17,ここは、私だけのテリトリー
夜が明けて、太陽がもうすでに高いところにある。
今日は休日なのでいつもの学校に行く時間より遅めに起きてきた。
「あ〜あ、もう。みっちゃんのバーカ…
なんで昨日は来ないのよ」
あれから道久とは、「先に帰ってて」と言うメールだけ残していき、会えなかった。
花火始まるまでには来るって言ってたのに、いつもどこか行っちゃうんだから。
「今日はみっちゃんの家で朝ご飯作って一緒に食べようと思ってたのに…。もう!」
そんなことを思いながら合鍵で扉を開ける。道久はまだ寝ているのかな?
リビングに誰の姿も見られない。
なんだかんだいつも許してしまっている自分がいること。我ながら自分がチョロすぎて困ってしまう。
いつものように朝食の準備して、みっちゃんが好きな玄米茶を淹れてあげる。
我ながらよくしてると思う。同学年でここまで尽くしている人はいない、そう思える自信はあった。
まぁ、でもこれも恩返しというわけだが、私はこれ以上にみっちゃんにしてもらったから、使命みたいに思っている。
「そろそろ、起こしに行こうかな…」そう思っていたら玄関のチャイムが部屋に鳴り響く。
宅配物、かな?
扉を開けて、私は驚いた。
そこには私と同い年ぐらいの女性が一人立っていた。いつも下ろしていた髪は後ろに可愛く三つ編みにして、マスクもサングラスもつけていなかった。服もいつもよりおしゃれしてきているように見える
扉を開けてから二人の間に一瞬の間が生まれる。その間も一瞬のこと。
やってきた彼女からは殺気とともにどこから出したのかは目で追えなかったが刀が私の首を的確に狙ってきていた。
「あなたがなぜここに?」
理央は答えない。神千夏に私のことを伝えるメリットがないと判断したからだ。
今伝えても彼女の攻撃は終わらない。
「どうしたの、剣士さん?私に復讐しにきたの?」
「バカ言わないで、あんたになんて会いたくなかったわよ。私はひさくんに会いに来ただけ
なんてあんたがいるのよ。」
いつもの口調でも話している余裕はない。なぜかって、それはこの女が唯一私を…
狭い部屋の中だが一流にはそんなの関係ない。一撃一撃重い振りが理央を襲う。
そんな理央は受け流すだけ。攻めることはできないが今のところ致命傷は負ってない。
「オットアイまで隠していて、まさかひさくんに何か企んでいるんじゃないでしょうね。」
千夏は理央に言い放った。
理央は素手で刀を握って押さえる。痛みというよりかは怒りが優先していた。
これには千夏も驚きを隠せない。自分の不甲斐なさに。
刀から手を離す。戦いは終わった。別に両者共に殺し合いがしたいわけではない。
理央は攻撃を受けてボロボロになっている両腕を押さえて、下の方をピントが合わない目で見ていた。
床には涙が落ちたが、すぐに乾いてしまっていた。
「そんなことはない、私がそんなことするわけないから。」
「その言葉が嘘か本当かは知らなけど、ひさくんを傷つけるなら殺す。それだけ」
「ちなみに、許可はあるよ。GIAからの」
理央は首から下げていたものを見せる。
「あなたが、認められるわけな…」
そこには確かにGIAの印があった。しかも、第一級物。大臣、つまり道久の父からの許可が下りているということ。
認めたくなかったが現実は受け止めるしかない。
「このことは、道久には言わないで」
「なぜ?隠す必要なんてないんじゃ、」
「あなたも彼が悲しむ姿見たくないでしょ。」
その一言で千夏はこれ以上はこのことについて言わないと確信していた。だって彼女も彼を大切にしてるのだから。
二人の間に沈黙が流れる。
因縁の相手。でも今はそんなのどうでもいいのかもしれない。
「で、あなたは何しに来たわけ?」千夏が切り出す。
「それは、せっかく告白したのですから。デートでも行こうかなと、お誘いに来たのですが…」
再び二人の間に沈黙が生まれる。
「告白した…?」
でも今度は理央の思考回路がバクってしまった。
キッチンから包丁を手にした理央は
「もう一回ぐらい殺し合いしますか?」
「え、?さっきはもう終わりみたいな流れだったのに…」
急に理央の足蹴りで玄関の外まで飛ばされた千夏。
それから第2ラウンド始まった。
「ここは、私だけのみっちゃんとのテリトリーだから。
絶対にみっちゃんわわたすものか。」
千夏も負けじと、起き上がり、
「一度負けた相手にひさくんなんて渡さないから。」
二人の刃は火花を散らし合う。
武器としての性能では理央が圧倒的に不利なわけだが、両者互角の戦いを見せる。
お互いの刃が両者ともの首をとらえた瞬間、一人の強者にやって二人とも頭から抑えられ、地べたに頬を擦り付ける。
「朝起きたら、理央がいないと思ったら何してるのお二人さんは…。身内どうしの戦いはごめんだぞ」
そこに現れたのは絵里だった。
「こんなやつ、仲間じゃない。なんで私を殺したやつが仲間になっているんですか?
副司令官、」
「千夏君、確かに君の言っていることもわからなくはない。困惑して当然だろう。
でも、今は理由を聞かずに素直に受け止めてくれ。」
「…」千夏の表情は納得していないが、家系的に幼い時から階級の意識が強すぎるせいか、上官には逆らうことはない。
「理央も、感情的になりすぎだ。」
「だって、泥棒狐が…私のみっちゃんを、」
「理央、あの時の契約は守ってあげているんだ。これ以上の面倒ごとは無しじゃなかったけ?」
「うん…。」絵里の言葉に素直にうなづいた。
「で、?どうして二人は道久の家の前なの?」
「私はみっちゃんの朝ごはんを作っていて.」
「私はひさくんをデートに誘いに来たと言うわけで」
それを聞いた絵里は不思議そうに、
「今日は道久いないぞ、私が仕事を与えたからな」
それを聞いた二人の顔は愕然としていた。
「なんでもっと早くいってくれなかったのよ。お姉ちゃん」
「私だって聞いてませんよそんなの」
「あれ、千夏は知らなかったっけ?前に凛に伝えたはずなのに、」
「凛さんのバカ、
いや、もしかしてわかってて言わなかった中のか。」あの人ことだ何か企んでいるのに違いない。
「で?今どこにいるのひさくんは?
副司令官?」
こっそり耳打ちするように千夏は絵里に話しかける。
「ちょっと、私だって知っているからね。一応関係者だから。二人だけで話さないでよ。」
理央が不満そうに言う。
「道久なら、マナと任務だけど」
「あの子ですか…」千夏は会えないと言う状況に絶望していた。
それとは別に理央は
「なら、まぁいいか。マナちゃんはいい人だし優しいし、私はみっちゃんの2番目ぐらい好きだから。安心して任せられるよ?
私ご飯の支度に戻るねお姉ちゃん」
千夏には理央がこんなにもマナという子のことを信用していたために驚いた。
千夏は彼女と道久との関係に少し心配していた。なぜかってそれは、自分も元々パートナーという立場であったからだ。
パートナーは一番近くで寄り添い合う、運命共同体。
私はそんな中でひさくんに惚れてしまった。元々幼馴染ということもあったけど、二人で任務をこなすことは正直楽しい。
日常だって…話すだけでも私には幸せだ。
だから体育祭の時の二人のやりとりは私にとってとても羨ましかった。
マナがもしかしてひさくんとこと何好きなんじゃないかと何回もあれから頭をよぎってしまった。