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将棋入門一歩前!  作者: 稲葉孝太郎
駒落ちで対局しよう!
26/60

六枚落ち(自由対局)

 昨日からハム将棋にハマってるんだけどさ、あれって可愛いよね。

 食べ物のハムかと思ったら、ハムスターの略なんだね。私はハムも好きだけど。

 じゃ、今日も部室に行こうか。

「頼もうッ!」

 ドアを開けると……あ、やっぱり歩美(あゆみ)ちゃんがいた。

「あら、今日は早かったわね」

 今日は掃除当番じゃなかったからね。

「こん、早速指そうよ」

「いいわよ。今日は六枚落ちね」

 やったね。どんどんハンデが少なくなって行くよ。

 ただその前に……。

「宿題の答え合わせしよ」

「……そうだったわね。確か問題は……」


挿絵(By みてみん)


「こうかしら?」

 正解だよ。よく覚えてるね。

 さすが歩美ちゃん。

「で、どういう結論になった?」

「私が考えたのは……」


挿絵(By みてみん)


 こう。銀引きだよ。

「どうかな?」

「それは……5三金、3五歩、同歩、同飛、3四歩、9五飛狙い?」


挿絵(By みてみん)


 ビンゴ! これで飛車が成れるよ。

「なるほどね、それもいい手だわ」

 んん、この言い方だと、他にも正解があるみたいだね。

「他に何かあるの?」

「銀を引かずに、一回4五歩もありよね」


挿絵(By みてみん)


 ……これは、意味が分からないかな。

「同歩、同銀、4四歩、3六銀で、どうするの?」

「同歩に同銀じゃなくて、そのまま3五歩よ」


挿絵(By みてみん)


 ……で?

「それから? 同歩でどうするの?」

 同銀、3四歩、2六銀で止まっちゃうよね。

「同歩なら同銀、3四歩に4四歩」


挿絵(By みてみん)


「同金直は同銀、同金、同馬。5三金なら3四銀、同金、同飛」


挿絵(By みてみん)


「これで飛車を成り込めるわね。3二歩と受けても、4三金、同金、同歩成、同玉、4四馬から、確定的に飛車を成ることができるわ」

 ふぇえ、凄い。でも、まだ他にも対応はあるよ。

「4四歩を無視して3五歩だと?」


挿絵(By みてみん)


「それが一番難しいけど、とりあえず4三歩成として、同金に3五飛よ」


挿絵(By みてみん)


 ん? これはさっきと違って、飛車を成れないよ?

「3四歩」

「4五飛」

 ここで歩を取るの? 上手(うわて)は、まだ歩を持ってるよ?

「4四歩」

「1五飛」


挿絵(By みてみん)


 ……あ、次に1三飛成……でもでも。

「2四銀ッ!」

「7五飛」


挿絵(By みてみん)


 あふぅん、これは私が考えたのと、似たような展開だね。

「……ギブアップ」

「までね。次の7三飛成が、どうやっても受からないから、左右挟撃で終わり」

「3五飛に3四歩じゃなくて3四銀は?」


挿絵(By みてみん)


「それも1五飛ね。もう銀を持ってないから、2四銀と守れないわ。だから、こっちの最善としては、もっと早く1筋、7筋、8筋、9筋の歩を、全部進めておくことでしょうね。ただその場合は、別の展開になるし、別の攻略法があるわ」

 うーん、勉強になったよ。

 4五歩を突いたのは、後から飛車で取るためなんだね。納得。

 ただ、実戦だと気付かないかも。

「こういう風に、『今は取られるだけだけど、後から有効になる歩の突き』を、突き捨てと言って、駒落ちだけでなく普通の将棋でもよく出て来るから、覚えておいて。こういうのを勉強したいときは、次の一手問題集とか、手筋集を読めばいいわ」

 なるほどね、やっぱり参考書が必要なんだね。

 将棋部に所属していれば、本はいっぱいあるから、自由に読めるかな。

 今度から暇つぶしに読もっと。

「じゃ、六枚落ちに進むわね。初期配置はこうよ」


挿絵(By みてみん)


