表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
将棋入門一歩前!  作者: 稲葉孝太郎
駒落ちで対局しよう!
30/60

六枚落ち(寄せを考える)

「うーん……」


挿絵(By みてみん)


「うーん……」

「食べ過ぎて、お腹でも痛いの?」

 私が顔を上げると、そこには歩美(あゆみ)ちゃんの顔が。

「違うよ。この続きを考えてるんだよ」

 私は盤面を指差す。今は、私のターン。

 そもそも私の辞書に、「食べ過ぎ」という言葉はないよ。

「次の手、そんなに難しい?」

 えっとね、次の手を考えてるわけじゃないんだよね。

 次の手は分かってるんだ。

「9四歩とするつもり」

「……正解よ。それでいいわ」

 やったね。

 これって、1筋突破型定跡の応用なんだよね。あのときは、1筋を破ったあと、1四歩から1三歩成ってしたもん。おうちで気付いたんだけど、9筋突破定跡と1筋突破定跡って、いろんな点で左右対称になってると思う。

 

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 (※図は数江ちゃんの脳内イメージです。)


 ね、左右対称になってるでしょ。

「だったら、何を悩んでるの?」

「9四歩、歩美ちゃんのターン、9三歩成のあと」

「……そう」

 うわーん、また無関心な返事だよ。当事者なのに。

「そういう読み方は、いいトレーニングになるわ。『3手の読み』と言って、自分のターン→相手のターン→自分のターンと、3ターン分をあらかじめ考えておくのが、いいとされてるから」

 そっか、そっか、先読みは重要なんだね。

 ポケモンの通信対戦でも、そんな感じでどんどん先の展開を考えるから。

「ま、初めのうちは、3ターンで十分かな」

 ってことは、歩美ちゃんレベルだと3ターンじゃないんだね。

 5ターンとか7ターン考えるのかも。

 でもでも、できないことは無理してしない方がいいから、私は3ターンだけ考えよ。……9四歩、5三銀、9三歩成かな?

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は数江ちゃんの脳内イメージです。)


 これも、1筋突破型の逆バージョンな気がするね。

 1筋突破型だと、6二銀〜5三銀だから、これはきっと4二銀〜5三銀だよ。

「9四歩」

「5三銀」

 やっぱりね。私って天才。

「9三歩成」

 3手の読みが成功したところで、歩美ちゃんが考え始めた。

「上手はこれで終わったとしたもんだけど……少し頑張りますか」

 歩美ちゃんは30秒ほど考えて、6五歩と突いてきた。


挿絵(By みてみん)


 うにゅ? これは何?

「ちょっと捻った手だけど、角当たりよ」

 うん、それは分かるよ、さすがに。

 角を逃げないといけないよね。そのための5六歩だから。

「5七角」

 じゃじゃーん、これが1三に利いてるよ。

 2二金、8三と、6二金、7三と、同金かな。

 うわ、5手も読めちゃった。

「6四銀右」


挿絵(By みてみん)


 ……あれ? いきなり外れたね。

「1三角成ってしちゃうよ?」

「どうぞ」

 ……罠かな? 馬が捕まるとか?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 捕まらないっぽいね。

 歩美ちゃん、諦め気味かな? でも、慎重に。

「1三角成」

「5五歩」


挿絵(By みてみん)


 うぅ……全然当たらないや……。

 私の読みから大幅に離れてるよ。しょぼん。

「同歩ッ!」

「同銀」

「8三とッ!」

「6二金」

「7二とッ!」

「……5二金」


挿絵(By みてみん)


 あうぅん、金銀がどんどん逃げて行くよ。

 おかしいな。9三歩成とすれば、銀か金は取れると思ったんだけど……。

 うーん、また3手の読みに戻ろうかな。6二とは同金で、と金が消えちゃうだけ。だから8三龍と王手をかけて、5四玉、7三ととしようかな。

「8三龍」

「5四玉」

「7三と」


挿絵(By みてみん)


「7三とは、いい手ね。『と金は引く手に好手あり』よ」

 やったね、褒められたよ。これも格言かな?

