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将棋入門一歩前!  作者: 稲葉孝太郎
駒落ちで対局しよう!
32/60

二枚落ち(二歩突っ切り定跡:序盤)

「二歩突っ切り定跡の初手は、6二銀よ」


挿絵(By みてみん)


 んん? この時点で、私の将棋センサーが反応してるよ。

「これって、八枚落ちとも、六枚落ちとも違うよね?」

 八枚落ちと六枚落ちは、最初に金を動かしてた気がするね。

 歩美ちゃんも、頷いてくれた。

「勘がいいわね。初手が3二金じゃない理由は、単純よ。八枚落ちと六枚落ちで、金を早めに動かしてたのは、何でだと思う?」

 最初に金を動かしてた理由?

 ちょっと待ってね。考えるよ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あ、分かったッ!

「角成りの防止」

「正解。八枚落ちでは、3二金が3三角成を防止して、7二金〜8二金が、6六角〜9三角成を防止するのよね。六枚落ちでも一緒。3二金が3三角成を防止していて、7二金+8二銀が、6六角からの端攻めに備えるわけ」

 だね。金は、角の攻めを防いでるんだよね。

「話を二枚落ちに戻しましょう。3三や端の防御に、金は必要?」

 ……じゃないね。そこには最初から、桂馬と香車が利いてるよ。

「要らないよ」

「というわけで、初手は中央を厚くする6二銀よ。二枚落ちだと、端よりも中央が薄いの」

 なるほどね。4〜6筋に利いてる駒は、初期状態だとゼロだよ。

 だから、ここを守っていくんだね。

「じゃ、続きね。下手(したて)はやっぱり、7六歩よ」


挿絵(By みてみん)


 うにゅ? 何で?

上手(うわて)が初手を変えたから、こっちも変えるんじゃないの?」

「この7六歩は、『初手の中で最も効率が良いと思われる手』のひとつよ。ここの歩を突くだけで、角が自由になるでしょ。だから、どんな状況でも好手」

 ……そっか。っていうか、最初の頃に、そんなこと考えてたね。

 初心大事。

「上手は5四歩と突いて、どんどん中央へ進出してくるわ。こっちは4六歩」


挿絵(By みてみん)


 うわぁ……また分かんない手が出たよ……。

 六枚落ちや八枚落ちのときと、全然違うね。

「この手の意味は?」

「5三銀に4五歩よ」


挿絵(By みてみん)


「これで、上手の4四歩を牽制しているの」

「4四歩を牽制して、どうするの?」

「6二金に3六歩と突いて、3筋を狙うのよ」


挿絵(By みてみん)


 ……あ、これは見覚えがあるね。

 八枚落ちのとき、歩美ちゃんに勝ったのが、この戦法だもん。

「3六歩〜3五歩のあと、銀をどんどん前進させるんだよね?」

「正解」

 やったね。今日は勘が冴えてるかな。でも……。

「4五歩との関係は? 3筋を攻めるなら、4五歩は要らなくない?」

「じゃあ、4六歩〜4五歩としないパターンを考えるわね。4六歩に代えて3六歩なら、上手は5三銀として、3五歩、4四歩、3八飛、4二銀上、3四歩、同歩、同飛、3三歩、3八飛、4三銀」


挿絵(By みてみん)


「上手はこうやって、中央を厚くできるの」

 うーん、なんとなく分かったかな。

 要するに、4五歩と突いた方が、上手が窮屈ってことだよね。

 でもでも、次に4八銀〜3七銀〜3六銀としていけば、いいんじゃないかな?

「銀を進出させればいいんじゃない?」

「もちろん、そうよ。二枚落ちは、上手が最初から不利なんだから、定跡を離れても悪くはならないわ。でもね、4六歩〜4五歩の形で3四歩と突いた方が、厳しいのよ」

「何で?」

「やってみましょうか。4六歩、5三銀、4五歩、6二金、3六歩、3二金、3五歩、4二銀上、3八飛、5二玉。ここで、3四歩と突いてみるわね」


挿絵(By みてみん)


「さて、上手はどうする?」

 どうするって言われても、することはひとつじゃないかな?