 銀が2枚追加されたね。

 ただ、ハム将棋で予習してて思ったんだけど……。

「ハム将棋だと、駒落ちにも飛車角がいるよ?」

「ああ、そのこと」

 歩美ちゃんは残りの駒を片付けながら、先を続ける。

「ハム将棋だと、八枚落ちは金2枚じゃなくて、飛車角なのよね。ただ、普通『八枚落ち』と言えば、金2枚のことよ。これは推測だけど、飛車角が動き回った方が面白いから、ハム将棋では変則的な駒落ちにしてるんだと思う」

 ふーん……そういうこともあるんだね。

「でもさ、飛車角2枚の方が、強くない?」

「んー、どうかしらね。飛車角2枚の八枚落ちは、棒銀で必勝だから……」

 ぼうぎん? またよく分からない言葉が出て来たね。

「ま、それはまた今度にしましょ。とりあえず、普通の六枚落ちから」

 そうだね。金銀2枚ずつでも、楽しそうだよね。

「さてと、ここで数江ちゃんに決めてもらいたいことがあるんだけど……自由対局と、定跡を覚えるの、どっちがいい?」

 じょうせき? ……常識なら完備してるよ。

「じょうせきって何?」

「定跡って言うのは、『これまでの研究で明らかになった、原則的に良いと考えられている駒組みや手の総称』よ。将棋は、指すだけでなく、研究の対象でもあるから、これまでいろんな研究成果が蓄積されていて、それが膨大な定跡を形成してるの」

 うわ、難しそう。

 私が気後れしていると、歩美ちゃんは助け舟を出してくれた。

「別に、最初は自由対局でもいいわよ。ただ、いつかはやってもらうから」

 ……どうしよう。最初は自由にやりたいかな。

「今日は自由対局で、明日は定跡をやろ」

「了解。……それじゃ、始めるわね」


挿絵(By みてみん)


 6二玉は、初めて見たね。いつもは4二に上がってた気がするよ。

「7六歩」

 まずはこの一手。毎度お馴染みだね。

「2二銀」


挿絵(By みてみん)


 そうだよね。角成りを受けるよね。

 前回教えてもらったことを、ここから活かすよ。

「3六歩」

「7二玉」

「3五歩」

「8二玉」

「3八飛」


挿絵(By みてみん)


 うふふ、これが木原(きはら)流だよ。

「3二金」

 おっと、さすがに受けてきたね。

「3四歩」

「同歩」

「同飛」

「3三歩」

「3八飛」


挿絵(By みてみん)


 飛車先の歩を交換したよ。まずは力を溜めないとね。

「7二銀」

 王様をガードしてきたね。私も王様をガードするよ。

「5八金右」

「1四歩」

 あれ? もう指す手がないのかな?

「7八金」

「9四歩」

「6八銀」

「5四歩」


挿絵(By みてみん)


 どんどん駒組みするよ。6六歩。

「3一銀」


挿絵(By みてみん)


 ふえ? 何これ? 3筋の防御が薄くなったけど……。

 あ、そっか、6六歩で、私の角が閉じこもっちゃったんだね。

 3筋に利いてるのは、こっちは飛車だけだよ。突破は無理かな。

「5六歩」

「4二銀」

 位置を組み替えたね。これも参考になるかな。

「6七銀」

「5三銀」


挿絵(By みてみん)


 うわ、凄い。銀が2二から一気に真ん中へ来たよ。注意、注意。

「4八銀」

「2四歩」

「4六歩」

「2三金」

「4七銀」

「6四歩」

 よーし、こっちは攻めの体勢が整ったよ。

 それに、4四歩と受けて来なかったから、4五歩ッ!

