サイコレスキュー
「うっ…まぶ…」
最初に感じたのは、眩しさ。
正面から降り注ぐ陽の光に思わず手を覆った。
「え?わ、わわ…!」
次に感じたのは、浮遊感。
まるでのんびりと海に浮き輪で浮かんでいるようだった。
ただ、ここには浮き輪も海水も存在しない。
「う!浮いてる!?」
何だこれ、どうなってる?体が浮いている…?。
手足は動くけど空間をもがくだけで体全体は依然同じ場所に浮いたままだ。
それより、ここはどこだ?
「ええ!たっか!落ちる…!」
いや、落ちない。浮いたままだ。どういう仕組みなんだ。
私は、どうやら交差点のど真ん中……から10メートル程上に仰向けに浮いているらしかった。
身体全体はこの位置に固定されているが、手足と顔はある程度動かせるので真下が見えた。
太陽が眩しかったのは、物理的な近さもあったが、顔が真上を向いていたからか。
うわー、何か人だかりが出来ている。そりゃそうか。人が浮いてたら目立つもんね。
私は信号機より高い位置で固定され、周囲の視線を浴びながら考える。
さて、さっきまで私は何をしていたっけ…?
「そうか、私、車にはねられそうになって…それで何故か浮いているけど、
痛くは無いから無事なのか…?」
咄嗟の危機で記憶が曖昧だったようだが、思い出してきた。
私は交差点に突っ込んできた車にはねられそうになっていたんだ。
確か歩行者信号が点滅していたので急いで渡ろうとして、でも見切り発車の車も向かっていて…
(おい!気が付いたか!大丈夫か!)
「はい!え?どこ?誰?」
声が聞こえた。が、どこからの誰の声か分からない。
妙に近い位置で聞こえた気がしたが、こんな空中で近くに人はいない。
下の群衆からだとしたら、こんなにハッキリは聞こえないだろうし…
(良かった!無事なら何よりだ。どこか痛いところは無いか?)
「いや、ないですけど。すみません、どちら様でしょうか。位置的にも、人物的にも。」
(ああ、すまん。ちょっと遠いからテレパシーで話しかけている。俺は超能力者だ。)
「ちょ、超能力者!?」
(ああ、たまたまあんたがはねられそうになったのが見えたから咄嗟に浮かしたんだ。
荒っぽい対応ですまない。取り敢えず医者は不要なようで良かった。)
「で、すみません。あなたは今どこに?」
(君から見て右側か?歩行者信号のところで両手を君に向けている男がいるだろ?それが俺だ。)
「両手を上げているって…」
3人いるんですけど…?
どういうこと?群衆の中で両手挙げている人なんて1人しか居ないものとばかり思っていたけど…
「ええと、どれです?3人程居るようですが…?」
(え?そんなに?他の2人は何で両手挙げてるんだ?あー、俺は帽子被っている!これで分かる?)
「帽子は2人居ますね…?メガネ掛けてます?」
(掛けてない!それが俺!)
「あ、分かりました。ありがとうございます。」
取り敢えず、私を助けてくれた人の姿が確認出来て、一安心した。
どこかの野球チームらしきロゴが入ったキャップを被っている、爽やかそうな青年だ。
(待てよ…?じゃあ他の2人ももしかして俺と同じで超能力者?そう言えば浮かせた時にやけに軽いと
思ったんだ。同時に力が働いて軽く感じたのかも…?)
「…ちょっと待って下さい。私の重さが分かるんですか?」
(ああ、いや何キロとか具体的なことは分かんないよ。とは言え浮かせては居るからね。
おんぶとか抱っことかと似たような感じで重さは伝わるんだ。)
「助けて貰ってアレですけど…何かイヤですね。」
(まあまあ、すぐに降ろすから。とは言え、今俺1人浮かせているわけじゃないなら協力がいるな。
何も聞こえてこないから他の2人はテレパシーが使えないのかもしれない…)
すると、私を助けてくれた男はテレパシーではなく地声を張り上げた。
「おおーい!俺の他に両手を挙げている人!2人居るんだろ?
