二歩突っ切り定跡5四同金型の検討
宿題の答え合わせですが、今回はエッセイ風です。入門講座とは異なり、一歩踏み込んだ内容になっていますので、このまま平手編に進んでも構いません。
さて、答え合わせの前に、「二歩突っ切り定跡51手目は、同銀か同金か」というテーマを掲げます。50手目は5四同歩で、以下の局面です。
定跡は、同銀。同金はあまり解説されていないので、それを検討するのが、本コーナーの趣旨になります。前回の冴島さんの指摘の通り、同金、4四歩、同歩、同銀、同銀、同角には、4五歩がくせ者。
角も飛車も逃げられないので、下手は同飛と取るしかありません。以下、同金、同桂、4九飛、5九歩、4五飛成として、上手は桂馬を抜きます。
筆者の考えでは、ここで5五金が好手。
がっちりと受けます。意図は、入玉の防止。5五金と打たずに7一角成は、5三歩と塞き止められて、龍を壁にしながらの入玉が厳しいです。正しく指せば入玉はされないと思いますが、下手と上手には実力差があるので、危険な進行かと。
5五金と打たれた上手の選択は、龍を逃げるか逃げないか。龍を逃げない場合は、4四龍と角を取って、同金、5三歩と収めます。
【変化A−1図】
5三歩のところで4三歩は、5四銀から左辺に追いやられて勝てません。また、5三歩に代えて4三銀なども、5三飛と打たれて酷くなるばかりです。
A−1図以下、下手は勝ち易いかと思います。例えば、8二飛と打って、3二飛成と8四飛成を狙うのが厳しいです。ちなみに、6四銀、同玉、6二飛は注意してください。5五玉と逃げられたときに金当たりなので、3二飛成、4四玉があります。
【変化A−2図】
2二龍と銀を取って勝ちだとは思いますが、上手は金駒を3枚持っているので、入玉模様になったとき、若干危ぶまれます。
というわけで、5五金、4四龍、同金は下手勝ちなので、龍を逃げます。候補地はいろいろありますが、3四龍と3六龍でしょうか。3六龍ならば、筆者のオススメは5四銀です。
【変化B−1図】
7四玉なら7五歩が厳しいので(同玉に5三角成が強烈)、7二玉と逃げますが、そこで6四金と出ます。次に6三銀成とされては試合終了なので、上手は6二銀と受けますが、同角成と切り、同玉、5三銀成、7二玉(7一玉は7三金で必至です)、6三成銀、8一玉、7三金。悲しいかな、上手は桂馬と角しか持っていないので、どうにも受けが効きません。攻防の練習で、よく出て来たパターンです。7一歩と受けるのは、7二銀、同歩、同成銀、9二玉、8二成銀、9三玉、8三金で詰み。
というわけで、上手は3四龍と逃げて、6四金以下を防ぎます。
【変化B−2図】
これもまずは、5四銀、7二玉と追います。
さて、ここで2つ手があります。ひとつは5三角成。これも6三銀成を狙っているので、上手は6二銀とガード。ここで重要なのは、B−1図と違い、6四金が入っていないこと。同馬、同玉に5三銀成とできません。これが3四龍の効果なのですが、では下手必敗かと言うと、そうでもないと思います。例えば、5三銀打、5一玉、4五金、2五龍、4三歩、4一歩と、上手がおかしな受けをすれば、6三銀成で、いきなり必至がかかります。上手は常に、角と桂馬しか持っていないことを、忘れてはいけません。5四同銀型と比べて、受け駒が悪過ぎるのがネックです。
ただ、この金銀3枚の攻めを繋げられるようならば、手合い違いです。二枚落ちはすぐに卒業して、平手に移行しましょう。棋力が上手>>>下手の前提で話をするならば、この3四龍の受けは、かなり強力。誤摩化しが利くはずです。
5四同金→4四歩型の締めとして、5四同金、4四歩、同歩、同銀、5五歩にも、若干触れておきます。
【変化C図】
これはちょっと変わった手で、同銀に4一飛成(あるいは同角、同金としてから4一飛成もアリ)を狙っています。上手としては、それを甘受するか、4五歩、5四歩(同桂は同金で下手負け)、4六歩、4四角と飛車金交換に持ち込む作戦が考えられます。後者はさらに悩ましく、「5二歩と受ける」「4七歩成として、同金、4九飛のうっかりを狙う」など、変化に富んでいます。これはこれで一局だと思います。
