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将棋入門一歩前!  作者: 稲葉孝太郎
駒落ちで対局しよう!
31/60

駒組み、仕掛け、寄せ

挿絵(By みてみん)


「金を打つよ」

 私は駒音高く、3六金と打ち付けた。


挿絵(By みてみん)

 

 3四玉、2五銀で、狭義の詰みだね。

 歩美ちゃんはしばらく盤面を見つめて、それから頭を下げた。

「負けました」

「ありがとうございましたッ!」

 勝ったよッ! むふぅ!

 六枚落ちを習ってから3日目。長かったな。うるうる。

「これで、六枚落ちは卒業ね。……だいぶ慣れてきた?」

「まあまあかな」

 六枚落ちだけ見ると、私の1勝9敗なんだよね。

 ちょっと負け過ぎたかも。

「ま、いずれにせよ、六枚落ちで必要なことは、全部説明したわ。定跡の学習、仕掛けのやり方、王様の寄せね。これ以上は、もっと上のレベルでないと、難しいかも」

 レベルアップだね。テレッテレー♪ 棋力が10アップしたッ!

「次は二枚落ちをやりましょう」

 うん、どんどん行こうね……ん?

「四枚は、どこ行ったの?」

 私が尋ねると、歩美ちゃんは香車と桂馬を追加しながら答える。

「んー、四枚落ちをやってもいいけど、二枚落ちの方が説明しやすいのよね。二歩突っ切り定跡って言う、すごく有名な定跡があるから。それに、二枚落ちは手筋の宝庫で、最初はこれだけやってても、十分強くなれるくらい勉強になるわ」

 ふーん、じゃあ、四枚は飛ばしてもいいかな。

 ただ、いきなり香車と桂馬が増えると、不安だね。

「さて、二枚落ちの二枚っていうのは、もちろん飛車と角よ。だから……」


挿絵(By みてみん)


「こうね」

 すごい。見た目でもう、圧倒されそう。

 敵の戦力が半端ないよ。

「これも、端を攻めるの?」

 十枚落ちから六枚落ちまで、全部そうだったよね。

「んー、残念。発想はいいけど、違うわ。1三と9三の地点を見てちょうだい」

 そう言って歩美ちゃんは、それぞれの地点を指差した。

 要するに、端だよね。よーく見るよ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「で?」

「そこに駒が、何枚利いてる?」

 駒の利きは……桂馬と香車かな?

「2枚ずつだよ」

「でしょ。六枚落ちまでは、ここに最初から利いてる駒が、ゼロだったの。二枚落ちでは、初期状態で2枚利いてて、銀を上がれば3枚だわ」


挿絵(By みてみん)


「すごく破りにくいでしょ?」

 ……そう言われてみると、そうだね。

 別の攻撃目標を探さないといけないかな。どこだろ?

「……思い切って、5筋の中央突破とか?」

「んー、できないことはないわよ。平手でも、5筋から突破する戦法はあるし。ただ、二歩突っ切り定跡で攻めるのは、そこじゃないわ」

 さっきから、にふつっきり定跡って言うのが、気になるね。

 早く教えて欲しいよ。うずうず。

「と、その前に、今回は、六枚落ちと二枚落ちの違いを説明するわ。平手まで続く重要な概念が登場するから、注意して聞いてね」

 うん、分かったよ。学校の授業よりも真面目に聞くよ。

「将棋って言うのは、初手から始まって、王様が捕まるまで続けるゲームよね」

 そうだね。私は頷き返す。

「で、そのプロセスには、節目節目に、名前がついているのよ。この名前と、それぞれの段階で何をやっているのかを理解してもらうのが、今日の課題」

 ……難しいね。王様を捕まえるまでのプロセスの話みたいだけど……。

「例えば?」

「それを、今から示すわ。まずは、六枚落ちの3つの局面を並べるわね」

 歩美ちゃんは、奥から追加の盤を取り出すと、3つの局面を作ってくれた。

 

【A図】

挿絵(By みてみん)


【B図】

挿絵(By みてみん)


【C図】

挿絵(By みてみん)


「ちょっと整理するわね。A図は、初手から3二金、7六歩、7二金、6六角、8二銀、9六歩、7四歩、9五歩、6四歩、5六歩、5二玉までの局面。B図は、そこから9四歩と突いた局面。C図は、さらに同歩、同香、8四歩、9二香成、7三銀、9八飛、4二銀、8一成香、5四歩、9二飛成、6三玉、9四歩まで進めた局面。ここまではオッケー?」

 ……かな。ちょっと速かったけど、それぞれの場面は覚えてるよ。

 どれも、9筋突破定跡で出てくるやつだよね。

「うん、続けて」

「まず、初手からA図までのプロセスを、駒組み(こまぐみ)と言うの。駒を組む、つまり陣形を整えて、攻撃準備をすることね」

 ふんふん、攻撃準備の段階だね。駒組み。覚えたよ。

「次は?」

「その次は、仕掛けよ。つまり、攻撃を開始した段階。但し、ここで注意して欲しいのは、仕掛けは寄せと違って、王様の捕獲を目的としないの。そうじゃなくて、敵陣の突破を開始した段階と考えてちょうだい」

