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月姫
「おいで」
木に登った猫が降りられなくなっている。
私が手を伸ばしたところでせいぜい届くのは枝の根元。
右上がりの枝のその中心あたりか、まだ小さい子猫が小さくなっている。
おいでと言ったところで自分から降りてくるとは思わない。
滑るような木ではないため簡単に登ることはできる。しかし、着物が重くてなかなか簡単には登れない。
「ほら、おいで」
手を差し出すと素早く私の手を伝い、肩に登ってくる。
登るのは大変であったが、降りるのはなんとも容易い。
「いい子」
地面へ無事に降りると、子猫は縮こまっていた身を元に戻し私の腕の中で小さく伸びをした。
小さく笑みが漏れる。
「姫様!!」
そんなゆったりとした時間も束の間。
突然響いたそんな大声でそんな空気も一気に壊れてしまう。
猫もたいそう驚いたのだろう。ビクッと飛び上がり腕から逃げて行ってしまった。
ハァっと吐き出したため息は私の笑顔を硬くする。
「どうされました?」
「こちらにいらしたのですか。
翔様がおいでですよ」