「4四歩」


挿絵(By みてみん)


 うわ、王様の逃げ道が増えちゃった。早く捕まえないとね。

「7四龍ッ!」

「……6四銀(あがる)

 ん? 今の間は、何かな?

 何かに迷ったっぽいけど……分かんないや。

「8四龍」

「4三玉」

「7四と」

「5三銀」


挿絵(By みてみん)


 ど、どんどん逃げられてるよ……何で……?

「ねえ、これ捕まるの?」

 私が半分諦め気味に尋ねると、歩美ちゃんは顔を上げた。

「まだまだ、下手(したて)大優勢よ」

「……そうなんだ」

「その証拠に、私の王様は、端に追い詰められてるでしょ?」

 端に……あ、そっか、ちょっとずつだけど、窮屈になってるね。

 1筋には馬がいるから、左右挟撃なんだ。気付かなかったよ。

「『王様は包むように寄せよ』という格言があって、寄せのときは、王様の逃げ道を狭くするように追って行くの。このとき、『駒は盤の外に出られない』から、端っこへ追いやって行くのがベスト。『玉は下段に落とせ』と言って、王様は三段目よりも二段目、二段目よりも一段目の方が、捕まり易いわ」

 なるほどね、一段目の後ろは川か崖みたいなものだから、そこへ追い詰めればいいんだ。歩美ちゃんの王様が前に出ようとするのは、それを避けてるんだろうね。

「じゃあ、頑張るよ。8三龍」

「6二金を避けましたか……」

 そうだね、7三龍は、6二金でまたガードされちゃうよ。

 それを見越しての、8三龍。私って頭いい。

「さてと、本格的に困ってきたわね。3四玉がよくある逃亡先だけど、6三とで銀か金を取られちゃうし……7三歩」


挿絵(By みてみん)


 ふえ? なに、この歩?

「歩を捨てちゃうの? 同龍で無駄合いじゃない?」

「そう思うなら、どうぞ」

 ……ちょっと危ない気配がするね。とりあえず、同龍、6二金かな? ……でも、これはさっき私が嫌ったのと、同じ手順だね。龍が撃退されちゃう。

「そっか、同龍だと、7三龍と同じになっちゃうんだね」

「正解よ。……どうする?」

 龍で取れないなら、と金で取るしかないかな。と金を逃げるのはなさそうだし。

「同と」

「5四銀」


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あうーん、手が続かないね。

 6二とは一瞬、王手金取りに見えるけど、5三金で受かってるよ。

「7三歩は、同龍、6二金も狙ってるんだけど、同とに5四銀の意味もあるの。と金が龍の利きを邪魔してくれないと、5四銀が反則になっちゃうから」

 うぅ、1粒で2度美味しいパターンだね。

「ま、と言っても実は、同龍の方がいいんだけど」

 え? そうなの?

「6二金で?」

「9三龍と逃げれば、次に6三とが受かりにくいでしょ」


挿絵(By みてみん)


「ムリヤリ受けるなら5二玉だけど、7三と、6一金、8二龍で、上手の陣形がどんどん酷くなっていくわ。だから、6二金と弾かれるのは、そんなに気にしなくていいのよね」

 そっか、3手の読みだと、その先がなかなか見えないんだね。

 でもでも、まだ初心者だから、3手の読みを続けよ。うーんと……。

「……7七桂と跳ねようかな」

「ま、そうなるかしら。攻めが細いのよね。一旦、感想戦としますか」

「休憩?」

「それも兼用。局面はこのままにして、別の盤を使いましょう」

 そうだね。再現が面倒だもんね。

 私たちは部室の隅から、新しい盤を取り出した。

「まずは、と金を作ったところから」


挿絵(By みてみん)


「本譜は6五歩、5七角。これはかなり捻った指し方で、『上手(うわて)の王様は敵陣に入ったら勝ち』というルールだから、敢えて前に出てるわけね。それに、銀を逃がす場所を作りたかったから」

 あ、そうなんだ。臨機応変だね。

「5七角、6四銀、1三角成、5五歩、同歩、同銀までは良くて、問題は次の8三と」

「え? と金がおかしいの?」

「1筋突破定跡のとき、いきなりと金を寄った?」

 1筋突破定跡のときは……成香を引いたかな?