「同歩でしょ?」

「それは、1一角成」


挿絵(By みてみん)


 あッ……。

「いきなり香車を取られて終了よ」

 ……だね。馬もできてるし、いきなり敗勢になってるね。

 ということは、同歩とできないんだ。だったら……。

「取らないで、放置するよ。……6四歩かな?」

「放置したら、3三歩成よ?」

「同銀でよくない?」

「3四歩」


挿絵(By みてみん)


「これを同銀なら、また1一角成よ」

「……2二銀」

「そこで4八銀ね」


挿絵(By みてみん)


「ほら、4六歩〜4五歩の方が、ずっといいでしょ」

 うーん、ほんとだ、納得。

 上手が、プレッシャーをかけられまくってるね。

「じゃあ、二枚落ちって、そこまで難しくないのかな?」

「と思うかもしれないけど、難しいのよ。さっきの駒組みは、二歩突っ切り定跡の本筋じゃなくて、4六歩〜4五歩の効果を明らかにしたかっただけ。本筋は、4五歩のあとに、6二金と様子を見て、3六歩、3二金、3五歩、5二玉」


挿絵(By みてみん)


 うぅ、また難しいよ。

 一手一手の意味が、見えてこないかな。

「えーと、4五歩のあとに、6二金は何で?」

「バランスの問題ね。さっきも言った通り、金銀を、なるべく中央に集めたいの。候補としては、6二金、5二金右、5二金左、4二金、4二銀が考えられるでしょ。で、上手は3六歩〜3五歩と攻められたとき、2二銀としないといけないから、4二銀はないわ。同様に、3六歩〜3五歩に対しては、3二金ともしないといけないから、4二金、5二金左も消去。残りは6二金と5二金右だけど、5二金右は駒が片方に偏り過ぎるから、却下。というわけで残ったのは、6二金ね」

 うーん、難しいね。私じゃ理解不能。

 分かったのは、バランス重視ってことだけかな。

「オッケー、その次の手は?」

「下手は当初の作戦通り、3六歩。上手は3二金と上がるわ」


挿絵(By みてみん)


「この狙いは単純で、3筋を攻められそうだから、金でガードしてるわけね」

「あれ? 3筋は攻められないって言わなかった?」

「違う違う。あれは、『初手3二金で角成をガードする必要がない』ってだけ。この3二金は意味が違っていて、3六歩〜3五歩〜3八飛のガードよ」

 ……あ、なるほどね、角成じゃなくて、飛車の攻めを防いでるんだね。

「分かったよ、先をお願い」

「下手は3五歩と突いて、3筋を圧迫。ここで上手には、2通りの手が考えられるわね。ひとつは、3四歩を防いで、2二銀。もうひとつは、先に5二玉と様子を見る手」


【A図】

挿絵(By みてみん)


【B図】

挿絵(By みてみん)


 あ、これはあれだね、変化を考えるパターンだね。

「どっちがいいの?」

「個人的な見解としては、どっちもあり。5二玉と2二銀の順番の問題」

 うーん、そういうのが、一番困るよね。

 レストランとかでも、「何でもいい」が一番困るし。

 ただ、今の状況だと、それよりももっと気になることがあるね。

「えっとさ、B図でいきなり3四歩と突かれたら、どうするの?」


挿絵(By みてみん)


 同歩と取れないよね。

 だから、5二玉は間違いじゃないのかな?