したがって、筆者の結論としては、「51手目5四同金でも、上手必敗ではなく、そこそこ指せる」かと思います。むしろ、5四同銀型のみの紹介が多いので、5四同金として下手を混乱させられる分、有利な気さえします。初見で5四同金ならば、普通は4四歩と突いてくるでしょうし、同歩、同銀、同銀、同角に4五歩でびっくり、さらに同飛、同金、同桂に4九飛の王手桂取りでびっくりと、二重の罠が仕掛けられています。有段者の方、もし二枚落ちで指導なさる機会がありましたら、お試しください。途中で読み抜けがある場合は、ひらにご容赦を(汗)
では、いよいよ、宿題の答え合わせに移ります。前述のように、「5四同金→4四歩以下で、どちらもそこそこ」ならば、もっと有利になる手を探したくなります。筆者のアイデアは、「5四同金の瞬間、7筋が薄くなるから、そこを攻めよう」というもの。前回の冴島さんの指摘通り、5四同金、7五歩、5五歩、7六飛が厄介です。
【基本図】
放置して7四歩とされれば終了なので、上手は対応に迫られます。一見、6四金で簡単に止まっているように見えるのですが、それには9七角の覗きが好手。
上手は「渡りに舟」とばかり、狙われている桂馬を跳ねたくなりますが、8五桂には8六角と逃げて、何ともありません。ただ、ここで下手がイジワルならば、8五桂にはもう一度8八角と逃げてくるでしょう。
【変化D−1図】
次に8六歩の狙いがあからさまでも、防ぎようがありません。歩切れなので、7七歩と叩けないのです。9五歩と暴れても、無視して8六歩、9六歩、8五歩と桂馬を取り切り、9七歩成(しないと9八歩と受けられて本格的に終了)、同香、同香成、同桂で、上手劣勢です。飛車の横利きがあるので、9一香は9六歩と止められて無意味ですし、7一香と串刺しを狙っても、9六飛とされて飛車成りを防げません。したがって上手は、3四香、同銀、同歩とし、逃げ道を広げるくらいでしょうか。さらに手堅い下手ならば、9五歩に同歩と応じて、同香、同香、7七歩に7九金。「7七歩なんて怖くないよ」と大上段に構えて、次に8六歩とします(ここまで冷静に対応できるなら、手合い違いかとは思いますが)。
というわけで、9七角〜8八角も相当ですが、次に8六角を見てみましょう。
【変化D−2図】
この8六角も恐ろしく、例えば2三銀などとすると、7四歩、同金、5三角成で、即座に終了します。角成りを避けて5四銀ならば、4四歩、同歩、同銀と味付けして、4三歩に7四歩。
同金は5三銀成あるいは5三角成で、下手勝ちとなります。とはいえ4四歩でも、7三歩成、5三玉、7四とがあるので、どのみち受かりません。ここまでは前回、冴島さんが説明した通りです。
では、どうするか。そこで昨晩ひねり出したのが、6二銀です。
【変化E図】
6二銀の狙いは単純で、「金で受からないなら銀で受ける」というもの。「あ、4筋が薄くなった!」と思って4六飛なら、5三銀。以下、千日手を狙います。
ただ、この6二銀、冷静な下手なら、7四歩、8五桂に8六歩と突いてきて、そのまま桂馬を取り切られてしまうかと思います。前述の9七角、8五桂、8八角の場合とは異なり、下手が一手早いので、9五歩、8五歩、9六歩、9八歩で完封となります。
じゃあダメじゃないか、となるのですが、9八歩以下、7五歩、同飛、6四金、7六飛、7四金として、歩を取り切ってしまうのが狙いです。要するに、上手>>>下手という実力差を利用して、「桂馬をあげる代わりに、局面を複雑にする」作戦です。7五歩を取らずに8六飛としてきたら、7四玉と顔面受けして、8四歩に8五歩。
上手が頑張れる形になってきました。
というわけで、下手も少し工夫します。6二銀に対して7四歩とは突かず、先に9七角を入れ、8五桂を誘います。上手も勝負するしかないので、8五桂ですが、ここで8八角と戻られたら、ゲームセット。手合い違いだと確認しましょう。問題は、8六角の場合です。
上手は悩ましいところですが、候補としては3つ挙げられます。
E−1 2三銀として、次に3四歩の追い返しを狙う。
E−2 6四金と寄って、7筋を固める。
E−3 7三銀として、7筋からの攻めを誘う。
順番に行きましょう。2三銀には7四歩、3四歩。これが宿題図です。
【変化E−1図】