 

挿絵(By みてみん)


「いい感じね」

「でしょ? こっから攻めのターンだよ」

「こっちはあんまり形を崩せないし、7四歩くらいかしら」

 のんびりだね。

「4六銀」

「1五歩」

「3五銀」

「9五歩」

「3四歩」


挿絵(By みてみん)


「開戦だよ」

「私も、ちょっとゆっくりし過ぎたかしら。同歩とするわ」

「同銀ッ!」

「同金」

「同飛ッ!」

「2八銀」


挿絵(By みてみん)


 うわ、銀がワープしてきたよ。

 でも、こんなの無視。

「3二飛成」

「1九銀成」

 ……どうしよ。龍1枚じゃ、王様を捕まえられないんだよね。

 4二歩は二歩になっちゃうし……。

数江(かずえ)ちゃんの番よ?」

「ちょ、ちょっと考えるね」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あ、閃いたッ!

「7九角とするよ」


挿絵(By みてみん)


「んー、いい手ね。2九成銀」

「2四角ッ!」

 びゅんびゅん動いちゃうよ。

 歩美ちゃん、そろそろギブアップかな?

「紛れが欲しいわね……5五歩」


挿絵(By みてみん)


 むむ、攻めて来たね。でも、もう遅いよ。

「3三角成」

「5六歩」

「4三馬」

「6二銀」

 銀が王様を守りにバックしたね。

 歩美ちゃんの王様が危ないってことだけど……どうしよ。

 歩を打って、と金を作ろうかな。

「5四歩」

「5七歩成」

 にゅ? 歩を捨ててきたよ。何だろ、これ。

「同金」

「5五香」


挿絵(By みてみん)


 き、金に当たってるね。逃げて4七金は王様を取られちゃうし……。

「5六歩」

「待った」

「待ったなしッ!」

「それ二歩よ」

「え?」

「5四に歩がいるでしょ」

 ……あ、ほんだ。

「ごめん……反則負けだね……」

「ま、練習だからいいわ。指し直して」

 うるうる、歩美ちゃんは優しいね。でも容赦しないよ。

 5六銀と出ても、結局は取られちゃいそうだから、攻め合おうかな。

「5三歩成」

「5七香成」


挿絵(By みてみん)


 これは……まだ詰めろじゃないよね。

「6二とッ!」

「4二歩」

 ん? 歩打ち? ……タダ捨てじゃない?

「同龍」

「5五桂」


挿絵(By みてみん)


 これも詰めろじゃないよ。

 どんどん行こう。

「7二と」

「同金」

 王手だから、当然取るよね。

「えーと、これはもう、寄せの段階なんだよね?」

「そうね、寄せの段階ね。終盤とも言うわ」

 終盤か。RPGだと、ラスボスのダンジョンに突入中かな。

 これまで勉強してきたことを、フル活用するよ。

 終盤は駒の損得より、寄せの速度、だよね。速度計算重要。私の王様は詰めろじゃないから、歩美ちゃんの王様に詰めろをかけて、広義の詰みを発生させれば勝ち。要するに、必至をかければいいってことだよね。

 だから、まずは詰めろを考えるよ。

 詰めろ……詰めろ……。難しいね。いろんな手があるから。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ぴこーんッ! 凄くいい手を思いついたよッ!

「5四馬ッ」


挿絵(By みてみん)


 これが7二龍、9三玉、8二銀、8四玉(9四玉は7四龍、8四合駒、8五金まで!)、7三龍、8五玉、8六銀、9四玉、9三金で、狭義の詰み狙い。つまり、詰めろだね。

 しかもしかも、馬が桂馬に当たってるから、保険で5五馬とできるね。

 やったッ! これで勝ちッ!

「んー、そうしちゃうか」

「そうしちゃうよ」

 ……ん? 言い方が変だね。何か……。

「6七桂不成(ならず)


挿絵(By みてみん)


 ……王手だね。

 でも、同金とすれば……5八金で狭義の詰み……。

 6九玉は5九金、4九玉は4八金……あれ? あれれ?

「詰んじゃった……」

「そうね、6七桂不成から、どう逃げても狭義の詰みよ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「ギブアップ」

「ありがとうございました」

 うわーん、何で? 何で? どうして?

 私、勝ってたよね?