「いきなり3四歩の対応にも、2通り考えられるわね。ひとつは2二銀として、3三歩成、同銀、3四歩、2二銀を甘受するパターン」


【B−1図】

挿絵(By みてみん)


「これはもう、上手が悪いでしょうね」

 そうだね。3筋のプレッシャーが強過ぎるかな。

 4八銀〜4七銀〜4六銀〜3五銀〜4四歩くらいで勝てそう。

「でもさ、それ以外に手がなくない?」

「同歩があるでしょ?」

 え? 同歩?

「1一角成だよ?」

「2二銀、2一馬、3一金、1二馬、4二玉」


【B−2図】

挿絵(By みてみん)


 んん? これは、香車も桂馬も取られちゃってるよ?

 上手が相当悪いんじゃないかな。最後の4二玉も、意味が分からないし。

「どういうこと?」

「このままだと、3二玉〜2一金で、馬を捕獲できるわ」


挿絵(By みてみん)


 ……ほんとだ。捕まっちゃったね。

「じゃあ、これは下手がダメってこと?」

「んー、そうとも言い切れないわ。駒の交換状況は?」

 交換状況? ……あ、それを考えないといけないね。うっかり、うっかり。

 下手がもらったのは、香車、桂馬、次に金も取れるね。

 上手がもらったのは、馬だけ。取った駒は戻るから、角だね。

「角と香桂金交換だよ」

「そういうこと。となると、上手が若干損ね」

「損なの? ……3枚のバージョンは、よく分かんないよ」

金駒(かなごま)と香桂の交換は、香桂が若干得だと思う。まあ、これも人によっては、香車+桂馬よりも金駒1枚の方が価値が高い、って言うかもしれないけど」

 なるほどね、そのへんの交換レートは、厳密には計算できないんだね。

 ただ、金+銀≒角なら、香+桂≒金or銀でも、おかしくはないかな。

「問題は、この進行だと、上手にどうやっても馬ができちゃうのよ」

「え、どうやって?」

「まず、2一金、同馬、同玉でしょ。次に3八飛なら、5五角の切り返し」


挿絵(By みてみん)


 うわ、1九と9九の、両方を狙ってるね。

「角成で香車の損を回復。次に桂馬も取れば、駒得よ」

「じゃあ、4六銀と受けるよ」

「それには4七角」


挿絵(By みてみん)


 うぅん、次に角を成られて、馬ができちゃうね。

「4六銀の代わりに、5六歩と突くよ」

「それは5七角」

「……歩じゃなくて、5六銀と上がろうかな」

「4六角」


挿絵(By みてみん)


「というわけで、これは下手がかなり困ってると思う。駒を交換するまでは良くても、そのあとが、実力差で埋まらないから。正確に指せば、下手勝ちだとは思うけど」

 だね。いくら駒得しても、こんなに変化が多いんじゃ、対応できないよ。

 ところで、何の話だっけ? ……あ、3四歩と突けるかどうかだね。

「ってことは、5二玉、3四歩には、同歩で持ち堪えてるんだね」

「そういうこと。だから定跡でも、5二玉。ひとつだけ注意して欲しいのは、この5二玉を上がっておかないと、4三の地点が薄くて、3四歩の攻めが成立するってこと。例えば、5二玉に代えて6四歩なら、すぐに3四歩、同歩、1一角成、2二銀、2一馬」


挿絵(By みてみん)


「ここで3一金としても、4三馬で脱出できるわ」

 ほんとだ。5二玉は、この変化で、馬の脱出を阻止してるんだね。意外。

 でもでも、あとから4二玉と上がればいいんじゃないかな?

「次に4二玉なら? 間に合ってない?」

「それは4四歩ね」


挿絵(By みてみん)


「無視して3一金なら、4三歩成か4三馬。同歩は4七香車」


挿絵(By みてみん)


 ??? 何これ? 空中に香車が浮いてるよ?

