は金と銀を交換して、盤の上で並べ替える。


《角銀》

挿絵(By みてみん)


「だな。これも正解だ」

 昨日、冴島ちゃんに教えてもらったヒントを使ったよ。

 王様の移動先を、味方の駒の移動先で埋める、だね。

「香車は飛車と同じパターンだよね。だから……」


《角香》

挿絵(By みてみん)


 こうだね。

「よし、じゃあ、角歩はどうだ?」

 角と歩はねえ……。

「できないよ」

 私は、自信たっぷりに答えた。

 冴島ちゃんも、にやりと笑って頷き返す。

「正解だ。角と歩だけじゃ、詰まないからな」

 冴島ちゃんはそう言って、箱へと手を伸ばした。

 新しい駒かな? 今度は、何だろうね?

「次で、最後の駒だぞ」

「え? もう終わり?」

「8種類もありゃ、十分だろ。……これが、桂馬(けいま)だ」


挿絵(By みてみん)


 これは、全然予測がつかないね。どう動くんだろ……。

「この駒は、ちょっと取っ付きにくいかもな。動き方は、こうだ」

 冴島ちゃんは、いつも通り、おはじきで移動場所を示してくれた。

 

挿絵(By みてみん)


「???」

 何だか、変な動きだね。前にふたつ進んで……それから左右にひとつ。

「ハハ、そんな顔すんなって。まあ、最初はちょいとコツのいる駒だ。ところで、複数マス動ける駒の中に、他の駒を飛び越せる例外があるって、知ってるか?」

 うん、それは知ってるよ。だって……。

「歩美ちゃんが、そう言ってたよ」

「じゃあ、話は早いな。……ずばり、こいつがそうだ」

 へえ、桂馬のことだったんだ。

 そう言えば、これが最後の駒なんだから、当たり前だよね。

「どうやって飛び越すの?」

「そりゃ簡単さ。見てろよ」

 冴島ちゃんは、歩を3枚取り出して、盤の上に置いた。

 

挿絵(By みてみん)


 これは、飛車とか香車だと、もう動けない状態だね。私でも分かるよ。

「さて、こう囲まれた状態から、桂馬は……」

 冴島ちゃんは桂馬を持ち上げて、それを前に移動させた。


挿絵(By みてみん)


「こう動ける。反則なしで、だ」

 なるほどね、歩を飛び越せるんだ。

「他の駒なら、何でも飛び越せるの?」

「ああ、王様だろうが角だろうが、何でもな。だから、桂馬を動かすときだけ、『跳ねる』って言うんだ。他は『進める』とか『寄る』とか『引く』なんだけどな。他の駒の上を、ぴょんと跳ねてるイメージだ。覚え易いだろ?」

 へえ、この機能って、便利だね。要するに、閉じ込められないってことだから。

「これで、全部覚えたね、ありがとうッ!」

「まあ、そう焦るなって。実はちょっとした裏話もあるんだが……それは置いといて、今日は、これまで勉強した駒を使ったパズルを解いて行こうか」

 裏話? 何だか気になるよ。

 私は興味津々という顔をしたけど、冴島ちゃんは構わず先を続けた。

「問題だ。これまで勉強した王様以外の駒から任意に2枚選んで、それを使って王様を詰ませてくれ。王様の初期位置は自由。これまでと一緒だな」

 うーん、裏話が気になるけど、今日はパズルに集中しようかな。

 ただ、その前に……。

「えっと、大川(おおかわ)先輩、歩美ちゃんと一緒に、結構やったんだけど」

 それに、冴島ちゃんともやったよね。角と飛車を。

 私がそう言うと、冴島ちゃんは残念そうに頭を掻いた。

「何だ、そうなのか。じゃあまずは、新しく桂馬のバージョンを潰すか」

「はーい」

 桂馬の動きに注意しないとね。

 私はもう一度確認して、それから金を持ち上げた。

「今回も、金から行くよ」


《桂金》

挿絵(By みてみん)


「うむ、金はいつも簡単だな。次は何だ?」

「……銀かな」

 私は金と銀を持替える。だけど、金と同じ形じゃ詰まないね。

 ……あれ? 詰まないのかな?

