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将棋入門一歩前!  作者: 稲葉孝太郎
持ち駒を打とう!
12/60

攻防の練習2

挿絵(By みてみん)


 うーん、これ難しいね。

 初めにどう指せばいいのかも分からないや。

 今考えてるのは、全員で突撃する順なんだけど……つまり……。

 

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 こうだね。

 これってさ、何か捕まりそうじゃない? 持ち駒に角金銀だよ?

 特に、金は信頼できるから、押さえ込んでくれるんじゃないかな?

 例えば……。


挿絵(By みてみん)


 まずこう打って、下へ逃げられなくするよね。

 でさ、この場面、7筋三段目に角を置いて、5筋二段目に金を置けば、詰むんだよね。こうやって、こうやって……。

 

挿絵(By みてみん)


 ほらね。詰んだよ。ただ、問題はねぇ……。銀と角を2連続で打ってるから、私の反則負けなんだよね。まずは、王様に何か指してもらわないといけないんだ。もちろん、防御の手を指すよね。例えば……。

 

挿絵(By みてみん)


 こうとかさ。ちなみに、同じ場所へ桂馬を打つと、7筋三段目に角を打って、王様を逃げてから6筋二段目に金を打てば、詰んでるよ。つまり、桂馬じゃ守りに効いてないってことだよね。

 でね、私が今読んでるのは、ゴリ押し路線。

 角を打って、そのまま潰せないかなあ?


挿絵(By みてみん)


 ここで最初に思い浮かぶのは、桂馬で防御だよね。


挿絵(By みてみん)


 とりあえず、銀で突撃してみて……。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 これはちょっと厳しいよね。銀で突撃する順は、もう諦めてるよ。

 銀の代わりに角を突撃すると……。

 

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 捕まりはしないけど、さっきよりずっといいかな。

 もしかして、接近戦だと、銀>角? 角はサイドだけじゃなくて、直進もできないから、王様の捕まえるのに向いてない気がするよ。馬になると強いけどね。

 ここで成銀を6筋三段目に移動できれば勝ちなんだけど……角で取られちゃう。移動できさえすれば、右端へどんどん追い詰めて、最後に銀打ちで勝ちなのになあ。かと言って、7筋二段目に銀を打って、角で取って、金で取って王様を逃がすのも、捕まらない気がする。何回かやってみたけど、どこかで角と金銀の交換とか、不利になっちゃうんだよね。

 うーん……今回は、解なしなんじゃ……。

「痛ッ」

 頭に何か当たったよ。

 私が顔を上げると、数学の(かつら)先生が、こちらを睨んでいた。

「おまえはさっきから、何をしとるんじゃ? 教科書の裏でこそこそと……」

 あ、まずい。見つかっちゃった。

「えっと……これは……」

 盤を隠そうとしたけど、もう間に合わないね。

 うわーん、没収されちゃうかも。

 将棋盤に気付いた先生は、白い眉毛を持ち上げた後、こほんと咳払いした。

「内職なら、放課後にやらんか」

 あれ? 内職じゃないんだけど……普通に遊んで……。

 どぎまぎする私を他所に、桂先生は教壇へと戻って行った。

 何かよく分からないけど、見逃してくれたね。漫画とかは、全部没収する人なんだけど、何でかな?

 ……ま、いっか。授業時間も残り少ないし、ちゃんと集中しよう、と。


  ○

   。

    .


「起立、礼」

「ありがとうございました」

 ホームルームも、これで終わりだね。

 結局、宿題は解けなかったよ。角の突撃バージョンを、仮解答にしておこうか。

 私が鞄を持って教室を出ようとすると、担任の先生が声をかけてきた。

「おい、木原(きはら)

 ん? 掃除当番だったかな? 違うよね?