「どこがおかしかったの?」

「んー、とりあえず、確認。5四馬を指す前の、状況を整理して」

 5四馬を指す前の状況……。

 

挿絵(By みてみん)


 これだね。整理するよ。

「えっと、どっちの王様にも詰めろがかかってないよ」

 私が対局中の読みを告げると、歩美ちゃんは「うーん」と唸った。

「それは、おかしいわよね。数江ちゃんの王様に詰めろがかかってないなら、何で6七桂不成から詰んじゃうの? 詰めろがかかってない状況で、数江ちゃんが王様回りの駒を動かしたわけでもないのに、いきなり広義の詰みが発生することはないんだけど」

 ……そうだね。ってことは……。

「計算間違い?」

「そういうこと」

 うわーん、速度計算を間違えちゃった。これは痛恨の極みだね。

「そっか、5五桂が詰めろだったんだね」

「そうなの、5五馬が詰めろ。それが分かってたから6一とじゃなくて7二とと王手してきたんだと思ったけど、違ったみたいね」

 うん、違うね。6一となんて、1秒も考えてないよ。

「じゃあ、速度計算をし直すよ。5五桂が詰めろだから、7二と、同金のあと、私は王様を受けないといけないね。だから……」

「私の王様には、詰めろがかかってない? かなり危ないわよ?」

「歩美ちゃんの王様に? ……広義の詰みってこと?」

「ちょっと検討してみましょう。これが広義の詰みなら、受ける必要ないから」

 そうだね。歩美ちゃんの王様が詰むなら、受ける必要はないね。

 速度計算の掟「どちらも広義の詰みのときは、先に指せる方が勝つ」だよ。

「じゃ、盤面をよーく見ましょ」

 よーく見るよ。じーッ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ……………… 

「まともな王手がかからないよ?」

 どこに打っても、金か王様で取られて、終わっちゃう気がするね。

「そうねえ、こういうときは送りの手筋(おくりのてすじ)としたもんだけど」

 おくりのてすじ? 何か技がでてきたっぽいね。

「おくりのてすじって何?」

「送りの手筋って言うのは、『駒を打って王様をひとつ先のマスへ移動させる』こと。この場合は、9二金が送りの手筋に該当するわ」


挿絵(By みてみん)


 うにゅ? 金を捨てた……。

「タダだよ?」

「同玉に7二龍」


挿絵(By みてみん)


 ……あ、なるほどね。金で王様を移動させて、龍を接近するんだ。

 しかも7二龍で金を補充してるから、駒損になってないよ。

「8二金とガードするよ」

「そこで8一銀と打って、同金とできないから、9三玉よね」

「うん」

「とりあえず、9二金と打って追撃してみましょうか」


挿絵(By みてみん)


「変化は3つ。同金or9四玉or8四玉ね。まず9四玉は、7四龍、8四金、8五銀で詰むわ。9二金に同金なら、同銀成として、そこで9四玉なら、やっぱり7四龍、8四金、8五銀まで。同銀成に8四玉なら、先に9三銀と打って、8五玉、8六金、9四玉、7四龍、8四金、8五金まで」

「むむむ、ちょっと待ってね。順番に考えるよ」

「いいわよ。駒を動かして、確かめてちょうだい」

 そうだね。頭の中だけだと、まだミスしそう。

 えーと、9四玉は7四龍、8四金、8五銀。狭義の詰みだね。

 同金は、同銀成で……

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「オッケー、同金と9四玉は、全部狭義の詰みになることを、確認したよ」

「残りは8四玉ね」


挿絵(By みてみん)


「問題は、これが詰むかどうかだけど……」

 歩美ちゃんが、真剣になったね。

 私も真面目に考えるよ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「詰まないんじゃないかな?」

「そうね……詰まないっぽいわね……」

 だよね。王手をかける方法は、全部で7通り。

 9三銀、7三銀、8五銀、7五銀、7三龍、8三龍、7四龍。

 7三龍、8三龍、7四龍は、龍を捨ててるだけだから、意味ないよね。

 9三銀は同金、同金が王手じゃないし、7三銀は同金、同龍、同玉、8二金、8四玉で、やっぱり王手が止まっちゃうよ。8五銀は同玉、7七桂、8四玉だし、7五銀は同歩のタダ捨てだね。