「よーく思い出せよ。逃げ道封鎖の法則だ」

 ん? ってことは、詰むのかな?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あ、やっと分かったよ。こうだね。

 

《桂銀》

挿絵(By みてみん)

 

「正解だ。桂馬で、王様の右を封鎖だな。次は?」

「うーん……できそうにないのから言ってもいい?」

 私の提案に、冴島ちゃんは当たり前と言った顔をする。

「ああ、いいぜ。できないのも、ひとつの答えだからな」

 よし、じゃあねえ……。

「歩と桂馬は無理かな」

「だな。歩と桂馬だけじゃ、ちょいと詰まねえ」

「それに……桂馬と香車……桂馬と角も無理かな」

「ん、角は合ってるが……香車は詰むぜ」

 え? ほんと?

 香車じゃ詰まないと思うんだけど……だって……。

 私はおはじきを駆使して、自分の思考を確認する。

「まず、こう置くよね?」


挿絵(By みてみん)


「王様の横ふたつを封鎖か……で?」

「で、残りの1ヶ所を封鎖したいんだけど……赤いところを封鎖するには、桂馬をここに置くしかないよね?」

 私は、桂馬を置いた。

 

挿絵(By みてみん)


「だけど、今度は桂馬が香車を邪魔して、逃げ道が2つ空いちゃうよ?」

 駒を飛び越せるのは、桂馬だけだもんね。香車は桂馬を飛び越せないよ。

「なるほど、そこまで分かってんのか。……じゃあ、宿題その1だな」

 うわーん、宿題にされちゃったよ。

 でも、どうやっても詰まないと思うんだよね。ほんとに正解があるのかな?

「さ、次へ行こうか。飛車はどうだ?」

 飛車……飛車は香車より強いから、必ず詰むよね。

 あ、でもこうしちゃうと……。


挿絵(By みてみん)


「それは、さっきと同じで詰まないよな」

「……だね」

 うーん、何がダメなんだろ? 縦がダメなら……。

「そっか、横にすればいいんだね」

 私は飛車の位置を変える。

 

《桂飛》

挿絵(By みてみん)


「よっしゃ、正解。残りは……桂馬2枚か?」

「そうだね……ただ、桂馬2枚は……」

 詰む気がしないね。何か、だんだん感覚的に分かるようになってきたよ。

「ただ、何だ?」

「詰まないんじゃないかなあ?」

 私がそう言うと、冴島ちゃんは目を閉じて、深く頷いた。

「それも正解だ。じゃ、桂香だけが宿題だな」

 うわーん、ほんとに分かんないよ。何か盲点になってるのかな?

 私が桂香のパターンを考え続ける間、冴島ちゃんは他の駒を取り出した。

「お次は、少し趣向を変えるぜ。王様以外の駒から、好きな駒を2枚選ぶ。それを配置して王様を詰ませるわけだが……但し、王様の位置は、オレが決めるぜ。先に動くのは、やっぱりオレの王様だ」

 自由度が、ひとつ減ったね。でも、いろんな駒を使えるなら、大丈夫だと思う。

「まずは、これだ……」


挿絵(By みてみん)


 ふえ……この位置は、初めてかも……。

「よし、駒を2枚選びな。できるだけ、パターンを多くしてくれよ」

「えっとね……」

 私は、駒の山の上で、指をくるくるさせた。

 金2枚が、いつも強かったけど……。

 あ、今回もいけるね。

「金2枚から行くよ」


《金金》

挿絵(By みてみん)


 やっぱり金は強いね。詰ますときは、一番頼りになるかも。

「正解だ。他には?」

「他には……」

 そうだ、あの形もあるね。

 私は、香車を2枚探して、それを下に並べた。

 

《香香》

挿絵(By みてみん)


「正解。早かったな」

「香車2枚の形は、歩美ちゃんのときに一回やったんだよね」

 王様の位置は、微妙に違うけど、理屈は同じだよね。

「なるほどな……他には?」

 他には……銀2枚かな? でも、銀を縦に並べても、詰まないよね?

