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将棋入門一歩前!  作者: 稲葉孝太郎
駒の動かし方を覚えよう!
5/60

飛、角

 やっほー、今日も将棋部に行くよ。

「こんにちは」

 あれ? 誰も……いた。

 うわ、何か怖そうな男子だよ。学ラン着てるし、なかなかイケメンだね。

 4月なのに日焼けしてるところを見ると、運動部かな?

 椅子を傾けてぶらぶらしていたその男子は、いきなり私の方を振り向いた。

「お、来たか」

 うわ、話し掛けられちゃったよ。ただ、高校生にしては、ちょっと声が高いね。

「こ、こんにちは」

駒込(こまごめ)から話は聞いてるぞ。おまえが木原(きはら)か?」

「そ、そうです。木原(きはら)数江(かずえ)です」

「オレは冴島(さえじま)だ。1年C組。よろしくな」

 1年生なんだ。でも、見たことないね。クラスが違うからかな?

「宿題はちゃんとやってきたか?」

 うん、やってきたよ。

「全部解けたよ」

「じゃ、並べてみな」

 私は冴島くんの前に座ると、箱から駒を取り出した。

「まずは、銀と香車からだね」


《銀香》

挿絵(By みてみん)


「次は香車と歩だよ」


《香歩》

挿絵(By みてみん)


 銀を歩に置き換えるだけだね。

「で、最後が一番難しかったんだけど……多分、こう」


《銀歩》

挿絵(By みてみん)


 私が並べ終えると、冴島くんはふんと鼻を鳴らした。

「正解だ。じゃあ、今日の分、行くぞ」

「あれ? 歩美(あゆみ)ちゃんは?」

「駒込は、大会の練習で来れねえとよ」

 そうなんだ。強い人は強い人で大変だね。

 さて、冴島くんは、何を教えてくれるのかな?

「今日は、大駒(おおごま)の動き方を勉強するぞ」

「おおごま?」

「ああ、飛車(ひしゃ)(かく)のことなんだがな……ま、百聞は一見に如かずよ」

 そう言って冴島くんは、駒箱からちょっとだけ大きな駒を取り出した。

「これが飛車だ」


挿絵(By みてみん)


「他の駒より、おっきいね」

「そうだ。大きいから大駒なわけだが、動きも半端無く広いぜ。……見てな」

 冴島くんは飛車を盤の中央に置いて、それからおはじきを並べ始めた。

 1、2、3、4、5……ん? もっと?


挿絵(By みてみん)


「ええッ!? こんなに動けるのッ!?」

「飛車は、『前後左右に好きな数だけ』動ける」

 それって凄いよッ!

 こういう駒があるなら、もっと早く教えて欲しかったな。

「これなら、王様も一発で捕まるね」

 私がうきうきしながらそう言うと、冴島くんは眉をひそめた。

「ん……そいつは無理だな。飛車1枚じゃ、王様は捕まらねえぞ」

「え? 前後左右、好きなだけ動けるんでしょ? 最強じゃん」

「飛車が最強なのは認めるが……ちょっとやってみるか?」

 冴島くんは王様を取り出して、盤の上に置いた。私は飛車を置く。


挿絵(By みてみん)


 よーし、はりきって捕まえちゃうよ。

「このままじゃオレの負けだからな、先に動かすぜ」

「いいよー」


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

 

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 ……あれ? 逆にこっちが苛められてない?

「どうだ? 捕まりそうか?」

「……ダメみたいだね」

 そっか。飛車は斜めに移動できないから、斜めに接近されると困るんだね。

 理解したよ。

「あんまり打ち合わせしてないんだが、『駒は原則的に飛び越せない』って習ったか?」

「うん、それは香車のときに習ったよ」

「じゃあ、話が早いな。飛車も同じで、駒は飛び越せねえ。だから……」

 

挿絵(By みてみん)


「こんな風になると、全く動けなくなるぜ」

 そこも、香車と同じだね。味方の駒が邪魔になってるよ。

「よし、それじゃあ次の駒だ」

 冴島くんは飛車を仕舞って、別の大きな駒を取り出す。

「これが(かく)だ」


挿絵(By みてみん)


「ツノって書いてカクって読むんだぞ」

 これも強そうだね。どういう動きをするのかな?

 私が期待の眼差しで見守る中、冴島くんはおはじきを並べ始めた。

 ん……これは……。

 

挿絵(By みてみん)


「斜めにずっと?」

「そうだ。理屈は単純だが、初めの頃はなかなか認識に困る動きだぜ」

 カクカク動くからカクって言うのかな? 関係ない?

 どっちにしても、これも強そうだね。

 私がそんなことを考えていると、冴島くんは早速駒を追加した。

「香車や飛車と同じで、角も他の駒は飛び越せないからな。例えば……」


挿絵(By みてみん)


「こいつは、もう身動きが取れないだろ?」

 うんうん、これも忘れないようにしないとね。

 他の駒は飛び越せない、と。

 例外がひとつだけあるって、歩美ちゃんが言ってたけど、いつ出るのかな?

