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将棋入門一歩前!  作者: 稲葉孝太郎
平手を指そう!(戦法総論)
38/60

居飛車と振り飛車(居飛車編)

「居飛車は、『相手も居飛車か? それとも振り飛車か?』で、大きく二分され、前者を相居飛車(あいいびしゃ)、後者を対抗型(たいこうけい)と呼びます。対抗型というのは、『居飛車と振り飛車が対峙している』という意味ですね」

 なるほどね、相手が飛車を動かすかどうかで、グループ分けされるんだね。

 振り飛車では、そんなことはなかったかな。

「まずは、相居飛車を見ていきましょう。代表的なものは4つです」


【矢倉】

挿絵(By みてみん)


【角換わり】

挿絵(By みてみん)


【相掛かり】

挿絵(By みてみん)


【横歩取り】

挿絵(By みてみん)


「上から順番に、矢倉(やぐら)角換わり(かくかわり)相掛かり(あいがかり)横歩取り(よこふどり)と言います。この中で、横歩取りは、単に横歩と略すことが多いですね」

 振り飛車のときと比べて、名前がお堅いね。

「名前の由来は?」

「角換わりは、角を序盤で交換するからです。相掛かりは、お互いに飛車先の歩をどんどん進めて、攻め掛かっているからですね。横歩取りは、名前の通り、先手が3四の歩をスライドして取るからです。矢倉については、残念ながら不明です。『囲いが矢倉の形に似ているから』『やぐら屋さんが好んで指したから』など、諸説ありますので」

 ふーん、やぐら屋さん説が正しいなら、藤井システムと一緒だね。

 将棋を指す人は、名前を大切にするのかな?

「ひとつだけ注意を。相居飛車に共通する特徴として、『どちらか一方のプレイヤーだけでは成立せず、お互いにこの戦法を採用した場合にのみ、成立する』ことが挙げられます」

「ん? どういうこと?」

「つまり、振り飛車と比べてみて……」


【四間飛車】

挿絵(By みてみん)


【矢倉】

挿絵(By みてみん)


「このように、四間飛車は、一方のプレイヤーの戦法のみを意味しますが、矢倉などは、盤全体の駒組みを意味します。先手だけ、あるいは後手だけがこのように組んでも、矢倉とは呼びません」

「じゃあ、お互いに合意しないと、そうならないってこと?」

「そういうことになります」

 だったら、相手が振り飛車を使ってきたときは、絶対に矢倉にはならないね。

「相手が振り飛車にしてきた場合は?」

「対抗型は、『一方が居飛車、他方が振り飛車』の状態全てを意味しますので、さすがに網羅し切れません。代表的なもののみを挙げます」


【4五歩早仕掛け】

挿絵(By みてみん)


【居飛車穴熊】

挿絵(By みてみん)


【超速】

挿絵(By みてみん)


 うわ、また変わった名前だね。

 ただ、人名由来では、なさそうかな。

「4五歩早仕掛けは、名前の通り、4五歩で速攻を仕掛けるからです。居飛車穴熊は、王様が9九に、熊のようにこもるからですね。超速は、ゴキゲン中飛車に対する作戦で、銀を素早く繰り出して攻撃することから名付けられました」

 どれもかっこいいね。早く実戦で試してみたいよ。

 八千代(やちよ)ちゃんも、観てるだけじゃなく、指せばいいのに。

「これで、だいたい見たかな?」

「いえ、まだ一部しか見てません」

「え? そうなの?」

「居飛車は振り飛車よりも、戦法の数が多いと思います」

 そうなんだ……じゃあ、振り飛車にしようかな?

 あんまり覚えることが多いと、困るんだよね。

「ねえ、振り飛車に変更してもいいかな?」

「いろいろ勉強してからでも、遅くないと思いますよ」

「……だね。じゃあ、1個ずつやっていく?」

「そうですね。初手からゆっくりやっていきましょう」

 八千代ちゃんはそう言って、盤を初期状態に戻してくれた。

「木原さんが、先手だと仮定します」

 先手は、最初に指す人のことだよね。

「何を指しますか?」

 んー……難しい質問だけど……。

「7六歩と指すよ」


挿絵(By みてみん)


 駒落ちでも、最初は必ずこの歩を突いたもんね。

「いい手ですね。他にも、2六歩と5六歩があります。それ以外は、ほとんどないと言ってもよいでしょう。例外的に、1六歩なんかもありますが」

 1六歩? そこの歩を突いて、どうするんだろうね?