 もっと分かり易く……。

「飛車は香車の代わりになるから、香車と飛車、飛車2枚も詰みだね」


《飛香》

挿絵(By みてみん)


《飛飛》

挿絵(By みてみん)


「正解。……他には?」

 え? まだあるの?

「ちょっと待ってね、組み合わせを考えるよ」

 えーと、7種類から2枚……飛飛、飛角、飛金、飛銀、飛桂、飛香、飛歩、角角、角金、角銀、角桂、角香、角歩、金金、金銀、金桂、金香、金歩、銀銀、銀桂、銀香、銀歩、桂桂、桂香、桂歩、香香、香歩、歩歩……28パターンもあるッ!

 頭がくらくらしそうだよ。でもね、このうち4パターンは調べたから、残りは24。まずは、できそうにないのから潰して行こうッと。

「この王様の位置だと、歩と何かじゃ詰まないと思うんだよね」

「お、そりゃいい発想だ。歩+αの形は、除外してもいいぜ」

 だよね。だから残りは、飛角、飛金、飛銀、飛桂、角角、角金、角銀、角桂、角香、金銀、金桂、金香、銀銀、銀桂、銀香、桂桂、桂香の、17パターンだよ。

「できそうにないのを言うよ。えーと……角と角、桂馬と桂馬、桂馬と香車、角と香車は、パッと見た感じ、できないっぽいかな」

「角角、桂桂、桂香、角香……ああ、合ってるぜ」

「それから、飛と桂馬……っていうか、桂馬+αは、全部できないんじゃないかな?」

 私の予想に、冴島先輩は大きく頷き返した。

 やったね。これでかなりパターンが減ったよ。残りは、飛角、飛金、飛銀、角金、角銀、金銀、金香、銀銀、銀香の、9パターン。3分の1以下になったね。

 こうなったら、後はシラミつぶしだよ。

「飛車と角は……無理かな」

「だな、この場合は無理だ。上下に2通りの逃げ方があるぜ」

「それに……銀銀もできないよ。サイドがスカスカだから」

「正解。そろそろ分かって来たんじゃないか?」

 うーん……一番詰みそうなのは……。

 あ、分かったよッ!

「飛車と金だね」

 

《飛金》

挿絵(By みてみん)


 なんで気付かなかったんだろ。上下逆さまに考えてたからかな?

 金と飛車の位置を交換すると、上に逃げられちゃうもんね。

「気付いたな、正解だ。他はどうだ?」

 まだあるみたいだね。残りは、飛銀、角銀、金銀、金香、銀香。

「……金香と角銀は無理みたいだね。後は……銀香も無理かな?」

 私の呟きに、冴島ちゃんはぴくりと眉を動かした。

「待て……銀香はできるぞ」

 あれ? そうなの? じゃあ、銀香は詰むんだ……。

 私は、じっとボードを睨む。

 銀香……銀香……。

「おっし、残りは宿題その2にするか。何が残ってる?」

「えーと……金香、角銀は詰まないんだよね?」

「ああ、そいつは詰まねえ」

「じゃあ、飛銀、角金、金銀、銀香の4つだよ」

「ちょうどいいな。それぞれについて、できるかできないか考えてくれ。じゃ、王様の位置を変えるぜ」

 冴島ちゃんは、王様を持ち上げて、今度は隅っこに置いた。


挿絵(By みてみん)


 これは隅っこだけど……いつも私が置いてる場所と違うね。私はいつも、左奥だもん。

 何か違うのかな? 一緒な気がするけど。

「よし、さっきと同じ要領だ。こいつを詰ませてみな」

「いいよ。やっぱり、金2枚からだよね」


《金金》

挿絵(By みてみん)


「同じ理屈で、金を使うパターンは全部詰むよ」

 私の一言に、冴島ちゃんはしかめっつらをする。

「ブーッ、外れ……全部じゃないぜ」

 あれ? 違った?