 まだ出てないよね?

「さてと、これで大駒の説明は終わりだ。次、行くか?」

 んー、どうしようかなあ。

 このまま進めてもいいけど……。

「できれば、大駒のパズルを解きたいかな」

 私の提案に、冴島くんもにやりと笑う。

「そうだな。その方が、記憶も定着しそうだな」

 冴島くんは鼻の下を人差し指で擦った後、角2枚と飛車2枚を盤の上に放った。

「この4枚の中から2枚を自由に使って、王様が詰んでる状態を5通り作りな。王様の初期位置も、自由に決めていいぜ」

 前回の宿題と似てるけど、今回は強そうな駒ばっかりだね。

 5通りくらい、簡単にできそうだよ。

「飛車は、香車と同じ動きができるから、まずはこうだね」


挿絵(By みてみん)


「よし、出だし順調だな。次はどうだ?」

 次はねえ……。あれ? 意外と難しいかな?

 ……あ、いいこと思いついたよ。

「香車の横バージョンをやるよ」


挿絵(By みてみん)


「これも詰んでるな。2つ目だ。おまえ、結構やるな」

 やったね。褒められたよ。

 どんどんいこーッ!

「……」

 私は飛車2枚を持って、しばらく考えた。

 ……出て来ないね、アイデアが。飛車2枚は、もう終わりかな?

 私は飛車1枚を、角と交換した。

「ん、もう諦めるのか?」

「え、飛車2枚で、まだできるの?」

「……いや、好きにやりな」

 そうだね。思いつかないときは、無理に粘ってもダメだよね。

 気分転換に、飛車と角で考えるよ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あッ! 分かったッ!

「こうすれば詰むよ」


挿絵(By みてみん)


「よーし、3つ目だな。他には?」

 他にはねえ……

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「これだけかな?」

「んー、もう1通りあるぜ」

 あるんだ。何だろ?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 私が押し黙っていると、冴島くんが助け舟を出してきた。

「なあ、木原、どういう風に考えてる? 直感か?」

 うん、もちろん。

「そうだね、全部勘だよ」

「勘も悪くないが……もう少し理詰めに考えてみようぜ。いいか」

 冴島くんは王様を隅に置き、それからおはじきを並べた。

 

挿絵(By みてみん)


「この赤いのが、王様の移動範囲だよな?」

「うん、そうだね」

「で、詰みってのは、とりあえず、『次に相手の王様を絶対取れる状態』だろ」

 うんうん。私は頷き返す。

「ってことはだ……これを言い換えると、『王様の移動範囲の全部に、味方の駒の移動範囲が重なっている状態』とも言えるんじゃないか?」

 王様の移動範囲の全部に、味方の駒の移動範囲が重なってる状態……。

 あ、そうだね。確かに、そうなるね。次のターンに王様を絶対取れるってことは、王様の移動先に、味方の駒も絶対移動できるってことだもん。

「冴島くん、頭いいね」

 私がそう言うと、冴島くんは眉間に皺を寄せた。

「冴島くん? ……まあ、いいや。で、このヒントを頼りに考えると、どうなる?」

 えーとね……王様の移動先を、味方の駒の移動先で潰せばいいわけだから……。

「青いおはじき、借りてもいいかな?」

 私が頼むと、冴島くんはすぐに青いおはじきを出してくれた。

 まずは、飛車をここに置いて……。

 

挿絵(By みてみん)


 で、飛車の移動先と、王様の移動先が被ってる箇所を、青いおはじきに替えるよ。


挿絵(By みてみん)


 この青い部分は、飛車が担当してくれてるんだね。

 残ってる赤は、ひとつだけだから……ここに角を置いて……。

 

挿絵(By みてみん)


 これで、全部青に変わったよ。王様は、次にどこへ行っても取られちゃうね。

「おっし、正解だ。4つ目クリア。あとひとつだぞ」

 やったね。冴島くんのアドバイスが良かったよ。

 これを利用すれば、もっとできるんじゃないかな。

「じゃあ、角2枚でやるよ」

 残りは1パターンだから、簡単に見つかりそうだね。

 どれどれ……

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あれれ? 捕まらないよ?

