幽霊編01
「やっと会えたね、美咲ちゃん」
そう言って私に向かって確かににこりとふつくしい笑顔を見せたのは、スーツ姿の見覚えのない男性だった。私にとっては性質の悪いことに、そやつは色白の(いやでもちょっと青白すぎるような気もする)、鼻筋がすっと通った、まつ毛の長い、艶やかな厚い唇の、柔らかそうな栗色のウェーブがかった髪の、スーツの上からでもわかるほどよく引き締まった体格の良さを持った……、とにかく私が今までお目にかかったことのないレベルの美形だった。
そう、会ったことはないはずだ。
私と眼の前で何が嬉しいのかにこにこと笑っている彼は初対面であるはずだ。
であるからして、"やっと会えたね"と言われても全くピンとこない。
彼の台詞からひしひしと不穏な流れを感じるが、ここは私の心の安寧のためにもさらっとスルーすることにして、私は彼に尋ねた。
「あなた、私のことがわかるんですか……?」
「うん、よく知ってるよ。川村美咲ちゃんだろ?」
なぜかほこらしげに言われた。いや、私が聞きたかったのはそういうのではなく、"幽霊状態"の私を認識できるのかを聞いたつもりだったんだが……。というかさすがに怖くなってきた。なんでこの接点皆無だった美形が私なんかを"よく知ってる"とほざくんだ。幽霊状態の私と会話が成立していることから恐らく幽霊を見ることができる霊感を持った人なのだろうけど……。もしかして透視とかサイコパスとかなんかそういった能力をお持ちで、それでこっちの個人情報を読み取っている、とか……?幽霊にはプライバシーの権利は認められていないというのか。元人間だというのに。
いやいや、それよりもまず、私が本当に幽霊なのかどうか白黒はっきりつけてもらおう。
「あの、私は幽霊なんですかね?」
「うん。れっきとした29年物の元人間の霊だね」
なにその年代物のワインのボトルみたいな言いかた。そして私の歳までばれている。そんで、やっぱり私は幽霊らしい。
「では、私と会話ができるあなたは霊能力者……?」
男は相変わらずにこにこしている。なにがそんなに嬉しいのやら。心の中だからハッキリ言おう、不気味だ。
「違うよ。僕も今の君と同じで"人ならざるモノ"さ」
「はあ?」
「僕は河童なんだ。あ、河太郎とも言う」
自称カッパのイケメンってなんだ。