「打ってどうするの?」

「そこで3一金なら、4四香と走るの。同銀は5四馬で終わり」


挿絵(By みてみん)


 ……そっか、4四の銀と8一の桂馬は、同時に防御できないね。

「かと言って、同銀以外に手はないわ。5二玉なら4三馬だし」

「じゃあ、3一金としなければいいんじゃない? 3三銀とかさ」

「その場合は、2五桂ね」


挿絵(By みてみん)


「2二銀なら、1二馬、2四歩、1三桂成が間に合うわ。だから2四銀だけど、一旦2六歩と桂馬を助けて、1二馬〜1三桂成を狙ってオッケー」

 うわぁ……難しい……。

 変化を読むと、頭が爆発しちゃうね。

「こんがらがってきちゃった」

「そういうときは、定跡の本筋に戻って、自分が何をしているのか確認。今やってるのは、5二玉に代えて、6四歩のパターン。結論は、5二玉なら3四歩と急襲できないけど、6四歩なら3四歩が成立する、ね」

 ふんふん、そういう風にまとめてもらえると、助かるね。

 とりあえず、上手の5二玉には、意味がある、と。

「というわけで、5二玉に3四歩が成立しないから、4八銀」


挿絵(By みてみん)


「3八飛じゃないの?」

 3筋を攻めようとしてるんだから、大砲を移動させないとね。

「3八飛は、2二銀ですぐに止まっちゃうわ」

「何で?」

「例えば、3八飛、2二銀に、すぐ3四歩と突いたら、同歩と取って、同飛、3三銀、3八飛、3四歩」


挿絵(By みてみん)


「攻撃が止まっちゃったでしょ?」

 あらら、ほんとだね。

 3三銀が見えてなかったよ。

「分かったよ。3四歩と突けないなら、3八飛はあとでもいいね。でも、飛車の代わりに銀を動かす理由を教えて欲しいかな」

「銀を動かすのは、3四歩、同歩、同飛に、3三銀を防止するためよ。例えば、4八銀、2二銀、4七銀、7四歩、3八飛、6四歩、3四歩」


挿絵(By みてみん)


「ここで同歩、同飛、3三銀は、3八飛、3四歩、4六銀として、相手が何を指しても次に3五歩、同歩、同銀と侵攻できるわ」


挿絵(By みてみん)


「ここで3四歩なら、構わず同銀と取って、同銀、1一角成。3三桂は3四飛、3三金は2一馬、3三銀は2一馬、2二金に1一馬と冷静に逃げて、次に3七香を狙えば十分よ。そこから4二玉と馬を取りに行っても、間に合わないわ」


挿絵(By みてみん)


 なーるほどね。銀を前に出して、反撃できるようにしておくんだね。

 これがあるなら、上手は3四歩、同歩、同飛に3三銀とできないよ。

「上手は、歩切れなんだね」

「それも正解。歩切れは痛いの典型例ね。とはいえ、4八銀に有効な対応もないから、上手は2二銀、4七銀、7四歩と、銀の進出を甘受するしかないわ。そこでいよいよ、3八飛。上手は6四歩と、王様の逃げ道を拡大ね」


挿絵(By みてみん)


「下手は準備万端。ここまでが、二歩突っ切り定跡の序盤。六枚落ちで言うと、駒組みの段階よ」

 なるほどね、駒組みは、攻撃の準備段階。

 ここまでは全部、3四歩と開戦する準備なんだね。

「じゃ、ここから仕掛けに入るわよ」

【今日の宿題】

次に3四歩と仕掛けたとき、敵陣をそのまま突破できるか、検討しなさい。



《将棋用語講座》

○kifu形式

将棋の棋譜を保存するときに使うファイル形式で、.exeや.docと同じように、.kifという特殊な拡張子を持つ。読み込みソフトとしては、柿木(かきのき)将棋が有名で、タイトル戦の中継なども、ほとんどの場合はこれが用いられる。分岐を保存する機能がついており、今回のような錯綜する変化も、比較的簡単に管理できる。


以下のサイトで入手可能。

http://homepage2.nifty.com/kakinoki_y/#free%20soft

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