 いきなり端攻めとか?

 私が不思議に思う中、八千代ちゃんは説明を続けた。

「ここで、後手の対応が重要です。まず、『2手目が3四歩の場合、普通の矢倉と相掛かりにはならない』ことを、覚えておいてください」

「何で?」

「相掛かりの図を見てください」


挿絵(By みてみん)


「3四歩を突いてませんよね?」

 ……突いてないね。

 ってことは、3四歩を突いたら、この形にはならないってことだね。

「了解。矢倉は?」

「矢倉は少し難しいので、あとにします」

 うーん、また後回しだね。

 でも、焦らない、焦らない。

 これまで通り、ゆっくりやっていこうね。

「じゃあ、3四歩と突くか、8四歩と突くかが、分岐点になるんだね」

「正解です。実はこの『2手目が何か?』は、結構悩ましいのですよ。まあ、それは追々説明するとしまして……今回は、3四歩と突いてみます」


挿絵(By みてみん)


 これは、結構新鮮だね。

 駒落ちだと、ここの歩は、2手目に絶対に突かなかったから。

「いきなり角交換できるよ?」

「する戦法もあります。筋違い角ですね」


【筋違い角】

挿絵(By みてみん)


「初期状態で角が動ける位置と異なるので、筋違い角と言います」

 ふんふん、なるほどね。初期状態の角は、例えば7七→6六→5五と進むけど、これは6七、5六、4五のマス目を移動するんだね。確かに「筋を違えてる」よ。

「ただ、序盤で先手から角交換をする人は、少ないです」

「え? 何で?」

「一手損するからです」

「損?」

 ……意味が分からないね。

「もうちょっと、詳しく」

「例えば、初手から順番に、7六歩、3四歩、7八金、3二金、6八銀、4二銀、7七銀、3三銀と指してみます。7七銀は、3三銀よりも先に指せます」


挿絵(By みてみん)


 だね。簡単な話だよ。

「で?」

「ここで、角交換をしてみます。7六歩、3四歩、7八金、3二金、2二角成、同銀、8八銀、3三銀、7七銀です」


挿絵(By みてみん)


「……あれ? 3三銀が、7七銀より先に来てるね」

「そうです。これは、角交換をして、2二銀と先に上がらせているから起こる現象です。このような現象を『手損する』と言い、本来の順番が逆になる手順を意味します」

 へぇ、面白いね。手品みたいだよ。

「了解。序盤でいきなり角交換する必要はないんだね」

「先手からは、ほとんどしません。後手は、たまにやります。最初のうちは、この程度に考えておけばOKかと」

 ってことは、裏に何かあるんだろうけど、触れないでおこうか。

 ごちゃごちゃしてきちゃうからね。

「で、私は何を指せばいいの?」

「居飛車にするなら、2六歩が普通ですね」


挿絵(By みてみん)


 これは……六枚落ちの、1筋突破定跡で見たかな?

「この歩を突く意味は?」

「居飛車は、飛車を動かさずに戦うわけですから、ここの歩を突いておかないと、役に立たなくなります。これを『飛車先の歩を突く』と言います」

 なるほどね、飛車は縦横に動くから、歩を突いておいた方がいいよね。

 その方が、動きがのびのびしてくるよ。

「八千代ちゃんは?」

「そうですね……分かり易く、対抗型にしますか。4四歩です」


挿絵(By みてみん)


「この手の意味は?」

「角道を止めて、振り飛車にする構えです」

「角道を止めないと、振り飛車にならないの?」

 私が尋ねると、八千代ちゃんは眼鏡を直した。

「角道を開けたままにするのは、ゴキゲン中飛車や角交換型四間飛車ですね」

 ……あ、そっか。忘れてたよ。

 さっき習ったばかりだね。

「思い出したよ。普通の振り飛車は、角道を止めるんだね」

「そうです。初心者のうちは、角交換をしたあと、うっかりどこかに打たれてしまうことが多いので、交換しない方が安全かと思います」

 うん、(まどか)ちゃんに、王手飛車を喰らったからね。

 角の動きはちょっと特殊だから、気をつけないといけないよ。

「私は?」

「そうですね……ここからは、ややバリエーションに富んでいるのですが……初心者のうちは、2五歩が分かり易いかと思います」


挿絵(By みてみん)