一緒に浮かせているなら、あの子を安全なところに降ろすのに協力してくれ!」
少しだけ間を空けて反応があった。
「ああ!僕の他にも居たんだね!分かった!君が指揮を執ってくれ!」
私からも見える。3人のうち、唯一帽子を被っていない男だ。少し白髪が混ざっているおじさんだ。
「もう1人はどこだい?僕からは見えないが?」
私からは見える。テレパシーの人に伝えよう。
「あの、テレパシーの方。聞こえてますか?もう1人の方も何か話しているようですが、
多分地声が小さいのか聞こえていないようです。」
(成程、俺がテレパシーのラインを繋ごう。位置的にはどの辺だい?大体分かれば繋げられるはず。)
「ええと、あなたが一番車道に近い位置に居ます。先程返事をされた方は、あなたの左斜め後ろに居ます。私から見てですけど。それで、声が小さい方は反対側の右斜め後ろって感じです。」
(OK。そこまで分かれば充分だ。取り敢えず、全員がテレパシー通話を可能にする。)
そこから、テレパシーさんが私と残り2人を繋いでくれた。
糸電話に近い要領らしくて、本人が糸電話を作れなくても、作ったものを相手の居る位置に投げて、
拾ってもらう。そういうのを頭の中だけでやることで全員のテレパシーを繋げられるらしい。
まったく、今日知ったばかりなのに、超能力者というのは大したものだ。
因みにこの間、私はずっと同じ場所に浮いたままだし、3人は両手を私に向けて挙げたままだ。
状況を眺めて見守っている人も居れば、変化が無くて飽きたのか立ち去った人も居る。
人が宙に浮いていても自分の用事が忙しい人はいるものだ。
(よし、繋がったな。まずは俺。テレパシーを繋いだ男、橋本だ。宜しく。)
(いやあ、僕の他にも近くに超能力者が居たんですね。佐藤です。)
(……川田です。)
(あ、私も一応。今浮かせて貰っている根崎です。この度はありがとうございます。)
全員が軽く名乗ったところで、橋本さんが次の動きを説明する。
(根崎さんという一般人にも分かるように説明すると、恐らく我々3人はちょうど同じタイミングで、
根崎さんの危機に気が付いた。そして一斉に超能力で宙に浮かせることに成功した。
交通事故を防げて良かったんだけど、ここで全員が一斉に気を抜いてしまうと根崎さんが、
地面に落下してしまう。)
(うえっ!)
(大丈夫、根崎さん落ち着いて。安全なところに皆で根崎さんを降ろそう。
1人じゃなく3人で支えているから、誰がどれだけの力を使って支えているかちょっと不明瞭だ。
いわば、胴上げ?騎馬戦?に近い状態なんだけど。バランスを取りつつ少しずつ降ろしていこう。
2人も大丈夫?)
(分かりました。)
(…はい。)
大丈夫かな…佐藤さんはともかく、川田さんは何か口数少なくて不安なんだけど…。
(行くよー、まずはこの高さのまま、歩道側に根崎さんを移動させよう。せーの!)
「………いだだだ!待って!ストップ、ストップ!ちぎれる!」
私が裂けるかと思った。
「ちょっと!何か左右から同時に引っ張られたんだけど!」
(あー、すまない。歩道側だから俺達の方に移動させるつもりだったんだけど、
誰か反対側の歩道に動かそうとした?)
(……人が少ない方にやるものかと思って。)
川田かー。何か1人だけでズレてそうだったもんね。いいよ、間違いは誰にでもある。
助けてもらっている中で贅沢は言えない。でも、痛いのは勘弁だよ…
(OK、じゃあ方向は俺ら側でもう一度。せーの!)
