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コメディ

手紙

作者: ルーバラン

「ううん……ううん……ううん」


「よお恭平、何悩んでんだ?」


 もう冬休みも終わって、そろそろ正月ボケも終わった1月14日。ほんと今日とか寒くてしょうがない。

 そんな中、青空高校2年3組の教室で、恭平が机に向かってうんうんとうなっているのを見かけて、俺は声をかけた。


「ああ、正敏……いや、今手紙を書いているんだけど、手紙って書くの難しいなって思ってさ。なかなかうまく書けないんだよ」


 ふむ……確かに難しい。普段から書いたことないと、なかなか上手に書けない。手紙独特の文法があったりするし、時候の挨拶とかもめんどくさい。

 特に、会話なら途中で誤解が解けるようなこともあるけど、文章だけだと、ニュアンスが伝わらずにひどい思いをすることもある。

 『ふざけてるんじゃねえよ』ってメールで冗談のつもりで送ったら、『冗談だったのに、何マジキレしてんの!?』ってキレられた。


「正敏……なんかいい書き方ってないかなあ?」


 ううん、別に自分も普段から書いてるわけじゃないからなあ。きちんとアドバイスできるかどうか。


「まずはどんなの書いたか聞かせてくれよ」


「ほーい、了解。いくつか書いたから、一番いい奴を選んでよ。まずは最初のやつね」


 よし、ちゃんと聞こう……しっかり聞いて、きちんとしたアドバイスができるようにしとかないと。


「『前略、中略、後略。よろしく』」


「略だけじゃねえか!」


 まったく、なんて文章を書いているんだ。


「ええ? これじゃまずいの?」


「まずいだろ! 意味不明だろ。なに伝えたかったんだ!?」


「そっかあ……じゃ、これはボツにして、それじゃ次のやつね」


 恭平、次は普通なのを書いてきてくれよ。


「『拝啓 草々 よろしく』」


「一緒だよ! さっきのと何にも変わらねえじゃねえか!」


「そおか? 全然違う気がするんだけどなあ……あ、そっかそっか。ここ直せばいいんだよね。『拝啓 草々 よろしゅう』」


「そこじゃねえよ!」


 はぁ……はぁ……何でそこになるんだ。拝啓と前略って全く同じ意味だろうが。恭平のやつ、拝啓と前略の意味わかってるのか?


「ってか、もう前略とか拝啓とかやめて、普通に時候の挨拶書いたらどうなん?」


「ああ! なるほどなるほど、その手があったね。ちょうどそのタイプのも1個あったよ」


 ったく、初めからそれを出してればいいのに。

 前略、拝啓なんて使うから意味が分からなくなるんだよ。


「『立秋とはいえ、まだまだ暑い日が続きます。どうも、恭平です。』」


「違うだろ! 今はめっちゃ寒いじゃねえか!」


 なんで、このくそ寒い時に、まだまだ暑い日が続きますなんてもらわなきゃいけないんだよ。明日は雪も降るとか言ってる日だってのに。


「えええ? これ、ホームページに載ってたのをそのまま使っただけだよ?」


「夏ならそれでいいけど、今は冬じゃねえか! ちゃんと冬用の時候の挨拶使えよ!」


 どこのホームページだよ。そんな適当に解説してるホームページなんてあるわけないだろ。


「あ、ちゃんと冬用のも用意してあるよー」


「じゃあそれ最初から出せよ!」


 なんでわざわざ最初に夏用のやつを使うんだ。


「えっと……あ、これだよこれだよ『立冬の候』」


「それ秋!」


「えええ!? だって、冬って言葉入ってるよ?」


「旧暦は季節がずれてるんだよ! この時期だったら『大寒』か『小寒』だろ!」


「ええ……なんかめんどくさいなあ。じゃあ、もう時候の挨拶はなしでいいや」


 ……せっかく説明したのに。くそう、まともにアドバイスするのがめんどくさくなってきた。


「それじゃこれもボツにしてと、次行くよー」


 次はどんなのが来るんだか、心配で仕方ない。


「『こんにちは、どうも。よろしくお願いします。この手紙を5人以上に送ると、あなたは幸せになれるよ』」


「ただのチェーンメールじゃねえか!?」


「不幸の手紙をもらうのは嫌だけど、こういうものならうれしいでしょ?」


「うれしくねえよ! そういうのは嫌なだけだよ!」


 チェーンメールの怖さを知らないのか。それを途中で誰かが一文字『不』とかに書き換えた瞬間、ものすごいいやな手紙にしかならないし。


「ったくもう、正敏ってばわがままばっかだなあ」


「ちげえだろ!? お前の手紙の中身がおかしいからだ!」


「もう、これが最後のやつだからね。これが駄目だったら全部ボツだから」


「最後のはちゃんとしたやつなんだろうな……」


「大丈夫大丈夫!」


 今までのを全部聞いたけど、全然大丈夫な気がしてならない。現在の恭平に対する信頼度は地の底を這っている感じだ。


「えっと……『あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』」


「それじゃ年賀状じゃねえか!」


 全部だめだめじゃねえか! 手紙の様式をしてるの1個もなかったぞ。


「え? だって年賀状だよ?」


「……はあ?」


 恭平の今の言葉を聞いて、開いた口がふさがらない状態になった。えっと……今日は1月14日、正月から2週間過ぎているわけだが。


「……誰宛?」


 なんとなく、俺のところに来た今年の年賀状を思い出しながら、恭平に聞いてみた。

 本心としては、あまり答えを聞きたくないのだけど、つい聞いてしまった。


「ほい正敏。あけおめー。ことよろー」


「遅いだろ!」

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