「飛車先をさらに伸ばして、攻撃すると脅すわけですね」

 ほんとだ。次に2四歩で、いきなり仕掛けられるよ。

「こちらも、2四歩は困るので、3三角と上がります」


挿絵(By みてみん)


「次は?」

「人に寄りますが、4八銀か5六歩が多いかと」


挿絵(By みてみん)


「今回は、5六歩としてみます」

 5六歩……また分かんなくなったね。

 中央から攻めるのかな?

 でも、それは居飛車じゃないよね。中飛車だよ。

「この歩の意味は?」

「角や銀の動きと関係します。5六歩を突いておくと、6六角〜5七角、あるいは7八銀〜7九角〜2四歩など、バリエーションに富んだ動きができますので」


【変化図】

挿絵(By みてみん)


【変化図】

挿絵(By みてみん)


 ふえぇ……凄い。ちゃんと考えられてるんだね。

 適当に歩を突いてるわけじゃないよ。

「じゃあ、八千代ちゃんも5四歩?」

「いえ、私の角は、2四歩を防止するために、しばらく動けません。普通は、ここで飛車を移動させて、どの振り飛車の種類にするかを、明示します。但し、中飛車の場合だけ、先に5四歩と突きますが、現在はゴキゲン中飛車の方が主流なので、これは省きます。今回は、四間飛車を採用しましょう」


挿絵(By みてみん)


 なるほどね。そこに飛車を移動させるのは、四間飛車だよ。

 前回教えてもらった形を、先後逆にすればいいだけ。

「私は?」

「4八銀でしょうか」


挿絵(By みてみん)


「あ、これは分かるよ。銀を進出させて、攻めるんだよね?」

 ……あれ? 微妙な顔してるね。違ったかな。

「半分正解、半分間違いです。駒落ちでは、右の銀を攻めにしか使いませんが、平手では、攻めにも守りにも使えます」

 へぇ、この銀を守りに使うんだ。

 でも、兵力が足りなくならないかな?

「八千代ちゃんは、どうするの?」

「いろいろありますね。6二玉と、王様を囲いに行ってもいいですし、3二銀として、様子を見るのもありです。最近だと、3二銀の方が多いかもしれません」

 だんだん、説明が抽象的になってきたね。

「その手の狙いを、直接的に説明できないかな?」

「難しい注文ですが……狙いとしては、4三銀と上がって、角の頭を防御するのがひとつ。ここから5四銀と上がって、攻撃に参加させることもできます」


【変化図】

挿絵(By みてみん)


「さらに6四歩と突いて、6三銀と下がれば、防御にも参加できます」


【変化図】

挿絵(By みてみん)


 わお、これって凄いかも。

「変幻自在だね」

「そうですね。この3二銀〜4三銀は、ほんとうにうまくできています」

「それから?」

「これまた、いろいろ考えられますね。6八玉と、王様を囲いに行きますか」


挿絵(By みてみん)


 王様を囲うの重要。二枚落ちで痛感したよ。

 ただ、6八玉だと、カニ囲いにはできないよね。

「カニ囲いはダメ?」

「か、蟹囲いですか……ちょっと弱いと思います……」

 そっか。カニさん囲い、愛着があるんだけどね。

 弱いなら、しょうがないね。

「じゃあ、どうやって囲うの?」

「対抗型における居飛車の基本形は、舟囲い(ふながこい)です」

「ふながこい。魚のフナ?」

「ち、違います……船舶のことです」

 船舶……あ、舟のことだね。ちょっと訛ってるのかな?

 カニさんが水の中にいるから、フナだと思ったんだけど、外れちゃったね。

「どんな囲い?」

「今回は、そこまでやって終わりにしますか。私も6二玉と上がり、7八玉、7二玉、5八金右。これで舟囲いは完成です」


挿絵(By みてみん)


「……どこが舟なの?」

「王様が舟に乗ってるように見えませんか?」

 王様が舟に?