ふよふよとした浮遊感と共に私が歩道側に移動していく。流れるプールみたいだ。
取り敢えず私は、3人の真上にまでこれた。今更だけど今日スカートじゃなくて良かったな…
(よし、後はちょっとずつ降ろしていくぞ。せーの!)
がくん!
「うぉわああ!!」
瞬間的に私は3メートル程一気に落下して、急に止まった。
「死ぬかと思った!私は絶叫マシンか!」
絶叫して突っ込んでしまった。いや、今のはマジでビビった。
(ちょっとずつ!ちょっとずつだよ。気を付けて川田君!)
(…決めつけんなよ。)
(いやあ、すまない今のは僕だ。2人ほど力の微細なコントロールが出来ないのと、そろそろ疲れてきてね…)
(ああ、成程。川田君もごめんね。じゃあ、逆に俺達2人がさっきより踏ん張りつつ降ろしていこうか。)
仰向けのまま少しずつ私は地面に近づいていく。
「あ、もう足付けられそうですよ。」
「いや、待って。体勢変わったら、支え方ズレちゃうかも。仰向けのまま降ろしていこう。
地面に服ついちゃうけど、まあ安全優先で。」
いつの間にかテレパシーではなくなった橋本さんの声を聞きつつ、
ふわりと私は地面に降ろされた。
わあああああ!
私が着地した瞬間、歓声が上がった。
残っていた群衆の中にはスマホを構えていた人も居て、3人の雄姿を収めていた。
どうした?普段他人に興味無い癖にこういう時の一体感半端ないな。
服を手で適当に払いながら、私は立つ。
時間にしてみれば30分も経ってないだろうが、随分久しぶりに地に足をつけた気がする。
「いやあ、皆さんありがとうございました。何とお礼を言っていいやら。」
「いやいや、人として…超能力者として当然のことをしたまでだよ。」
「3人も一遍にやってるところ見ると、本当に当然のことみたいですね…」
少しうれしそうに橋本さんは笑った。
ちょっと言い直したところが癪に障るが、恩人なのだから大目に見よう。
佐藤さんだけ何か少し疲れているようだ。
「いやあ、2人共若いなぁ。あれだけ力使ったもんだから私はすっかり疲れてしまったよ。」
「ああ、負担かけたようですみません…」
「何、根崎さんが謝ることじゃないよ、ていうかLINEやってる?」
「SNS断ちしてまして…」
どさくさに紛れて何連絡先聞いてきてるんだ。物腰と違って橋本さん以上に油断ならないな、
このオッサン。いや、恩人に失礼か。私も何か危機でハイになっているのかもしれない。
ていうか命救って貰ってるんだから、お礼の為に連絡先は聞いておかないといけないか。
「…あんたは超能力使えないのか?」
「え?私?私は使えないよ。使えてたら自分で何とか出来てたし。」
「でも何か…助ける時、ちょっと硬かった。自分を硬くしようとしているかと思った…
でも、車はスピードもあるから、硬くするより避ける方が安全…だから。」
初めて長文で話してるけど、川田君の言っていることがイマイチ分からなかった。
私が能力者で自分を硬くしようとした?助ける時…?
あれ、そう言えば私…転びはしなかったけど、車が近づいてきた時何か身動きが取れなくなったような…
「ん、それは本当か川田君。俺は硬いかどうかは咄嗟過ぎて分からなかったが、
何かちょっときな臭くなってきたね。根崎さん良ければちょっと、
サイコメトリーを使わせてくれないか?」
「サイレントマジョリティー?」
「サイコメトリー。残留思念を探る超能力なんだけど、この場合は能力の使用履歴を辿れる。
ミステリードラマで血痕がルミノール反応で分かるってのがあるだろう。
あんな感じで君にかけられた超能力を辿れる。もしかしたら、浮遊の能力を受ける前に、
金縛りを食らっている可能性があるかもしれない。」
サイコなんたらをルミなんたらで例えられても頭に入って来なかったが、要は検索履歴みたいなことか。
え?私誰かに狙われてたの?