 私はボードを見る。

 えーと、飛車と金は、似た形で詰むよね。金と香車も詰むし、金と歩も……。

「あ、ごめん、金と桂馬は詰まないや」

 私は確認のため、駒を並べた。

 

挿絵(By みてみん)


「だな、こいつは金を取りながら逃げられるぜ」

「ってことは、金と角もダメだね」

 ……あれれ? 冴島ちゃん、また渋い顔してるよ。

「それも間違いだな……確かに、その形では詰まねえが……」

 つまり、この形以外で詰むんだね。考えるよ。

 ……あ、簡単だね。

「ほんとだ、詰むね」


《角金》

挿絵(By みてみん)


「言い直すよ。金を使うときは、パートナーが桂馬のときだけダメ、だね」

「よし、正解だ。他には?」

 他には……。

 だんだん、コツが分かってきたよ。強い駒から考えた方がいいんだよね。

 だから次は……。

「飛車も結構詰むと思うよ。飛車と飛車、飛車と金、飛車と銀、飛車と香車、飛車と歩。これは全部詰むよね。金はさっき言ったし。で、飛車と桂馬は、やっぱりダメだよね」

「じゃ、飛車と角は?」

「金角と同じ形で詰むよ」

「ほんとか?」

 冴島先輩は、にやりと白い歯を見せた。

 うん、これは間違いだって言ってるね。ちょっと並べてみようか。

 

挿絵(By みてみん)


「……間違いだね。じゃあ、飛車と角は詰まな……」

「ほんとーにそう思うか?」

 ……え、詰むの? 形を変えれば詰むのかな?

 考え中……考え中……。あ、発見。

「マスをひとつずらせばいいんだね」


《飛角》

挿絵(By みてみん)


「いいぞ、正解だ。……っと、時間もねえし、とりあえずできなさそうなのはどれだ?」

 応援部に行くのかな。冴島ちゃんも、大変だね。

 できなさそうなのは……。

「歩は、金と飛車以外はダメかな。香車も、金と飛車以外はダメそう。桂馬は……全部ダメっぽいね。それから……」

「それだけ除外できりゃ十分だ。残りは宿題その3にするぜ」

 うわーん、宿題が3つも出ちゃったよ。

 でも、明日は学校が休みだし、次は月曜日だね。ゆっくり考えるよ。

「じゃ、また月曜にな」

「冴島ちゃん、バイバーイ」

【今日の宿題】

〔1〕


挿絵(By みてみん)


上の図において、香車と桂馬をそれぞれ1枚ずつ配置し、王様を詰んだ状態にしなさい。

なお、王様が先に動くものとする。


〔2〕


挿絵(By みてみん)


上の図において、以下の駒の組み合わせで王様が詰んだ状態になるか、検討しなさい。


1、飛銀

2、角金

3、金銀

4、銀香


なお、王様が先に動くものとする。


〔3〕


挿絵(By みてみん)


上の図において、以下の駒の組み合わせで王様が詰んだ状態になるか、検討しなさい。


1、角角

2、角銀

3、銀銀


なお、王様が先に動くものとする。



《将棋用語講座》

○進む、寄る、跳ねるetc...

駒の動かし方の呼称には様々なものがあり、ルールで決められているものもあれば、

慣習的にそうなっているものもある。

「桂馬を跳ねる」は慣習的な用例であり、棋譜(ゲームの正式な記録)においては、

この用語を使うことはないものの、頻出単語であるから、覚えておいて損はない。

特定の駒とのみ結びつく動詞には、他に以下のものがある。


・歩を突く(歩が前に出るときのみ、「突く」と呼ぶ)

・香車or飛車を走る(おそらく、車のイメージから)


「金を突く」「歩を走る」などとは言わないので注意。

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