5四金+6二銀の形が素晴らしく、すぐには攻められないように見えますが、敢えて4四歩と突くのもアリです。以下、同歩なら同銀、同金、7三歩成、同銀、5三角成、同玉、7三飛成と強硬突破。角損の攻めですが、これでも下手勝ちかと思います。4二玉と逃げたら5三銀、3一玉(4三玉と頑張るのは、4四銀成、同玉、4五金で詰み)、4四銀成で、すぐに角金交換まで回復しますし、入玉も不可能になります。5三合駒も、6四銀から即座に駒損のリカバリーとなり、上手は勝てません。ですから、4四歩は無視して3五歩と銀を取り込み、4三歩成、同金、3一角成、3三桂。
これは下手が、かなり勝ちにくいかと思います。いくら馬ができているとは言え、銀損をしばらく回復できませんし、上手には3六歩〜3七歩成の入玉狙いが生じているからです。というわけで、宿題図では、個人的に4六銀をオススメします。
上手は金銀を動かせないので(動かすとすぐにスキができる)、3三桂ですが、そこで9五歩と端攻めを敢行。同歩、同香、同香、同角。次に8四角と出られると終わるので、8一香とムリヤリ受けますが、9六飛と回って良し。飛車成りを嫌って8一香と受けずに、9四歩、8四角、9一香ならば、今度は7三歩成でゲームセットです。9一香のところで7一香は、冷静に9六飛と寄り、7四香、7五歩、7三銀、同角成、同玉、7四歩、同玉、9四飛の流れで下手勝ち。
最後、7四歩が王手になっているのがミソです。
かくして、E−1図は攻略。E−2図に移ります。
【E−2図】
ここでさきほどと同じように9五歩は、同歩、同香、同香、同角に7三銀で、下手が困ります。9六飛には9一香で、目の玉が飛び出るからです(そこで8四角と出るのは、9六香と角ではなく飛車の方を取られて負け)。
個人的なオススメは、7四歩の捨てです。当然同金ですが、そこで4四歩が好手。同歩、同銀、7五歩(打たないと5三銀成〜同角成〜7四飛の強襲)、4六飛と回り、4二歩、4三歩で、4筋が受からなくなります。
上手が金銀を7筋と6筋に集めたのを、逆用した形です。
かくして、E−2も攻略となり、いよいよE−3に移ります。
【E−3図】
図は駒落ちならではの指し方で、下手がうっかり7四歩なら、同銀と歩切れを解消。7五歩に8三銀とバックして、形は悪くなりますが、いつでも7七歩と叩けます。かと言って、「あ、4筋が薄くなった!」と4六飛は、すぐさま6二銀と下がり、4四歩、同歩、同銀に4五歩と止めて、上手有利です。それを嫌って再び7六飛と戻るなら、7三銀以下、千日手模様。上手の作戦にハマってしまいます。
筆者の個人的なオススメは、9五歩の端攻めです。同歩、同香、同香、同角に9四歩、8六角で頓挫しているように見えるのですが、角取りを無視して7四歩が正解(これがあるので、9四歩のところを9一香でも同じです)。同銀に8四角と上がり、7五歩なら、4六飛と回った形が、次の5一角成と9三角成を防げず、上手が若干困っています(本当に微差ですが)。
また、7五歩に代えて7五香は、同角と強く取り、同銀、同飛、7四歩、8五飛。
これが角と銀桂香香の交換で、むしろ駒得になります。なお、7五香に9六飛も考えられますが、7八香成以下、下手が気持ち悪いと思います。
というわけで、結論をまとめます。
結論1:二歩突っ切り定跡51手目は、同銀でも同金でもよい。
結論2:同金の場合は、4四歩でも7五歩〜7六飛でも、下手が指せる。
結論3:いずれの場合にも、3筋方面からの入玉に注意。
以上です。
参考文献一切なしなので、安全性は保証致しかねます^^;
検討を終えたので、雑感をば。
なぜ51手目には、同金ではなく同銀が推奨されているのでしょうか。思うに、同銀型の定跡の終盤では、金が2枚、盤上に残っているからだと思います。
駒の損得に限って言えば、5四同金→4四歩以下は、4五飛成の時点で飛桂と金の交換、5四同銀型定跡は、下手の角損なので、ほとんど変わりません。しかし、5四同金→4四歩型は、金銀を全て清算するので、受けにくいように見えます。本当に受けにくいのか、というと、私は若干疑問に思うのですが、確かに5四同銀定跡の方が、パッと見は堅いです。中央に金が2枚並んでいますから(ただ5二歩、5三歩、同金、4五桂で、即潰れますが)。
筆者自身、かなり勉強になりました。二枚落ちは奥が深い^^