「どうだ? 詰みそうか?」

「うーん……詰まない……」

 冴島くんは「へへ」と笑って、意地悪そうな笑みを浮かべた。

 あ、これって、もしかして……。

「角2枚は無理とか?」

「……正解。さっきの理屈で考えてみな。角2枚じゃ、どうやっても3ヶ所を同時に押さえられないだろ?」

 ほんとに? 例えば……。

 

挿絵(By みてみん)


 これは、1ヶ所防げてないね。でも、他に並べ方がなさそう。

 じゃあ、冴島くんの言ってることが正しいんだね。納得。

「……飛車2枚の方がいいかな?」

「試してみな」

 気付いたけど、詰ませるだけなら、飛車>角みたいだね。

 角はサイドがスカスカだから、銀みたいに簡単に逃げられちゃう。

 だったら、飛車2枚の方が……。

 私は3分ほど考えたけど、今まで考えたパターンがぐるぐるするだけだった。

 冴島くんも暇そうにしてるし、ヒントを貰おうかな。

「ねえ、ヒントくれない?」

 あくびをしかけていた冴島くんは、ぐっとそれを堪える。

「ん、ヒントか……王様は……」

 冴島くんは、ボードの上に手を伸ばす。

 

挿絵(By みてみん)


「ここで詰むぜ」

「え?」

 ……隅っこじゃないの?

「逃げられ易くなってるよ?」

「ああ、それでも詰むんだ」

 私は腕組みをして、大きく息を吸い込む。

 この状態で詰むのは……あ、これかな?

「こうじゃない?」


挿絵(By みてみん)


 私が自信満々に並べると、冴島くんは「うーん」と唸った。

「それは結局、2番目のパターンと一緒だから、変えて欲しいな」

 そっか、確かに、2番目のパターンの王様をずらしただけだもんね。

 他には……。

「これじゃ、ダメなんだよね……」

 私は飛車を揃えて、王様の前に置く。

 

挿絵(By みてみん)


「それは、こうだよな」


挿絵(By みてみん)


 ……だね。でもさ、飛車をどんどん右にずらして、端っこで反転して戻ったら、王様は取れるんじゃないかな? こうやって、こうやって……。

 私の作業を、冴島くんはじっと見守っていた。

「……あッ」

 飛車の追いかけっこでできた図に、私は声を失う。

 

挿絵(By みてみん)


 これって、かなりいい形じゃないかな?

 右の飛車を取られたら、左の飛車で取り返して、左の飛車を取られたら、右の飛車で取り返せるよね。今は自分のターンだからダメだけど、最初からこうしておけば……。

「ねえ、これが正解じゃない?」

 私は盤を見つめたまま、冴島くんにそう尋ねた。

「おっと、気付いたか。正解だ。コンプリートだぜ」

 そっかあ、これは気付かなかったよ。

 飛車と飛車が、鎖みたいに繋がって、お互いを護衛してるんだね。

 私が内心小躍りする中、冴島くんは席を立った。

「じゃ、オレは行くぜ。部活があるからな」

「あれ? 将棋部じゃないの?」

「掛け持ちだよ。応援部にも入ってるんだ」

 あ、それで学ラン着てるんだね。

 変だと思ったよ。だって、うちの男子はブレザーだし。

 先生の許可、ちゃんと取ってるのかな? 不思議。

「じゃあな」

「あ、ちょっと待って」

 私は、冴島くんを引き止める。冴島くんは、出口のところで立ち止まった。

「何だ?」

「宿題出してよ」

 一瞬、冴島くんは何のことか分からなかったみたい。

 でも、すぐに真面目な顔付きになる。そして、こう答えた。

「よし、じゃあ問題だ。角プラス1枚の駒を好きに配置して、詰みの状態を作れ。王様も自由に配置できるぜ。但し、どの駒でもできるとは限らないから、注意しな」

 えーと、つまり……。

「例えば、角金とか角銀とか、そういうこと?」

「そうだ。全部で……6通りだな。ただ、角飛はやったし、角角が詰まないのは確認済みだから、残りの4通りを調べればいいぜ」

「了解だよ」

 私が元気良く答えると、冴島くんは頬を掻いた。

「それにしても、今年の女子将棋部は盛況だな。現時点で新入部員3人だぜ」

 女子将棋部? ……あ、そう言えば、女子将棋部なんだよね、ここ。

「男子は、どこで練習してるの?」

 私が尋ねると、冴島くんはぽかんと口を開けた。

「男子? ……男子将棋部はないぜ。不祥事で廃部になったからな」

「あれ? じゃあ、冴島くんは、何でここにいるの?」

「何でって……そりゃ……」

 冴島くんは、親指で自分を指し示す。

「オレが女だからだろ?」

【今日の宿題】

以下の3つのルール、


(1)敵の王様と、味方の駒2枚(角+α)を、盤の上へ好きに配置する。

(2)もう1枚の味方の駒は、飛金銀香歩の中から選ぶ。

(3)敵の王様が先に動く。


を前提として、王様が詰んでいる状態を作りなさい。

但し、全ての組み合わせが可能とは限らない。


〔既解〕

飛角


〔未解〕

角金、角銀、角香、角歩


〔無解〕

角角



《将棋用語講座》

大駒(おおごま)

飛車と角のこと。

大駒+王様以外の駒を、小駒(こごま)と言う。

駒の大きさもその通りに作られているが、引き分けルールのポイント計算のときに、

扱いが異なるのも特徴(大駒は5点、小駒は1点で換算する)。

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