 ……あ、ほんとだ。5八の金が船首だね。

 大河ドラマとかに出て来る、河を渡る小舟に似てるよ。

「了解。でもこれって、全然強くなさそうなんだけど」

 王様の下に金銀がいたら、防御してないように見えるよね。

 八千代ちゃんも、困った顔をしてるし。

「正直なところ、舟囲いは強くないです。『舟囲いは囲いではない』と言う人もいるくらいですので」

 ちょ、それはないよ。

「だったら、カニ囲いの方がよくない?」

「正確に言うと、舟囲いは居飛車の基本形であって、ここから発展させるのが普通です。舟囲いの進化先は多く、様々な囲いに変形できますので」

 へぇ、舟囲いは進化するんだ。ポケモンか何かかな?

「とりあえず、このようにやっていくのが、対抗型における居飛車です。ちなみに、振り飛車側の動きも、少しは参考になったかと思いますが、どうでしょうか?」

「うん、勉強になったよ」

 こうやって、一手ずつ考えていくのは、タメになるね。

「では、今日はこれまでと……」

「宿題は?」

 私が尋ねると、八千代ちゃんは眼鏡を何度も直した。

「そうですね……棋譜並べができると、戦法も分かり易くなるのですが……」

「きふならべ?」

「他人の将棋を並べて、勉強することです。……では、それを宿題にしましょう」

 八千代ちゃんはそう言うと、棚から電話帳みたいな本を取り出してきた。

 ……『将棋年鑑』って書いてあるね。文字がびっしり。

「符号はもう読めますので、これを並べてみてください」


開始日時:2010/05/25

持ち時間:5時間

棋戦:竜王戦

戦型:四間飛車

場所:東京「将棋会館」

先手:三浦弘行

後手:藤井猛


*棋戦詳細:第23期竜王戦2組決勝

* 「三浦弘行八段 」vs「藤井 猛九段 」

▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △4二飛

▲6八玉 △9四歩 ▲7八玉 △7二銀 ▲5六歩 △3三角

▲5八金右 △6四歩 ▲5七銀 △3二銀 ▲2五歩 △5二金左

▲3六歩 △6二玉 ▲3五歩 △同 歩 ▲4六銀 △3六歩

▲2六飛 △4五歩 ▲5五銀 △5四歩 ▲6四銀 △4六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲3三角成 △同 銀 ▲4七歩 △5六飛

▲3五角 △4四角 ▲同 角 △同 銀 ▲6五角 △5八飛成

▲同 金 △6三歩 ▲5三歩 △4二金 ▲5四角 △5七歩

▲6八金 △6四歩 ▲2一角成 △7一玉 ▲1一馬 △5三銀

▲5四歩 △同 銀 ▲1二飛 △4三金 ▲5五桂 △5三金

▲3六飛 △8二玉 ▲3一飛成 △4一歩 ▲同 龍 △5二銀

▲3一龍 △4一歩 ▲4六香 △5八金 ▲4一香成 △6八金

▲同 玉 △5九角 ▲6九玉 △4八角成 ▲4二成香 △5八歩成

▲7八玉 △4一歩 ▲5二成香 △同金引 ▲4一龍 △5九馬

▲8八玉 △8四香 ▲7八金 △6八金 ▲4四馬 △7九金

▲同 玉 △6九馬 ▲8八玉 △6八と

まで94手で後手の勝ち


 うぅ……長い……。

「全部?」

「いえ、仕掛けの直前までで結構です」

「……どこまで?」

「そこを自分で判断してみてください」

 そっか……それも宿題の一部だね。

 仕掛けは開戦のことだから、比較的簡単に分かるかな。

「オッケー、じゃ、また明日」

【今日の宿題】

前述の棋譜を、仕掛けの段階まで再現しなさい。

なお、下記のデータベースで並べてもよい。


http://wiki.optus.nu/shogi/index.php?cmd=kif&cmds=display&kid=72380



《将棋用語講座》

○居飛車

振り飛車と並ぶ、将棋2大戦法のひとつ。飛車を初期位置に置いたまま駒組みを進め、飛車先を突破する方向で仕掛けを開始するのが特徴。下位区分は非常に多く、すべてを指しこなせる人は、プロでもなかなかいないほど。定跡が細かく整備されており、詰みまで研究されている局面も存在する(特に横歩に多い)。

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