挿絵(By みてみん)


 左右対称にすると……。

「8二成香?」

「正解。こういうのを『遊び駒の活用』と言って、役に立っていない駒を、役立つように動かしてるわけ。本譜だと、成香は何もしてないでしょ?」

 そうだね。と金と龍だけで追いかけ回してたよ。

「経験則として、駒2枚だけで攻めるのは、逆転されちゃうことが多いわ。攻撃側の駒は、最低でも3枚、できれば4枚欲しいところね」

 なるほどね、さっきのは、と金と龍で2枚だから、なかなか捕まらないんだね。成香を加えれば3枚だから、ぎりぎり最低ラインに届くよ。

「成香を引いたバージョンで、進めてみましょうか。8二成香、6二金、8三と、5四玉、7二成香、5二金、7三と、4四歩、6二成香」


挿絵(By みてみん)


 うわ、ふたつの成駒の攻撃が止まらないよ。

 同金なら、同と、同銀、同龍だね。

「これは下手敗勢ね。あとは王様が前に出て来たとき、気をつければいいだけ」

 うんうん、4五玉〜5六玉にだけ気をつければいいね。

「じゃ、本譜に戻りましょう。実は本譜でも、もっと有利になる手順はあったわ」

 え……どこに?

「どのあたり?」

「8三と、6二金に7二と、ってしたわよね。代わりに8二龍と寄るの」


挿絵(By みてみん)


 龍が1マス寄っただけだよね……意味が分かんないや。

「で?」

「ここで5四玉は、7三とで終了」


挿絵(By みてみん)


「5二金とも6一金とも逃げられないでしょ」

 あ……ほんとだ……。

「かと言って、4四歩なんてすると、7三と、同金と捨ててから、3二龍」


挿絵(By みてみん)


「これも上手の負けね」

 今度は、右側の金がノーガードだね。

「だから最強の受けは、多分、4二金だけど、冷静に2三馬」


挿絵(By みてみん)


「網を絞って、王様を捕獲しに行くわ」

 なるほどね、この方が、私の手よりいいっぽいね。

「ただ、成香が参加してないから、やっぱり攻めが細いわね」

 うーん、そっか、成香を引かなかったのは、悪手だね。反省。

「まあ、手が思いつかなくなったら、ここから7一成香〜7二成香でもいいわ。どうせ上手には、これを止める術がないから。腰を落ち着かせて攻めればいいのよ。一例として、5四玉、7三と、5二金右、7一成香、4四歩、5六歩、6四銀、7二成香、4五歩、6二成香と寄って、4三金右、6三と」


挿絵(By みてみん)


「これで、銀を入手できるわ。ちなみに、6二銀と香車を取って来たら、すぐ同龍とはせずに、6四と、同玉、6二龍」


挿絵(By みてみん)


「これで、広義の詰みよ」

「え? 詰んでるの?」

「考えてみてちょうだい」

 えーと、広義の詰みってことは、連続王手で狭義の詰みだから……。まず、王様が逃げるとしたら、5四玉しかないんだよね。7三、6三、5三には龍が利いてて、5五には歩が利いてるから。でも、5四玉は、5五銀と打って詰み。だから、6三に合駒をするんだけど、打てる駒は香車しかないね。6三歩は二歩で負けだよ。すると……。