「何ですか?」

「数学の桂先生が、あとで来いと言ってたぞ。何かしたのか?」

 あ……これって、呼び出し……。

「えっと……身に覚えがありません」

 あるけどね。赦してくれたと思ったら、放課後にお説教……。

 悲しいなあ。

 私はその場を誤摩化して、すぐに職員室へと向かった。なるべく早く済ませてもらわないと、部室に行けなくなっちゃうよ。

「失礼しまーす」

 私が職員室に入っても、誰も反応しなかった。

 ま、生徒にイチイチ反応したりしないよね。そこら中にいるし。

 えーと、桂先生の机は……。あ、窓際だね。

「桂先生、来ました」

 私が恐る恐る声をかけると、桂先生は書類の山から顔を上げた。

 眼鏡の奥から、じろりと睨んでくる。

 なるべくお手柔らかにね。

「木原、授業中に将棋なんか指しちゃいかんぞ」

 あ、やっぱり将棋だってバレてたんだ……。

 そりゃそうだよね。桂先生はおじいちゃんだし、知ってて当たり前かも。

「すみません……」

 私は、反省した素振りを見せる。

 いや、本当に反省してるよ。八千代(やちよ)ちゃんにも注意されたし。

「将棋部の顧問としての立場もあるからな」

「……桂先生って、将棋部の顧問なんですか?」

 私が尋ねると、先生は椅子をこちらに向けて頷いた。

「うむ、幽霊顧問じゃがな」

 あ、そうなんだ。道理で知らないわけだよ。

 部室で一回も見かけたことないもんね。

「しかし、何をやっとったんじゃ? 詰め将棋には見えんかったが……」

 詰め将棋? 何だか知らない単語だね。

「えーと……王様を捕まえるゲームです」

「王様を捕まえるゲーム? 必至問題か?」

 ??? 何を言ってるのか分からないよ。

 というか、桂先生が顧問なら、訊けば教えてくれるんじゃないかな。

 八千代ちゃんに、問題が解けなかったって言うのも、癪だしね。

「こういう問題です」

 私は盤を取り出して、その上に駒を置き、ルールを説明した。

 桂先生は一部始終を聞いた後、「ふむ」と溜め息を吐く。

「変わったルールじゃな。詰め将棋でもなければ、必至問題でもないのか……」

 うーん、またまたよく分からない解説だよ。

「先生は、解けますか? 私が考えたのは……」

 私は、角を突撃するバージョンを説明した。

 腕組みをして聞いていた先生は、またまた「ふむ」と溜め息を吐く。

「それは、王様側がうまく指せば、逃げられそうじゃな」

 だよね。私もそう思ってんだ。

 でもさ、他にアイデアが思い浮かばないし……。

 私がそんなことを思う中、先生は銀を摘んで、7筋四段目に置いた。

「初手にこれはどうじゃ?」


挿絵(By みてみん)


 駒を取らないで、銀を打つんだ……。どうなんだろ?

「8筋一段目の角を成ると?」


挿絵(By みてみん)


8二(はちにー)桂成(けいなる)から、ばらばらにするな」

 ん? 今なんて言った? 聞き取れなかったよ。

「どうした? それじゃいかんのか? 8二桂成じゃぞ?」

「はちにーけいなるって何ですか?」

 私が尋ねると、桂先生は意外そうな顔をした。

「なんじゃ、まだ始めたばかりか。……こうじゃよ」


挿絵(By みてみん)


 ふーん……これが「はちにーけいなる」なんだ……。

 あ、もしかして、8筋二段目に桂馬を成るってことかな?

 後で八千代ちゃんたちに訊こう、と。今はパズルに取り組まないとね。

「角を成りながら取ります」

「銀で取り返すぞ」

「王様で取って……」


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 ずいぶん、さっぱりしたね。ここからどうするのかな?

 私が迷っていると、桂先生は持ち駒の角に手を伸ばす。

「そして、こうじゃな」


挿絵(By みてみん)


 角打ち……あ、これって、授業中やったのに似てないかな?

「えーと……7筋二段目に逃げます」

「6筋二段目に金を打つぞ」

「8筋一段目に逃げて……」

「そこで銀成りじゃな」


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 これは終わってるのかな?

 王様が窮屈だけど、私はまだ駒を持ってるし……。

「銀で受けます」


挿絵(By みてみん)


「それは取ってじゃな……」


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 あ……詰んじゃった……。

「負けました」

「うむ、角成は、受けになっておらんな。馬が役に立ってないからの」

 そっかあ、じゃあ、これが解答だね。これを持って行こう。

「ありがとうございました」

 私がお礼を言うと、桂先生は額に皺を寄せる。

「こりゃ、まだ角成り以外を考えてないじゃろうが」

 ……あ、そうだね。全部考えないといけないんだよね。

 えーと、初手が銀打ちで……。

 歩を突くのは、角成りと同じで意味なさそうだね。だったら……。

「金を寄ります」


挿絵(By みてみん)


「うむ、これが厄介よの……」

 持ち駒が、お互いにないんだよね。盤上の駒を動かさないといけないけど……。

「まあ、とりあえずはこうじゃろ」

 そう言って桂先生は、6筋二段目に桂馬を成った。

 

挿絵(By みてみん)


 桂成り……。銀成りと何が違うのかな?

「銀成りだと、ダメなんですか?」

「それは、進めてみれば分かるぞ。そっちはどうする?」

 私は……。あれ? 何で私が王様側になってるんだろ?

 ……ま、いっか。どっちサイドでも、勉強になるよね。

「銀を取ります」


挿絵(By みてみん)


「ほい、それなら成桂で取り返すぞ」


挿絵(By みてみん)


 うわ……成桂が角に当たってるよ……。

 そっか、銀成りだと、金で取って桂馬で取り返したとき、こうならないんだね。

 どうしよう? 角を逃げようか?

「……角を逃げます」


挿絵(By みてみん)


 今回は、馬が強力なんじゃないかな? 角も凄く利いてるし。

 私が受けの手応えを感じていると、桂先生は金を持ち上げた。

 金を打つの? どこに?