「何か気になるね。サイコなんたらしてみて。」
「分かっ…ぐふっ!」
橋本さんが私に手をかざそうとした瞬間、橋本さんが大きくよろめいた。
橋本さんがよろめいたのと反対側を見たら、佐藤さんの背中が遠くに見えた。
橋本さんを突き飛ばして走りだしたようだ。異様に遠くに見えるのは、
超能力でスピードアップでもしているのだろうか。
「いたた…ほぼ自白したようなものだけど、一応確認してみたらやっぱり…」
片手で自分の背中をさすりながら、もう片方の手を私にかざしながら、橋本さんは言う。
「君は浮遊の能力を受ける直前に金縛りの能力を受けている。」
佐藤さんが…私を?理解が追い付かない。いや、交通事故に遭いそうになっただけでも大変なのに、
超能力で助けられた上に、事故も超能力で起こされたものかもしれないってこと…?
え?何で私を?
「ごはっ!」
そんな私の混乱をよそに遠くで呻き声が聞こえた。
ザッ!
次の瞬間には目の前に川田君とお腹を押さえて蹲っている佐藤さんが私の前に現れた。
「…こいつは高速移動だけど、俺は瞬間移動だから。捕まえた。」
おお、マジか川田君。君思ったよりすごい奴なんだね。
ていうか、私は何の能力も無いというのに、君らはモノ浮かす以外にも能力持ち過ぎじゃん。ずる。
程なくして警察がやってきた。群衆の中の誰かが呼んだのだろう。
聞くところによると、佐藤さんは、いやもう呼び捨てでいいか。佐藤ゲス野郎は、私のストーカーだった。
私は全然覚えてなかったけど、前にも2回声を掛けたことがあるらしかった。
多分フツーに私が聞こえてなかったのか、ヤバそうなヤツをスルーしたのか分からないけど、
無視されたのが気に食わなかったらしい。
自身の持っている超能力の1つである金縛りで私を捉えようとしたそうだ。
ところが、単に動きを止めるだけだと大声を出される可能性もあるから、ダメージを負わせようとした。
何それ、こわ。それで車にぶつけようという発想が物騒だよ。
ただ、間一髪で私は橋本さんと川田君に助けられた。その様子を見て佐藤さんはどさくさに紛れて、
自分も私を助けたヒーローに加わろうとした。ただ、川田君が違和感を持ち、
橋本さんが、犯人を特定する手段を持っていると知り逃走を図った。
超能力で高速移動をしたが、金縛り、浮遊と使った後なので、そこまでのスピードは出なかったのと、
川田君が上位互換である瞬間移動を使えたのが誤算であえなく捕まった、というわけだ。
「一度ならず二度までも。2人共、本当にありがとうございます。」
私は橋本さんと川田君に深々と頭を下げた。感謝してもしきれない。
「いやあ、まさか交通事故自体が仕組まれていたものとはね。川田君、良く気付いたね。」
「…浮遊は、兄弟で遊ぶ時にも使っているから、違和感はすぐに分かった。」
川田君兄弟居るんだ。何か勝手に一人っ子だと思ってた。
超能力は家族の団欒にも使われてるのって何かいいな。
「でも佐藤さんって法で裁けませんよね…超能力で人を傷つけようとしたって話は通らないんじゃ…」
「いや?そんなことないよ。根崎さんは初めてかもしれないけど、超能力者の事案って結構多くて、
悪用なんていくらでも出来るから、警察内にもPSI対策課とかあるし。」
「そうなの?私の知らない間に世の中が進んでいる…」
「…隠す程じゃないけど、大っぴらにはしてないから…知らない人は結構多いよ。」
「慰謝料とか請求しちゃいなよ。」
「そうします。」
次の日、世間で大きく注目されることは無かったものの、昨日の私のショート動画を誰かがアップしてて、それをクラスの人が見つけて広まって、少しの間、私はクラスで浮いていた。
END