「あ、そっか、6三香、7三銀、5四玉、5五銀だね」

 3手詰みだよ。銀が2枚あるから成立する詰みだね。

「正解。だからと言って、6二成香に4四玉と逃げるのは、6四と、同銀、6三成香、5三銀に、5五銀と打って、3五玉、5三成香が詰めろ」


挿絵(By みてみん)


「次に3六銀で狭義の詰みでしょ」

 うわ、すごい。あっと言う間に寄せちゃったよ。

 さすがは歩美ちゃんだね。私だと、ここまでうまくできないかな。

「こういう風に、成香を加えただけで、攻め幅が広がるのよ」

 ふんふん、それは分かったよ。百聞は一見に如かずだね。

 今度からは、ちゃんと8二成香を入れることにしよっと。

「ちょっと質問していいかな?」

 私が尋ねると、歩美ちゃんはさも当たり前のように、首を縦に振った。

「どうぞ」

「八枚落ちのときは、王様を囲ったけど、六枚落ちは囲わなくていいの?」

 あ、ちょっと困ったような顔をしたね。

 顎に手を当てて、考え込んでるよ。

「うーん……そこなんだけど……本当は、王様を囲った方がいいのよ。少なくとも、駒落ちじゃない平手(ひらて)では、ほとんどの場合に王様を囲うわ」

「ひらて? ひらてって何?」

「駒落ちの対義語で、駒を落とさない勝負よ」

 ハンデなしの場合だね。理解したよ。

「じゃあ、なんで六枚落ちのときは、囲わないの?」

「単純に言うと、9筋突破定跡が優秀過ぎるからよ。これの破壊力があり過ぎて、王様を囲わなくても、下手が勝てちゃうから」

 うーん、つまり、防御する必要もないくらい簡単ってことなんだね。

 私には、あんまり簡単じゃないけど。

「八枚落ちのときに、王様を囲ったのは?」

「それは『王様を囲うと勝率がアップする』ことを、比較的早く知って欲しかったから。勝つか負けるかだけなら、八枚落ちで王様を囲う必要はないわ」

 ふーん、そうなんだ。

 でも、あのとき勝ったのは、王様を囲ってたときなんだよね。1回目は王様を囲わずに桂馬の突撃で負け、2回目は王様を囲って3筋を突破したけど、詰みが見えなくて負け。その次の対局は、王様を囲って3筋を突破して、詰めろに気をつけたら勝てたよ。

 王様を囲うのは、やっぱり大事なんじゃないかな。

「細かいところは、二枚落ちのときに詳しく説明するわ。今覚えておけばいいのは、六枚落ち以下なら、囲わなくても勝てる、ってことかな。ただ、これだと防御を全く考えないことになっちゃうから、うちの部では『上手の王様が敵陣に入ったら勝ち』ルールを採用してるだけよ」

 ふんふん、了解。

「それじゃ、続きを指そ」

「そうね。数江(かずえ)ちゃんの番だから……」

【今日の宿題】

途中、歩美ちゃんが6四銀上で悩んだのは、下図で下手に好手があるからです。


挿絵(By みてみん)


数江ちゃんは7四ととしたわけですが、正解は何でしょうか?

3手の読みを応用してみてください^^

このような「下手が気付きそうにないから、悪手でも指す」という方針を、上手はよく使ってきますので、的確に咎めましょう。ちなみに、もう1ヶ所、歩美ちゃんが数江ちゃんの見落としを期待して、悪手をわざと指している箇所があります。探してみてください。


《将棋用語講座》

雪隠(せっちん)詰め

王様が1一、1九、9一、9九のいずれかで詰むことを、雪隠詰めと言う。雪隠とは、トイレのことであり、建物の最も隅っこで詰むという比喩である。盤の四隅は、王様の逃げ道が最も少なくなる場所であるから、これは寄せの理に適っている。しかし、逆に言うと、攻撃側の移動経路も限られるので、これを逆用したのが穴熊囲いとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