 

挿絵(By みてみん)


 え、ここに打つのは、1秒も考えてなかったよ。これは……。

「あ……次に成桂を動かせば詰んじゃう……」

「そうじゃな。7筋二段目の金が、馬の筋を消しておる」

 うーん、どうしよう。捕まってる気はしないんだけど……。

「金を馬で取っちゃいます」


挿絵(By みてみん)


「もちろん、成桂で取り返すな」


挿絵(By みてみん)


 これ、かなり安全になったんじゃないかな?

 桂先生も、難しい顔をしてるよ。

「さて、これで木原がどう受けるかじゃの」

 んー、どう受けてもいいんじゃないかな?

「角を成ります」


挿絵(By みてみん)


 私が馬を作ると、先生は意外そうな顔をした。

「おっと、そういうぼんやりした手は……」

 盤に角が打ち付けられる。

 

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「……これは助からないですね」

「うむ、だからあの局面では、8筋二段目を受けんといかんな」

 そっか……安全だと思ってたけど、勘違いだったね……。

 私は盤面を戻して、じっと考え込んだ。

 8筋二段目を受ける手って、そんなにないんだよね。例えば……。

「これはどうですか?」

 私は、8筋一段目に銀を打つ。

 

挿絵(By みてみん)


「同じように角を打つな」


挿絵(By みてみん)


 角で取ったら、銀で取り返されておしまいかな。

「金で受けますね」

 私は8筋二段目に金を打った。狭いけど、こうしないと負けだもんね。

「単にばらばらは無理そうじゃな。……捻ろう」

 桂先生は銀も金も取らずに、8筋三段目に銀を成った。


挿絵(By みてみん)


 うわーん、何これ? 頭がごちゃごちゃしてきたよ。

 整理するね。まず、この成銀は取れないよ。取ったら角で王様を取られちゃう。

 だから、金で取るなら角、銀で取るなら成桂だね。放置はありえないよ。

 ……角の方が邪魔かな?

「角を取ります」


挿絵(By みてみん)


「ほい、と」


挿絵(By みてみん)


「……あッ」

 私は喫驚した。

 ……王様で取って、銀を打てば詰みだね。

 金が角の邪魔をしちゃってる形かあ。うっかりしたよ。

「戻します」

「うむ」

 桂先生の同意を得て、私は局面を戻す。

 金は動かせないんだ。じゃあ、銀で成桂を……。

 私が銀を動かしかけたとき、桂先生の眉毛がぴくりと動いた。

 ん、もしかして間違いかな? 成桂を取った後は……。

 あ、そっか、それは8筋二段目に成銀を入って即死だね。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は数江ちゃんの脳内イメージです。)


 ということは、駒がいっぱいぶつかってるけど、指す手はひとつしかないんだ。

「角を成ります」


挿絵(By みてみん)


 私が角を成ると、桂先生は深く溜め息を吐く。

「これよのお……とりあえず、成桂で取るが……」


挿絵(By みてみん)


 うーん、どっちかな?

 成桂を取るか成銀を取るかの2択なんだけど……。

 さっきから、桂馬は守備にあんまり役だってないんだよね。

 銀の方が欲しいかな。

「成銀を取ります」

「成桂で取り返すぞ」


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 ふええ……どんどん悩ましくなるよ……。

 受ける手がいっぱいあって困っちゃう……。

 とりあえず、8二に銀をもう一枚追加したいかな。

「桂先生」

 私がうんうん唸っていると、そばで女性の声が聞こえた。

 見上げると、知らない女の先生が、桂先生に話し掛けている。

「ん、何じゃ?」

「今度の中間考査のことなんですが……」

 女の先生はちらりと将棋盤を見て、首を傾げた。

「何をなさってるんですか?」

「あ、いや、何でもないわい」

 桂先生は慌てて将棋盤を私に返す。

 よく考えたら、先生も仕事中なんだよね。

「この先は、自分で考えるんじゃな。何となく、捕まりそうじゃがの」

 そっか……桂先生は、王様が捕まると思ってるんだね……。

 私には、難し過ぎるかな。もっと考えないと。

「それじゃ、失礼しました」

 私は将棋盤を持ったまま、職員室を後にする。

 初手銀打ちの局面を八千代ちゃんに訊いてみよ。案外、答えられないかもね。

 うふふ。

【今日の宿題】

下図において、王様が捕まるかどうか、検討しなさい。


挿絵(By みてみん)


なお、次は攻撃側のターンとする。



《将棋用語講座》

○将棋部

将棋を指す人々の集まりで、ある程度の組織性があるもの。小学校〜大学までの教育機関だけでなく、一般私企業にも存在する。多くは「○○将棋部」(○○には学校名や企業名が入る)という名称だが、「愛棋会」「棋道会」「将棋研究会」「将棋クラブ」「将棋愛好会」などのバリエーションも豊富。これらの名称からも分かるように、「棋」の文字を入れることで「将棋」を意味させることがある。なお、どのような名前であれ、「○○の将棋部は〜」と呼んでも、通常は非礼に当たらないものと思われる(例:関東の大学間では、どのような名称であれ「○○大将棋部」としか言わない)。

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