 私がそこまで考えたとき、歩美ちゃんはいきなり7五銀と打った。

「7五銀、同歩、同龍、9四玉、5五龍って裏技もあるけど……」


挿絵(By みてみん)


「これって、次に8六桂、8四玉、7五龍で詰むから、私は7四歩なんだけど、そこでさらに5七龍として、成香を抜けるのよね」


挿絵(By みてみん)


 うわ、こんなテクニックがあるんだ。凄い。

 私が感心する中、歩美ちゃんはポンと自分の頭を叩いた。

「ごめんなさい、ボケてたわ。……もっと簡単に詰んでるわね」

 え? 詰んでるの? どうやって?

「9二金、同玉、7二龍、8二金、8一銀、9三玉に、9四銀だわ」


挿絵(By みてみん)


 銀のタダ捨て?

「捨てたら駒が足りなくなるよ?」

「同玉に7四龍よ」


挿絵(By みてみん)


「8四歩なら8五金、9三玉、8四金まで。だから7四龍に8四金だけど、それでも8五金、9三玉、8四龍、同歩、9四金打で、狭義の詰みが発生するわ」


挿絵(By みてみん)


 ほ、ほんとだッ! 詰んでるよッ!

「ちなみに、8四龍のところで8四金は、同歩からまともな王手がかからなくなって終わりね。同龍が見えなかったから、一瞬切り捨てちゃったわ」

 歩美ちゃんでも、うっかりはあるんだね。

 人間、誰しも間違うよ。

「というわけで、状況整理完了。7二と、同金の局面は、『どちらの王様にも広義の詰みが発生していて、先に指せる方、すなわち数江ちゃんの勝ち』ね」

 そうだね。そういうことになるね。

 対局中の計算は、完全に間違いだったね。

「終盤は、こんな感じかしら。数江ちゃんの負けだけど、途中はかなり良かったわよ。特に7九角から2四角は、大駒を活用してグッド」

 やったね。褒められたよ。

「問題があるとすれば、5五香を放置したことかな。5七香成とされてから、かなり危なくなった印象だし。もしどこかで余裕があれば、5九の王様を6九に寄せておくとか、そういう間合いの取り方もあったと思う。将棋では、『居玉は避けよ』っていう格言もあるし」

「いぎょく? いぎょくって何?」

「王様が初期位置にいることよ。数江ちゃん側は5九、私は5一ね」

 ふーん……初期位置だと、よくないのかな?

 そのへんの感覚は、まだよく分からないかも。

「さてと、今日はここまでにしましょう。ありがとうございました」

 歩美ちゃんは丁寧に頭を下げる。

 礼に始まり、礼に終わる、だね。

「ありがとうございました。……宿題は?」

「明日の予習をお願い。明日は予告通り、定跡をやるわ。六枚落ち定跡よ。進行は、初手から3二金、7六歩、7二金、6六角」


挿絵(By みてみん)


「この6六角の意味を、考えて来てちょうだい」

 うわ……すごく抽象的な質問だね……。

 ただ、9三角成狙いだっていうのは分かるよ。8二銀で止まっちゃうけど。

「分かった。考えてくるよ」

「じゃ、また明日」

【今日の宿題】

最終図における6六角の狙いを考えなさい。



《将棋用語講座》

○手筋

「技」あるいは「テクニック」のようなもので、特定の形において指すと、形勢が有利になる手を意味する。手筋を暗記しておくのはとても重要であり、テレビゲームにおける「この敵は雷に弱い」などを連想すると分かり易い。「特定の敵が出る→特定のコマンドを選ぶと有利になる」が、将棋においては、「特定の局面になる→特定の手を指すと有利になる」と言い換えられるわけである。手筋の独学は難しいので、市販されている手筋集などの本を読むことをお勧めする。これもテレビゲームと同様で、戦闘を繰り返せば「この敵はこれに弱い」ということが経験的に分かるわけだが、それよりも攻略本を買った方が早いのだ。

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