 敵陣突破を開始した段階が、仕掛け。これも覚えたよ。

「次は?」

「次が最後よ。ずばり、寄せ、ね。敵陣の突破を完了して、王様を捕まえる段階。C図では王様を捕まえる準備として、と金を作ろうとしてるわけ」

 寄せは、もう知ってるよね。これは大丈夫。

「まとめると、3二金、7六歩、7二金、6六角、8二銀、9六歩、7四歩、9五歩、6四歩、5六歩、5二玉までが、駒組みの段階。9四歩で仕掛けが始まって、同歩、同香、8四歩、9二香成、7三銀、9八飛、4二銀、8一成香、5四歩、9二飛成で、仕掛けが成功。ここから寄せが始まって、6三玉、9四歩、5三銀、9三歩成、6二金、8二成香以下、王様が詰むまで続くわけね」


挿絵(By みてみん)


 へぇ、駒を動かしてるだけなのに、奇麗なパターン分けができるんだね。

「起承転結じゃないんだ」

「起承転結は、物語の書き方でしょ。もし『転』があるとしたら、それは逆転」

 うーん、それは嫌だな。起承結でいいよ。

「つまり、六枚落ちは、駒組み、仕掛け、寄せから成り立ってるんだね」

「正解。飲み込みが早いわね」

 えっへん。ジュースを飲むのも速いよ。コーラ一気とか余裕。

「さて、二枚落ちに移る前に、この3段階を、十枚落ち、八枚落ちと比較しましょう。単純に言うと、十枚落ちは寄せしかなくて、八枚落ちから駒組み、仕掛け、寄せの順になるわ。歩を全部取っ払った裸玉にも、寄せの段階しかないわよ」

「はだかぎょく?」

 王様がすっぽんぽんなのかな?

「初期配置で、王様しかいない状態よ」

 ……あ、歩もいないってことか。

 それはやらなかったね。

「簡単過ぎるからやらなかったけど、裸玉も駒落ちの一種よ」

 実際、5二玉、7六歩くらいで、終わってそうだよね。

「歩がいないから、いきなり1一角成として、寄せに入れるね」

「そういうこと。で、この駒組み、仕掛け、寄せなんだけど、二枚落ちでは少し変わって、序盤、中盤、終盤になるの」

 ……あれ? そっちの方は、普段使う気がするね。

 駒組みは初めて聞いたけど、序盤とかは、テレビで耳にしたことがあるよ。

「それって、野球とかサッカーで、序盤戦、中盤戦、終盤戦って言うのと一緒?」

「厳密に一緒ではないけど、意味は似てるわね」

 なるほどね、じゃあ、この3つは、簡単に覚えられそうかな。

 でもでも、駒組み、仕掛け、寄せとの違いが分からないよ。

 どちらも3つだし、舞台は同じ将棋だもん。

「それってさ、駒組み、仕掛け、寄せを、言い換えただけじゃないの?」

 私の質問に、歩美ちゃんは少しだけ考え込んだ。

 そんなに難しい質問だったかな?

「駒組みと序盤、寄せと終盤は、限りなく同じだと思うけど、仕掛けと中盤は違うわ。中盤は、仕掛け+αだから」

 +α? ギリシャ文字なんか使っちゃダメだよ。わけが分からなくなるもん。

 高校で習うギリシャ文字は、Σで十分ッ!

「そのアルファは、何なの?」

「それを勉強するのが、二枚落ちよ」

 ……あ、なるほどね、そこで二枚落ちに繋がるんだ。

「それじゃ、二歩突っ切り定跡を説明するわよ」

 ちょ、ちょっと待って。

「ごめん、にふつっきりって言われても、意味が分からないんだけど」

 私がそう言うと、歩美ちゃんはホワイトボードに漢字を書いてくれた。

 二歩突っ切り……やっぱり意味が分からないよ。

「分かった?」

「分かんない」

「……そう」

 うわーん、またこのパターンだよ。

 いいもん。歩美ちゃんは、ちゃんと教えてくれるから。

「見れば、すぐに分かるわよ。……じゃ、初手から」

【今日の宿題】

ありません。昨日の宿題の答え合わせを。


挿絵(By みてみん)


上図では、5六歩が痛打です。同銀は6四龍。かと言って取らなければ、そのまま5五歩と銀を取り込めます。このように、相手の駒の頭に歩を打ち、困った状態にさせることを、歩の叩きと言います。5五の銀を、歩で叩いているのです。歩美ちゃんの読みは、「数江ちゃんは王様の周りばかり見ているから、5六歩に気付かないだろう」というわけです。


挿絵(By みてみん)


上図でも、歩美ちゃんはわざと悪手を指しています。数江ちゃんは8三龍と王手を掛けましたが、正解は7三と。と金を捨て、同玉に5二龍で必勝です。歩美ちゃんの読みは、「数江ちゃんは、と金を捨てる手を読まないだろう」というもので、上手はこのように、下手が読まないような罠を張って、自分に有利な局面を作っていきます。



《将棋用語講座》

○駒組み

敵陣を突破する準備として、駒を適所に配置していく段階を、駒組みと言う。筆者が調査した限りでは、既に17世紀中頃には存在していた言葉らしく、当時は「駒」組みではなく、「馬」組みと書いていた(読みは同じ「こまぐみ」と思われる)。野球では、打順と投手の決定、サッカーでは、メンバーとフォーメイションの決定段階が類似しており、この段階をゲームに組み込んでいるのが、将棋を始めとするボードゲームの特徴である。矢倉、四間飛車などの著名な戦法は、この駒組み段階の形から名付けられている場合が多い。但し、4五歩早仕掛けのように、仕掛けのやり方が由来の場合もある。

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